12 迫る危機
宮殿に戻った俺を待っていたのは、いつにも増して重苦しい空気だった。側近や大臣たちの視線が、チクチクと突き刺さる。まさか──。
「お前たちどうした? そんな面構えで」
気負った様子で問うと、側近の一人が前に出た。
「テレンス様。外の者と関わりを持つとは、いかがなものかと」
「……どういう意味だ」
「身分の低い娘と……噂では大層な仲だとか」
「……ッ!」
思わず身体が強張る。どうやら、ルォシーとの関係はすっかり筒抜けになっていたらしい。皆の目が、非難と嫌悪に満ちている。
「ま、待て。彼女とは確かに──」
「お言葉ですが」
さらに大臣が口を挟んだ。
「皇太子たるお方が、賎民の娘と付き合うなど、言語道断。御身が乱れると国が傾きかねません」
「余計な世話だ。俺の私事に口を出すな」
「それでも、国の象徴たるあなた様が軽はずみな行動に及べば、国民は不安に陥ります」
手厳しい言葉の数々。事実、俺の振る舞いが国家に影響するのは必至だ。
「軽はずみ、か……」
「他国から見れば、リューシエの威厳が揺らぐ。ご公務に差し障ります」
口々に忠言が飛ぶ。俺が黙り込むと、側近が渋い顔で進言してきた。
「テレンス様。しばらくは、外出を控えめになさるのが賢明かと。国民の信頼を取り戻すためにも」
眉間に皺を寄せて、悔しげに唇を噛む。確かに、俺の立場では自由気ままに行動するわけにはいかない。だが、彼女を諦めるなんて……。
血の味がした。
「皇太子としての責務をお忘れなきよう。そろそろお目覚めになるべきです」
「……わかった」
痛い選択を突きつけられ、俺は重い足取りで自室へと戻った。
窓辺に立ち、遠くを見やる。見えない壁が、俺とルォシーの間に立ちはだかっているようだった。
「正義とは何だ」
自問自答を繰り返すが、答えは見つからない。俺には、皇太子としての宿命がある。
愛する人を守ることと、国を守ることの板挟み。二律背反の狭間で、俺の心は引き裂かれた。
「ルォシー……すまない」
囁くようにつぶやいた言葉は、虚しく風に舞う。果たして、俺たちの恋の行方はどうなるのか。
再び重いため息をつき、ベッドに倒れ込んだ。
そこへ、控えめにノックの音がした。
「ダレスなら入れ」
「失礼します」
最敬礼するのはダレスだった。冷静な面持ちで申し上げる。
「極秘でございます。実は、ルォシーさまが宮中に召喚されました」
「何だと!?」
「……噂がついに御神の耳に入ったようで」
その事実に、俺は耳を疑った。だがダレスは冗談も嘘も言わない男だ。
「駄目だ! ルォシーが危ない!」
荒々しく髪を掻き毟り、雷にうたれたような手足を起こして走り出す。
今はただ走れ。周りからどう思われようと、愛する人を守らねば。
「俺が必ず──」
もう心は決まった。来るところまで来たのだ。
俺は何が在ろうと彼女を守る。
運命の歯車が大きく動き始めた瞬間だった──。
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