自慢の友人
誘拐犯を全員倒した後。衛兵を呼び、誘拐犯は逮捕された。諸々への配慮のため、この一件は表沙汰にはされず、関係者には緘口令が敷かれた。こうして誘拐事件は誰にも知らぬまま、無事に幕を下ろした。
しかし一難去ってはまた一難。俺たちはまたしても面倒事に巻き込まれることとなる。
新入生が入ってきたこの時期。学校は部活動勧誘で大いに賑わっていた。
この学園は生徒の自主性を重んじる校風で、部活動が非常に盛んだ。魅力的な部活動・同好会が多数存在し、どの部活に入ろうか、大半の新入生は頭を抱える。
俺たちとて例外ではない。
「クレインとオロチはどの部活にするか決めた?」
放課後。人がまばらの教室で、シキが俺たちに尋ねる。
雨降って地固まるというべきか。誘拐事件をきっかけに俺たちは仲を深め、放課後にだべることも珍しくなくなった。
「俺は悩み中」
「僕は今んところは帰宅部かな」
俺たちの答えを聞き、シキが何かを言おうと口を開く。しかしシキが喋り出すより一呼吸早く、背後から突然声をかけられる。
「シキ、ちょっといい?」
話しかけてきた人は、金色の髪と翡翠の瞳が特徴的な美少女だった。どことなく誰かに似ている気がする。
少女の後ろには、2名の男子生徒がさながらSPのごとく控えている。2人の男子生徒は顔も体つきも見分けがつかないほどそっくりだ。後から聞いた話なのだが、2人は双子らしい。
「ルリ御姉様!わざわざ1年生の教室まできて、何か用?」
ん?ルリ御姉様?
つまりこの少女は、シキの姉なのか。言われてみれば、華やかな容姿がよく似ている。
「単刀直入に聞くわ。シキ、生徒会に入る気はない?」
ルリの腕には生徒会長と記された腕章が付いている。ということは、ルリは生徒会長なのか!姉妹揃って優秀だ。後ろの2人にも、副会長と書記の腕章が。
つまるところこの3人は、今年の主席であるシキを生徒会に勧誘しに来たというわけだ。
生徒会は優秀な生徒のみが入れる、全生徒の憧れる栄職。シキも他生徒と同じく、生徒会に入りたいのだろうか?
「嫌よ。姉様と一緒の部活とか、なんか気恥ずかしいですし」
断る理由がめちゃくちゃ思春期だ。
「そう。まぁ、シキはそうだろうと思ったわ」
ルリもシキが断るのは予想していたようで、気に留める様子はない。姉なだけあり、流石の理解度だ。だが用件はこれだけではないらしい。
ルリは冷たい眼差しで俺とオロチを一瞥するなり、窘めるように話す。
「今日来たのは、妹が平民と仲良くしているという話を聞いたからなのだけど…。事実のようね。身分を考えなさい、シキ。貴方は王族なのよ。こんなドブネズミたちではなく、もっと相応しい人間と関係を築きなさい」
ドブネズミとは、なかなか酷い言いわれようだ。しかしこの発言に一番怒りを覚えたのは俺でもオロチでもなく、シキであった。
「この2人は私の自慢の友達です。今すぐ発言を撤回してください」
シキはニコニコと笑顔を繕っているが、目が全く笑っていない。笑顔の裏から殺意が漏れ出ている。
この辺だけ、空気が10℃下がってないだろうか?
「事実を言ったまででしょ」
「くだらない偏見のどこが事実よ。この2人は私よりもずっと強いわ」
シキの言葉から敬語が消え、語気から憤怒が感じられる。シキの剣幕に押されつつも、ルリは負けじと提案する。
「そこまでいうなら、その2人が本当にあなたに相応しいかどうか、姉として試させてもらうわ。貴方たち3人と私たち3人のチームで、魔法戦をしましょう。私たちが勝てば、シキは2人と縁を切って頂戴」
魔法戦とは、その名の通り魔法を駆使して戦闘だ。
「私たちに勝負を受けるメリットがないじゃない。私たちが勝てば、1つだけなんでもお願いを叶える。これでどう?」
「構わないわ。でもついでに、私たちが勝てばシキは生徒会に入ることも条件に加えてもいいかしら?」
負ければどんなお願いも1つだけ叶える条件を即座に了承するとは、ルリは随分と大きく出たものだ。余程自信が有るのだろう。
「クレイン、オロチ。私はこの姉を黙らせたい。姉妹喧嘩に付き合ってもらえるかしら?」
シキが尋ねてくる。俺としては、不用意に目立つことは極力避けたい。
しかしシキは俺たちのことを庇い、自慢の友達と断言してくれたのだ。ここで逃げて、何が自慢の友達だ。
俺とオロチは、同時に答える。
「「あぁ。問題ない」」