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懐かしの味

 シキが時間魔法を習得するため、俺たちは時間があれば集まって特訓をするようになった。

シキの成長は俺の予想を遥かに上回っており、冬休みに入るころには時間魔法を習得するのも夢物語ではなくなっていた。

冬休みに入って授業が無くなったので、朝から晩まで稽古をつける日さえあった。

今日も朝から特訓していた。日が真上に上り、腹の虫が鳴る時間になったので、休憩がてら学校の近くにある小さな定食屋で昼食をとることにした。

俺はピザ。オロチはアジフライ。シキはステーキを注文した。

「ここのステーキ、食べてみたかったのよね。癖のある独特の食感がやみつきで人気だけど、限定品だからなかなか食べられなかったのよ」

シキが満面の笑みを浮かべて言う。どうやら、結構楽しみにしていたようだ。

しかしふと真顔になって、喋りだす。

「そう言えば、最近学校の周辺で少女の失踪が頻発しているじゃない。そのせいで、私は6時に迎えの馬車が来るから、今日の特訓はそこまででお願い。もしよければあんたらもついでに送ろうか?」

「いや、いいよ。反対方向だからな」

「僕もいいや。ところで、修行は順調?僕から見ると、シキは魔力の無駄もかなり無くなったし、相当成長したように思えるけど」

確かに、シキはここ半年で期待以上に成長した。最初の頃とは別人と言ってもいい。だが…。

「最近ちょっと頭打ちなのよね。スランプ?なのかしら」

「成長したからこそぶつかる壁にぶつかっている。だが、もう十分強くなった。技量に関しては言えば、時間魔法を使える最低限のラインは超えているはずだ」

「本当!?じゃあ、なんで私は時間魔法を使えないの?」

「技量が備わったからと言って、すぐに魔法が使えるわけじゃない。イメージが出来ていないんだ。時間を操る具体的なイメージがないと、時間を操る時間魔法が使えるわけがない。実は、これが一番時間がかかる。炎や氷のように視覚的なものなら兎も角、時間ってのは概念だ。形のないものを操作するイメージは難しい。これからは時間を操るイメージが湧くよう、インスピレーションを探す必要がある」

インスピレーションの種はそこら中に転がっているが、得ようとして得られるものではない。インスピレーションが降ってくるというのは、道に落ちている硬貨を見つけるようなものなのだ。死の淵に瀕すれば、感覚が研ぎ澄まされ、インスピレーションを得ることが度々あるが、そんな体験をさせるわけにはいかない。

恐らくここからは、これまでのように順調にはいかないだろう。シキは優秀だがまだ若く、経験が不足している。インスピレーションに最も重要なことは経験だ。


「お待たせしました。当店自慢の、限定ステーキでございます」

暫くすると、シキが注文したステーキが運ばれてきた。

ちょうどそのタイミングでシキはトイレに行っており、席を外していた。

オロチはステーキの匂いを嗅ぐと、お気に召したのかナイフとフォークを持って一口サイズに切る。

「おまっ!それシキのだろ!」

「一口だけだから。僕のアジフライも一口あげるから」

「そういうのは許可をとってからだなぁ。っておい!2口目にいくなぁぁ!!」




「さて、戻ってきたら私のステーキが無くなっていた件について、詳しく教えてもらっていいかしら?」

トイレから戻ってきたシキはステーキが無くなっていることに気付くと、穏やかな笑みを浮かべて尋問を始めた。これはガチで怒っている時のやつだ。なんで笑顔がこんなにも恐ろしく映るのだろう?

「クレインが全部食いました!」

この野郎!速攻で俺に罪を擦り付けてきやがった!

「口にソースをついているわよ」

「え!しくった!」

「嘘よ。カマかけただけ。弁明があるなら聞くわよ」

これ、聞いてくれない時のやつだ。

「いじめは見て見ぬふりをした奴も同罪だ。それと同じ論理で、クレインも同罪にならないでしょうか?」

最後の悪あがきで、俺を道連れにしやがった。こいつ、まじ許さねぇ。

「勿論、クレインも後でちゃんと処罰を下すわ。さて、遺言はそれでいいかしら?オロチ」

道ずれにされるまでもなく、俺も怒りの対象だったらしい。


結局、昼飯代を全部オロチが持つことで手を打ち、シキはオロチが注文したアジフライと、追加でパフェを食べた。

店を出ると、隣にいるオロチが俺にしか聞こえないような声量で話しかけてくる。

「君に頼みたいことがある。少女の失踪が頻発している件だ。あそこの定食屋の店主が犯人だ。タイガさんにでも頼んで、警察に調査してもらってくれ」

「はぁ!?あそこ店主が失踪事件の犯人?何を根拠に言ってんだ?」

俺は仰天し、根拠を問う。するとオロチは苦い顔をして言った。

「あそこの肉、人の味がした」



その夜、警察はその店を捜査し、店主とその妻が殺人罪で逮捕された。

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