表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/28

気が合うかもね

 学校初日は入学式と学校についての簡単な説明があっただけで、正午には解散となった。帰宅しようとしたその時。上級性と思しき柄の悪い2名の生徒が、うちの教室に来た。何事かと思っていると、1人が威圧的な態度で喋りだす。

「クレインとオロチって奴がいるよなぁ!?ちょっと面貸せ!」

全クラスメイトの視線が俺とオロチに集まる。


そのまま俺たちは校舎裏へ連れていかれた。校舎裏には更に5名の生徒が俺たちを待っていた。連中の1人が俺たちに近づくと、居丈高に聞いてくる。

「貴様らがオロチとクレインとかいう平民か?」

「そうですけど。君たちはどちらさ、ぐぇっ!!」

オロチが質問を肯定した瞬間、男はオロチの鳩尾(みぞおち)に正拳突きをする。オロチは呻き声をあげ、華奢な身体が宙を舞う。オロチはそのまま起き上がることなく、眠ったようにぐったりと地に伏せる。

オロチめ!こいつらの相手をするのが面倒くさそうだから、気絶した振りをしやがった!!

「1発で気絶するとは、軟弱者め。次は貴様だ!」

男はそう吐き捨てると、今度は俺に向かって正拳突きをする。俺は咄嗟に手首を掴んで防ぐ。

「いきなり殴りかかってくるとか、なんのつもりだ?」

「間引きだよ。ここは神聖なシェーンブル国立魔法学校だぞ!?如何なる不正行為を働いて入学したかは知らんが、ここは貴様らのような薄汚い平民が来ていい場所ではない!!もう二度と校門を跨ぐことがないよう、袋叩きにしてやる」

男は俺の手を振り払い、脇を閉めてファインティングポーズをとる。

他の生徒に加勢する素振りはなく、ニヤニヤと笑いながら囃し立てる。助太刀するまでもないと思われているのだろう。

「後悔しても知りませんからね」

俺も足を肩幅開き、手を顔の前に構える。男は俺が喧嘩を買ったことが随分と不快なようだ。フンと鼻息を荒くし、呆れた様子で話す。

「愚かにも抵抗を選ぶとは。俺を知らないのか?俺はクバエ家次期当主、シュモ・クバエだぞ?徒手空拳で俺に勝てると思っているのか?」

シュモは俺の頭を狙い、鋭いパンチを繰り出す。俺がそれを躱すと、今度はフック。その次はハイキックと、息つく暇なく攻めたくる。自信満々なだけはあり、なかなかキレのある動きだ。けれども予備動作が大きく、動きも直線的で読みやすい。

俺は淀みない動きで連撃を淡々と捌く。攻撃が当たらないストレスからか、段々とシュモの挙動は大雑把になっていく。

しびれを切らしたシュモが放った大振りの右ストレートをすれすれで躱し、カウンターパンチを繰り出す。

カウンターパンチは完璧だったが、鼻先が触れるくらいの位置で寸止めする。正直殴り飛ばしたい気持ちもあるが、流石に大人げない気がした。

俺は声に若干の怒りを滲ませ、端的に告げる。

「すみませんが、俺もこいつも退学する気はありません。これで気は済みましたか?」

シュモは負けたことが理解できないのか、間延びした面で放心する。しかし徐々に顔が赤くなり、額に血管が浮かび上がるほど激昂する。まさに怒髪天を衝くといった有様だ。もしかしなくても、怒らせてしまったらしい。

シュモは腰に差した剣を抜く。刃毀れ一つない綺麗な白刃が、太陽光を反射しキラッと輝く。

「図に乗るなよ、陋劣(ろうれつ)な平民風情が!!!」

シュモは喚きながら、ブンブンと矢鱈滅多に剣を振り回しながら突進する。先ほどの洗練された動きと比べれば、お粗末もいいとこだ。

俺は雑に振り下ろされた剣を側面から殴り、刀身を叩き折る。

「感情に振り回されている限り、お前にこの剣を持つ資格はねぇよ」

狼狽(うろた)えるシュモの顔面を、今度こそ殴り飛ばす。

図体の割に(こら)え性がないのか、1発殴り飛ばしただけでシュモは泡を吹いて気絶した。やりすぎな気もするが、真剣で襲いかかったことに比べれば可愛いものだ。

周りの連中は騒然とし、失神したシュモを担いで蜘蛛の子散らすように逃げていった。



「何だったんだ?あいつら」

失神した振りをしていたオロチに尋ねる。オロチはむくりと起き上がり、大きな欠伸をする。こいつ、さては俺が戦っている間、ちょっと寝てやがったな!

「平民が気に入らないから、この学校から僕らを追い出そうとちょっかいかけてきたんでしょ。まったく、面倒くさいにもほどがあるよ。殴られたところがメッチャイタイ」

オロチがわざとらしく腹をさする。

「そういや、殴られていたな。スカッとしたわ」

「僕も君を殴ってスカッとしようかな?」

「つーか、どうせ痛くねぇだろ。パンチに合わせて後ろに跳び、衝撃を緩和していたよな。小器用なことしやがって。しかも殴られる瞬間、シュモの腰ポケットから財布を()っていなかったか?」

「ありゃりゃ。バレてたか。殴られ代だよ。少し使ったら返すつもりさ。内緒にしてね」

オロチは口の前にばってんを作る。男がやるにはかなり痛いポーズのはずだが、こいつがやると(さま)になる。性癖が狂いそうだから、やめてほしい。

「今から食堂行って、シュモの財布で昼めしを食おう。それなら内緒にしてやるよ」

「いいね。僕も同じこと考えていた。案外、気が合うかもね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ