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地獄の行燈

俺とオロチがシキと合流した時、なんとシキは独力で敵を倒していた。そして更に驚くべきことに、シキは時間魔法を習得していた。男子、三日会わざれば刮目して見よなんて言うが、女子は30分会わざればそうらしい。まぁ、女性は30分と言わず、メイクを落とせば5分で別人になるらしいからな。

合流した後は、オロチの提案でどこかで身を潜めないかと提案し、俺が居候しているタイガの屋敷に移動した。


本来数時間かかる距離だったが、タイガの屋敷はマーキングしていたので、空間魔法を使って一瞬で到着した。休む間もなく、3人で情報を整理する。

「シキは暗殺されかけたんだよな。理由に心当たりはないか?」

俺が尋ねると、シキは顎に手を置き、困り顔で答える。

「王族っていう立場上、命を狙われることは日常茶飯事なのよね。新人の従者が暗殺者だったとか、あるあるよ」

そんなあるある聞きたくなかった。

「シキを襲った連中は、国王直属の秘密部隊”黒い犬(モーザ・ドゥーグ)”だ。テロ組織のボスだった時は、手を焼かされたよ」

オロチの発言に、シキは驚きを見せながらも納得した様子で手を叩く。

「”黒い犬(モーザ・ドゥーグ)”。噂だけの存在だと思っていたけど、彼らが”黒い犬”なら納得ね。一騎当千の実力。任務の為ならどんな犠牲も厭わない忠誠心。それなら必然的に、私を暗殺しようとした黒幕も見えてくる。私の義兄で、この国の王。フェネック・カルデアね」

「義兄?シキを殺そうとしている奴は、シキの親戚なのか?」

戸惑う俺を、オロチが諭す。

「王族の家名である『カルデア』は、古語で『心臓』を意味する。由来は、王家は国家の心臓だから。そして、心臓は最も血の流れる器官だから。王族はそれほどに血生臭い一族ってこと。血で血を洗う権力争いなんて、珍しくもなんともない。特にフェネック国王の権力への執着は、もはや病気だ。(おの)が身を揺るがす疑念が少しでもあれば、両親も兄弟も容赦なく殺す」

シキはこくりと頷き、補足する。

「あの人はこれまで、謀反の容疑で肉親を何人も殺してきた。大方、私がクーデターを企んでいるってデマを吹き込まれたのでしょう。もし私がまだ生きていると分かったら、あいつは私に国家転覆罪にして、どうにか捕まえようとするはず。無実を訴えたところで、国王が宣すれば雀の千声鶴の一声。白も黒に変わる。真っ当な手段じゃ、冤罪は覆せない。どうしたものかしら」

シキが話し終わったと同時にトントンと扉が叩かれ、老紳士を絵でかいたような男性が現れる。

その老紳士こそ、この家の主であるタイガだ。

「先ほど『シキ王女が”蠢く蛇”を裏で操り、クーデターを目論んだ容疑があるため、見つけ次第捕まえよ。生死は問わない』という内容の勅令が下されました。シキ殿を匿えば、私も共犯と見なされる恐れがあります。告発するつもりはございませんが、即刻この屋敷から立ち去るよう願います」

タイガは諭すように丁寧に、それでいて反論を許さない冷酷な口調で言い放つ。

タイガは平民の出ながら、その優れた商才で国内随一の資産家となり、貴族へと昇格させられた天下の大商人。

タイガが商売人として大成した所以は、リスクを何より嫌う徹底した合理主義。下手を打てば首が飛びかねない王家同士のいざこざに、首を突っ込む気はないのだろう。

「もう手を回されたのね、あのチキン野郎が。迷惑かけたわ、タイガ殿。すぐに立ち去ります」

シキはそう言って立ち上がろうとするのを、オロチが制止する。

「なぁ、タイガさん。商談があるんだが」

オロチは右手の親指を人差し指で丸を作り、あくどい笑顔を見せる。

「僕は今、革命を起こしたいと考えている。どうだい?君も一枚噛まないか?」

俺もシキもタイガも、オロチの驚愕の言葉に声も出せずに固まる。

「ちょっと!革命なんて、馬鹿じゃないの?」

シキの当然とも言える指摘を、オロチはバッサリと否定する。

「この国の今の状況は、例えるなら破裂寸前の風船。王家貴族が好き勝手し過ぎて、国民は強い不満を抱えている。爆発は秒読み。目に一丁字もないガキだった僕が、”蠢く蛇”なんてテロ組織を設立できたのがいい証拠。革命の下地はとっくにできている。僕ら3人なら、この国をひっくり返すことは可能だ」

俺とオロチが手を組めば、戦力は十分。王女のシキが旗を掲げれば、やり方次第で国民の支持も集められる。

確かに、不可能ではない。だが問題は──

「だが本当の問題はその後。革命が成功しても、物語みたくハッピーにエンドするわけじゃない。ひっくり返った国を、まとめる誰かが要る。その役目、タイガさんが適任だ。以前、僕は個人的興味から君を調査した。君なら、出自も実力もコネクションも申し分ない」

タイガの出自は平民だ。王族や貴族ではないから、国民も受け入れやすい。今の政治にも関わっているため、政治の経験もある。何より、天下の大商人としてのコネクション。

確かに革命後の混乱した国をまとめるのに、これ以上の適任はいない。

「革命が成功し、国の指導者としての椅子に座れたら、それはもう莫大な富を得られる。拝金主義者の君にとって、夢の報酬だろ?」

「貴方の主張は分かりました。しかし私は革命なんてハイリスクな商談に手を出すつもりはありません」

「いいや、君はこの商談を断れない。言ったろ?君を調査したって。君は幼い頃、父親を酔った貴族に殺された。証人も状況証拠も揃っており、その貴族は捕まる―――はずだった。その貴族は金と権力に物を言わせて警察の調査に介入し、事件は闇に葬られた。君の父親を殺した男は今ものうのうと生きている。それからあんたは金を集めた。もう二度と、理不尽な力に屈しなくて済むように。理不尽に対抗できるだけの力を得るために。思い出せ!あんたが本当に欲しかったものはなんだ!?」

オロチは凄まじい剣幕で話す。場の雰囲気は、オロチによって完全にコントロールされていた。

長い沈黙の後、タイガはボソリと喋り始める。

「親父が死んだ事件の真相が隠蔽された時に、私はこの世界の仕組みに気づいた。この世は地獄で、地獄の沙汰は金次第だと。私は地獄を生き抜くために、死に物狂いで金を集めた。だがもし革命が成功すれば、この地獄は終わるのか?」

「あんた次第だ」

オロチは挑発的に口角を上げる。タイガもまた挑発を返すように、すっと口角を上げる。

「よかろう。私は貴方たちを、最大限支援する」

タイガが右手を差しだし、オロチも同じように右手を差し出して握手する。

「商談成立だな」



 「それで、オロチ殿。どうやって革命を起こすつもりで?」

タイガが尋ねると、オロチはけろっとした顔で言い放つ。

「それは、これからクレインが考える」

「はぁっ!?俺が考えるのかよ!」

革命をするということ自体、俺はつい先ほど聞いたばかりだ。計画などあろうはずもない。

「1週間後の建国記念日に、フェネック国王は国民の前でスピーチを行うわ。かなりの数の国民が王宮前の広場に集まるはずよ」

「仕掛けるなら、そこがベストだな。猶予は7日。……こんなのはどうだ?」

俺は思いついた作戦を大まかに伝える。

「諸々を考慮したら、これがベストだと思う。時間がネックだけどな。出来るか?」

オロチとシキとタイガの三人は、即座に頷く。

斯くして、国を揺るがすクーデターが動き始めた。

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