罪と罰と賞
「国王らを皆殺しにした後、俺は山に籠った。山で暮らしながら、自分の行いについて考えたよ。正直な話、俺は国王たちを皆殺しにしたことについて、後悔はしていない。もし過去に戻れるとしても、俺の行動は変わらない。でも間違いだとは思っている。不死の俺には、死んで償うことは出来ない。だったら、善行をして償うしかない。それから俺は各地を旅してまわり、魔族の生き残りを退治したり、人助けをして回った」
以前、俺はオロチに対し、生きて償うように言った。あれは何も、オロチだけに向けて言ったのでは無い。他でもなく、自分自身に向けて言ったのだ。
「そうか。それで、君はどうしてこの国の衛兵になって、魔法学校に通っている?」
「1年前くらいに、偶然馬車が盗賊に襲われている場に遭遇してな。助けたら、馬車に乗っていた人が、タイガっていうこの国の貴族で。ぜひお礼がしたいからと、邸宅でご馳走してくれたんだ。その流れでタイガさんが俺を食客として養ってくれることになった。そしたら国が『蠢く蛇』っているテロ組織に悩まされていたから、人助けに一環として衛兵に力を貸した」
「なるほど。それにしても、君の居候先がタイガだったとはね」
「タイガさんを知っているのか?」
「筋金入りの拝金主義で、一代にして国内指折りの資産家となった天下の大商人。稀有な商才を国王に買われ、平民から貴族に昇格した異色の経歴を持つ。知らない人の方が珍しい」
「単純な疑問なのだけど、クレインは不死の魔法を解きたいとは思わないの?」
シキがしずしずとに尋ねる。
「思っている。1000年という時間は、人にとってあまりに長い。日を刻むにつれて、毎日が薄く淡白なものになっていく。最近は、お前らのおかげで楽しいけどな。でも、俺からすればその時間もあっという間に過ぎて、俺一人だけが取り残される。普通の人間に戻りたいと、何度も願った。でも無理なんだ。俺には不死の魔法を解除することができない」
「不死の魔法をかけたのはクレイン自身なんでしょ?どうにかできないの??」
「不老不死の魔法の解除には、2つの大きな障壁がある。莫大な魔力と、時間魔法。俺は魔力量に関しては並みだ。不老不死の魔法を解除できるほど、莫大な魔力は賄えない。だが本当の問題は、時間魔法だ。不老不死の魔法を発動するため、俺は”生贄の儀”を利用し、対価を払った。その対価ってのが、時間魔法を二度と使えなくなること。だが不老不死の魔法を解除するには、どうやっても時間魔法の力がいる。俺に出来ないなら他人を頼ればいいと思うかもしれないが、それも無理。時間魔法は、空間魔法と並んで神級魔法に属する、最も難しい魔法だ。1000年間生きてきたが、俺は時間魔法を使える奴を見たことがない。多分、不老不死の対価が時間魔法を使えなくなることなのは、不老不死の魔法を自力で解除できなくする意味があるんだと思う。じゃないと、対価として軽すぎる。不老不死の対価が、不老不死で居続けるなんて、笑えるよな」
俺の発言に、オロチとシキは黙りこくる。場に流れた重い沈黙を和らげようと、話題を変えようと考えるも、適切な話題は思い浮かばない。
俺が悩んでいると、オロチが気まずい静寂をあっさりと切り裂いた。
「じゃあさ、僕らでその魔法を解除しようぜ」
オロチの発言に、俺もシキも意図が分からず固まる。
「不死の魔法を解除するには、莫大な魔力と時間魔法なんだよな。膨大な魔力に関しては、僕の”愚人の蒼玉”を触媒に使えばどうにでもなる。あとは時間魔法を使える奴がいればいい」
「時間魔法を使える奴に、何か当てがあるのか?」
俺が尋ねると、オロチはあっけらかんと言う。
「シキがいる」
「えっ、私!?」
急に名指しされ、シキは目を丸くして驚く。
「シキの才能は本物だ。神童と呼ばれるだけはある。クレインが指導者としてシキを修行につければ、時間魔法の習得も不可能じゃない。知らんけど」
そこは嘘でも断言して欲しかったな。
「でもそれなら、私よりもオロチの方が適任じゃない?オロチの方が強いわけだし」
シキが指摘すると、オロチは頭を振って否定する。
「僕の強みは膨大な魔力量だ。雑な力押しで勝てるから、技術を極める必要がなかった。正直、技術に関してはシキの方が上手だ」
オロチの言うことは一理ある。
シキの潜在能力は、俺がこの1000年間で見た中でも群を抜く。不老不死を解除することを半ば諦めていたから思いつかなかったが、シキなら時間魔法を会得しうる。無論容易ではないだろうが、無謀でもない。だが──
「確かに、シキなら時間魔法を習得できる可能性はある。でも、相当な時間を要するだろう。俺の予測だと、5年くらい。もっとかかる可能性もあるし、習得できないかもしれない。最悪、シキの才能を、ドブに捨てることになる。やるかやらないかは、シキがちゃんと考えて決めろ」
勿論俺としては、シキに時間魔法を会得して、俺にかかった不老不死の呪いを解いてもらいたい。だが俺がそう言えば、シキは間違いなく時間魔法の会得する道を選ぶ。強制させるようなことはしたくない。
俺とオロチの視線が集まる中、シキは硬い意志を感じる強い口調で切り出した。
「私は、クレインやオロチと肩を並べるほど強くなりたい。私だけ2人に劣っているなんて嫌だ。でも、私と2人の間には絶望的な差があることが分からないほど、馬鹿じゃない。この差は多分、普通の方法じゃ埋められない。それこそ、時間魔法なんて神話級の魔法を体得しない限り。だから、クレインとオロチ、お願い!私のために、私を指導して」
そうお願いされてしまえば、断るわけがない。
「決まりだな。いつから特訓する?」
「2人はこの後、何か予定有る?」
「俺は無い」
「僕はガールフレンドとカフェでデートのよて」
「予定はないのね。なら今から特訓しましょう」




