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ウォーミングアップ

 凍てつく寒さも落ち着きを見せ始める、2月中旬。

進級を決める、学期末試験の時期だ。1年生の学期末試験の内容は毎年同じで、クラス内での紅白戦。学校が所有する無人島で戦い、先に相手チームの拠点を陥落させた方の勝ち。制限時間は60分で、制限時間内に勝敗が付かなかった場合は、タイムアップ時での脱落者が少ないチームの勝ちとなる。

生徒には安全のため転送魔法が施された紙が配られ、紙が破れると生徒は脱落者ゾーンに転送される。いかなる理由があろうと、脱落者の復活は不可である。

クレインとシキは赤チームに。オロチが白チームに組み分けされた。


「クレインはオロチの対処を頼むわ」

試合前の作戦会議にて、シキがクレインに指示する。

「白チームはオロチさえいなければ、あとは私だけでもどうにかなる。時間稼ぎでいいから、オロチを戦場から引き離してちょうだい」

「あぁ、構わない。つーか、どうせそうなる。あいつは学校の成績に頓着ないからな。俺と闘うことを優先するはずだ」

「どうしてそう思うの?」

「オロチは絶対的な強さを持つ。その強さゆえ、この平和な時代には対等に戦える相手がいなかった。オロチはずっと飢えているんだよ。持ちうる力を余すことなく発揮できる好敵手に。だからオロチはずっと、俺と闘いたかったはずだ。けれども、これまでは本気で闘う機会がなかった。オロチが”蠢く蛇”のボスだった時も、俺とオロチは敵対こそしていたが、互いの強さが分かっているから下手に手出しできず、命を削るほど激しく戦う機会はなかった。オロチがこの機を逃すはずがない」

「理屈は分かるけど、クレインの想像に過ぎないようにも思えるわ。断言できる根拠は何?」

「俺もそう思っているからだ。もしかしたら、俺の方が闘いたがっているかもな。1000年ぶりに、全力を出して戦えるんだ。滾ってしょうがねぇよ」

シキはクレインから漏れ出た獰猛な戦意に気圧され、息をのむ。シキの目には、クレインがどんな魔獣よりも遥かに恐ろしく映った。

「まぁそういう訳だから、オロチの相手は言われずとも俺がする。だからオロチとの決着がつくより早く試験が終わらないよう、じっくりやってくれ」

「善処するわ。そろそろ試験開始ね」

シキが時計を見ると同時に、無人島全体に響くほど大きな声でアナウンスがされた。

「これより学年末試験を開始する。始め!!」

試験監督の先生が試験開始を合図する。それと同時に、ドンッと地面が少し揺れる。

間違いない。オロチが地面を蹴った、その反動だ。

「豪気な奴め。俺も行くか」

クレインも地面を蹴り上げ、真っすぐオロチのところへ向かう。

数秒後。

無人島の真ん中でクレインとオロチが、2人の怪物が激突する。

オロチはクレインに目掛けて高く跳び、踵落としをする。クレインは右に転がって間一髪で躱し、クレインの足は地面に突き刺さる。

踵落としの威力はすさまじく、ベキベキと地面を割ってしまう。人の足ではなく、隕石が落ちたかのような衝撃だ。

「おおっと。踵を下ろせば割れるなんて、地面ってのは脆くて困る。ここじゃ戦うのに気を遣うな。場所を移そう」

そう言うとオロチはくるりと身を捻って、回し蹴りをする。クレインは咄嗟に左手で受け止めるが、威力を殺しきれず、無人島の端にある大きな湖までぶっ飛ばされる。

「全力でガードしたのにこれかよ。人の骨をクッキーみたく折りやがって」

クレインは魔法によって湖の上に立ち、折れた左腕を治癒する。

オロチはその様子を見ながら、勝ち誇ったように言う。

「やっぱりな。単純な殴り合いなら僕に分がある。近接戦闘はどれだけ身体を強化できるかの勝負。身体強化は単純な魔法だ。技術ではなく、魔力量がものをいう。魔力量なら、僕は誰にも劣らない。悪いけど、容赦はしないよ。君は不死身だから、殺す気で殴れる」

オロチの言う通り、魔力量の差は圧倒的。普通に考えて、クレインに勝ち目はない。

しかしクレインは手招きをして挑発する。

「御託はいいからかかって来いよ。そういうの、フラグっていうんだぜ」

「口の減らない…!」

オロチは一瞬にしてクレインと距離を詰めると、絶え間なく殴り続ける。傍目では矢鱈滅多な乱打に見えるが、オロチの底なしの魔力により拳は強化されているため、パンチ一発一発に数トンの鉄球と等しい重量がある。直撃どころか、掠っただけで命の危ない。

しかしクレインは一切の無駄がない流麗な動きで、盲打(めくらう)ちを見事に捌く。オロチは驚きつつもギアを上げ、更に速く乱れ撃つが、クレインは幼児を相手にしているかのように軽くいなす。

痺れを切らしたオロチが大振りのパンチをすると、クレインはオロチの腕を掴み、パンチの勢いを利用して投げ飛ばす。

身体強化の差は圧倒的なはずなのに、攻めきれないどころか投げ飛ばされた事実に、オロチは困惑しながらも楽しそうに笑う。

「マジかよ!どうやって僕の動きを見切った?」

「俺には1000年もの時間があったんだ。極めたのは、何も魔法だけじゃない。相手の動きを見切り、的確にいなし、時には相手の力を利用する。そういった体術も僕の十八番の1つだ。自慢だが、普通の魔術師なら魔法を使わずに倒せる。さて、そろそろ準備運動は済んだか?死抜き(不死身)だけに、死ぬ気で来いよ!」

「誰が上手いこと言えって言った!!」

クレインとオロチは、同時に同じ魔法を発動する。

「「音魔法”無人の音楽隊(ブレーメン)”」」

2人が魔法を発動すると同時に、どこからともなく格調高い行進曲が流れ始める。

”無人の音楽隊”。音楽が演奏される6分17秒の間、一時的に魔力の出力を爆発的に上げる魔法。


雷鳴に似たラッパの音に合わせて、2人の怪物は動き出す。

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