気が合うかもね
学校初日は入学式と学校についての簡単な説明があっただけで、正午には解散となった。帰宅しようとしたその時。上級性と思しき柄の悪い2名の生徒が、うちの教室に来た。何事かと思っていると、1人が威圧的な態度で喋りだす。
「クレインとオロチって奴がいるよなぁ!?ちょっと面貸せ!」
全クラスメイトの視線が俺とオロチに集まる。
そのまま俺たちは校舎裏へ連れていかれた。校舎裏には更に5名の生徒が俺たちを待っていた。連中の1人が俺たちに近づくと、居丈高に聞いてくる。
「貴様らがオロチとクレインとかいう平民か?」
「そうですけど。君たちはどちらさ、ぐぇっ!!」
オロチが質問を肯定した瞬間、男はオロチの鳩尾に正拳突きをする。オロチは呻き声をあげ、華奢な身体が宙を舞う。オロチはそのまま起き上がることなく、眠ったようにぐったりと地に伏せる。
オロチめ!こいつらの相手をするのが面倒くさそうだから、気絶した振りをしやがった!!
「1発で気絶するとは、軟弱者め。次は貴様だ!」
男はそう吐き捨てると、今度は俺に向かって正拳突きをする。俺は咄嗟に手首を掴んで防ぐ。
「いきなり殴りかかってくるとか、なんのつもりだ?」
「間引きだよ。ここは神聖なシェーンブル国立魔法学校だぞ!?如何なる不正行為を働いて入学したかは知らんが、ここは貴様らのような薄汚い平民が来ていい場所ではない!!もう二度と校門を跨ぐことがないよう、袋叩きにしてやる」
男は俺の手を振り払い、脇を閉めてファインティングポーズをとる。
他の生徒に加勢する素振りはなく、ニヤニヤと笑いながら囃し立てる。助太刀するまでもないと思われているのだろう。
「後悔しても知りませんからね」
俺も足を肩幅開き、手を顔の前に構える。男は俺が喧嘩を買ったことが随分と不快なようだ。フンと鼻息を荒くし、呆れた様子で話す。
「愚かにも抵抗を選ぶとは。俺を知らないのか?俺はクバエ家次期当主、シュモ・クバエだぞ?徒手空拳で俺に勝てると思っているのか?」
シュモは俺の頭を狙い、鋭いパンチを繰り出す。俺がそれを躱すと、今度はフック。その次はハイキックと、息つく暇なく攻めたくる。自信満々なだけはあり、なかなかキレのある動きだ。けれども予備動作が大きく、動きも直線的で読みやすい。
俺は淀みない動きで連撃を淡々と捌く。攻撃が当たらないストレスからか、段々とシュモの挙動は大雑把になっていく。
しびれを切らしたシュモが放った大振りの右ストレートをすれすれで躱し、カウンターパンチを繰り出す。
カウンターパンチは完璧だったが、鼻先が触れるくらいの位置で寸止めする。正直殴り飛ばしたい気持ちもあるが、流石に大人げない気がした。
俺は声に若干の怒りを滲ませ、端的に告げる。
「すみませんが、俺もこいつも退学する気はありません。これで気は済みましたか?」
シュモは負けたことが理解できないのか、間延びした面で放心する。しかし徐々に顔が赤くなり、額に血管が浮かび上がるほど激昂する。まさに怒髪天を衝くといった有様だ。もしかしなくても、怒らせてしまったらしい。
シュモは腰に差した剣を抜く。刃毀れ一つない綺麗な白刃が、太陽光を反射しキラッと輝く。
「図に乗るなよ、陋劣な平民風情が!!!」
シュモは喚きながら、ブンブンと矢鱈滅多に剣を振り回しながら突進する。先ほどの洗練された動きと比べれば、お粗末もいいとこだ。
俺は雑に振り下ろされた剣を側面から殴り、刀身を叩き折る。
「感情に振り回されている限り、お前にこの剣を持つ資格はねぇよ」
狼狽えるシュモの顔面を、今度こそ殴り飛ばす。
図体の割に怺え性がないのか、1発殴り飛ばしただけでシュモは泡を吹いて気絶した。やりすぎな気もするが、真剣で襲いかかったことに比べれば可愛いものだ。
周りの連中は騒然とし、失神したシュモを担いで蜘蛛の子散らすように逃げていった。
「何だったんだ?あいつら」
失神した振りをしていたオロチに尋ねる。オロチはむくりと起き上がり、大きな欠伸をする。こいつ、さては俺が戦っている間、ちょっと寝てやがったな!
「平民が気に入らないから、この学校から僕らを追い出そうとちょっかいかけてきたんでしょ。まったく、面倒くさいにもほどがあるよ。殴られたところがメッチャイタイ」
オロチがわざとらしく腹をさする。
「そういや、殴られていたな。スカッとしたわ」
「僕も君を殴ってスカッとしようかな?」
「つーか、どうせ痛くねぇだろ。パンチに合わせて後ろに跳び、衝撃を緩和していたよな。小器用なことしやがって。しかも殴られる瞬間、シュモの腰ポケットから財布を掏っていなかったか?」
「ありゃりゃ。バレてたか。殴られ代だよ。少し使ったら返すつもりさ。内緒にしてね」
オロチは口の前にばってんを作る。男がやるにはかなり痛いポーズのはずだが、こいつがやると様になる。性癖が狂いそうだから、やめてほしい。
「今から食堂行って、シュモの財布で昼めしを食おう。それなら内緒にしてやるよ」
「いいね。僕も同じこと考えていた。案外、気が合うかもね」