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1人の魔族

 むかしむかし。魔王が世界を脅かしていた。

人類は魔王の脅威を斥けようと奮闘した。しかし魔族は戦闘に特化した種族。抵抗虚しく、人類は蹂躙された。

そんな時、クレインという優秀な魔法使いが現れた。彼は魔王軍を討滅するため、1つのアイデアを思い付いた。

それは彼が不死となることだ。

殺し合いにおける敗北とは、言うまでもなく死。裏を返せば、死なねば負けない。

彼は『愚人の蒼玉』を駆使し、かつ大きな対価を捧げることで、自身に不死となる魔法をかけた。

そして彼は単身敵地へ乗り込み、魔族を片っ端から殺し回った。魔族は星の数ほどおり、彼は何回何十回何百回何千回何万回も死んだ。その度に何回何十回何百回何千回何万回も生き返り、彼は魔族を葬った。

魔力があるうちは魔法を使い、魔力が枯渇すれば剣を使い、剣が砕ければ拳を使った。

何十万回も生き死にを繰り返し、彼は邪知暴虐なる魔王を討ち取った。

こうして人類は魔王軍の恐怖から解放され、平和な世界を取り戻した。



魔王を倒した後、俺はとある大国の王宮に招待された。なんでも、魔王軍を征伐した褒美をくれるらしい。魔王軍と戦ったのは、富や栄誉のためではなく、故郷を守るためだったのだが、人間とは現金なものである。褒賞が貰えると聞いて、俺は胸を躍らせて王宮を訪れた。

しかし俺を待っていたのは、希望ではなく鬼謀だった。

王宮に着くと、俺は十数名の近衛兵に襲われた。襲われる前に差し出された飲み物に、体内の魔力を乱して魔法を使えなくする薬物が盛られていたらしい。碌な抵抗も出来ず、手足に枷を嵌められ、王宮の中心へと連れていかれた。


「国家の安寧を脅かしたとして、この()()を無期限の禁固刑に処す」

国王は俺に侮蔑の視線を向けながら言い放つ。

俺は意味が分からず呆然自失となった。なにせ俺は正真正銘人間だ。魔族などでは決してない。

「この魔族は真理に叛き、人から魔族に堕ちた。その証拠に、この魔族は如何なる致命傷を負おうとも、すぐに再生する。到底、人間の所業ではない」

国王の補足を聞き、俺は漸く得心した。

人々にとって、死んでも死なない俺は、魔族と変わらない化物らしい。確かに今の俺は、普通の人間とはかけ離れている。魔族と同列に見えても、理解できなくはない。

そもそも魔王軍を独力で壊滅させた俺を、各国が危険視しないはずがない。遅かれ早かれ、各国は俺を新たな畏怖の対象として仕立て上げ、排除しようとするだろう。そうなれば、人々は再び恐怖に怯えて暮らすこととなる。

逆に俺が大人しく幽閉されれば、人々が怯えて暮らす必要はなくなり、世界に平和が訪れる。

俺の苦痛と、世界の幸福。()()()()どちらを優先すべきかなど、考えるまでもない。

他者を慮ることこそ人の誉れ。

俺は刑を受け入れるべきだ。


「っざけんなよ」


腹の底から本音が零れた。

何度も死んで、耐えがたい痛みに耐え、それでも俺は戦った。戦い抜いた。

その結果がこれか?ふざけるな!!

俺が文字通り死ぬ気で戦ったのは、クズ共が嗤うためじゃない!


そう思った時、俺の頭に1つの考えが浮かんだ。浮かび上がってしまった。


他者を慮ることこそ、人の誉れ。俺の苦痛よりも、世界の幸福を優先すべき。───この理論は、俺が『人間』であることが前提の論理だ。

国王や大半の人にとって、俺は不死身の化け物で、分類するなら『人間』ではなく『魔族』らしい。

俺が魔族というのなら、人類の平穏のために幽閉される必要なんてどこにもない。人間を殺すことさえ、躊躇う必要はない。魔族が人を殺す。ごくごく一般的な生得的行動だ。


俺は舌を噛み切ぎり、死ぬ。そして生き返ることで体をリセットし、体内の毒を取り除く。

続いて、俺は魔法で手足を切り落とす。そして生き返り、手足を拘束する枷から外れる。

自由になった俺は、手あたり次第に攻撃魔法を使い、周囲の人間を殺す。

防御魔法には一切手を回さなかった。そのため何度か致命傷を負い、死んでしまった。だが俺には無限の残機がある。死んでは生き返るを繰り返し、阿鼻叫喚する連中を殺す。殺す。殺す。

人間は魔族と比べて脆いから、楽に殺せてストレスがない。雑魚モンスターの群れで無双するのに似た爽快感がある。

楽しい。チョー楽しい。

何度も死ぬ度。何度も殺す度。俺の心臓が一際強く拍動する。プールから上がったみたいな、自由を取り戻した感覚。夢から醒めた時のように、脳が冴えわたる。

ビリビリとした生の実感が、もっと暴れろと囁く。



いつの間にか、隅で腰を抜かしていた国王以外、全員殺していた。

「やめろ!私に手をして無事で入れると思うか!!命が惜しくないのか!!やめ——」

喚く国王の首を刎ねる。

「これで終わりか…いてっ!」

左腕に痛みが走る。見ると、そこそこ深い刺し傷があった。結構出血しているが、死ぬほどではない。

回復魔法を使ってもいいが、ここから逃走するために、少しでも魔力は温存したい。

「死んで治すか」

首を斬り落としす。数秒後。いつものように時間が巻き戻り、俺は生き返る。

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