VIXI
”蠢く蛇”の残党による魔法学校への襲撃は、主犯であるハブが撤退したことで幕を閉じた。
そしてこの事件は、俺たちの関係性に大きな変化を齎した。
なんとオロチがシキに正体を明かしたのだ。いや、それだけでない。
襲撃事件の2日後、俺とオロチはシキの部屋に招待された。その場でオロチは、自分が賤民であったこと。”蠢く蛇”を率いてテロを起こし、”怪物”と呼ばれるようになったこと。俺とオロチは、衛兵と犯罪者として、互いを知っていたことなどを、詳らかに語った。
「オロチがあの”怪物”だと、クレインは知っていたのね。だったらどうして、私がオロチの正体だと知らせた時、学校から去ろうとしたのよ」
「万一、クレインやシキが僕を”怪物”と知った上で黙っていたことが露見した場合、僕だけじゃなく君達も罪に問われる。クレインなら最悪それでも大丈夫だけど、シキは違う。シキはクレインと比べて弱っちいからね」
「反論できないのが悔しいわね」
2人の会話は、至っていつも通りだった。寧ろ、今まで以上に和気藹々としている。
前のオロチはどこか一歩引いたところがあり、シキもその一歩を踏み込むことはなかった。
今の2人は、傍から見ても信頼し合っているのがよく分かる。
そのことがとても喜ばしく、羨ましい。
俺も2人のようにありたいと思った。思ってしまった。
「なぁ、少し聞いてくれないか?」
無意識のうちに、そう口に出していた。他の誰でもなく、俺自身が一番驚いていた。
自分が何を話したいかは分かっていいる。俺の下らない過去のことだ。俺は俺の過去を、こいつらと共有したいと思ってしまった。
だが俺の過去など、わざわざ話すようなものでもない。2人にとって俺の過去は、無価値で無意味で無関係だ。
「どしたの?」
シキがこてんと首を横にして尋ねる。
俺は慌てて、「いや、何でもない」と言おうとする。しかしそう言うよりも早く、オロチが先に喋り出す。
「なんの話かは知らんが、話したいなら話せ。君が話したいように、僕らも聞きたい。自分のことを知ってほしいと思うのも、相手のことを知りたいのも、根底は一緒だ」
オロチは俺の心を見透かしたように喋る。その一言で、俺の悩みは鮮やかに紐解いかれた。
「そーだな。それじゃあ面白くはないが、少し聞いてくれないか?」
「えぇ勿論!」
シキは嬉しそうに返事をする。
オロチは…ドヤ顔だ。絵にかいたようにドヤついてやがる。
どこから話そうすべきか。何せ、嫌になるほど長い話だ。とはいえ、これは最初に言っておくべきだろう。
「単刀直入に言うと、俺は不老不死なんだ。今年で1014歳になる。ま、百聞は一見に如かずだ」
俺は風魔法で、自分の首を刎ねる。頭が宙を浮き、血飛沫を散らしながらボトリと頭が床に落ちる。
「「…へ?」」
度肝を抜かれた2人は、アホみたいに口を大きく開ける。
数秒後、時間が巻き戻ったかのように、離れていた胴体部と頭部が繋ぎ合わさり、再生する。
呆然とする2人を置いて、説明を続ける。
「見ての通り、俺は死ない。もっと言えば、死ねない。死んでも、時間が巻き戻って生き返る。俺は1000年ほど前、自分に不老不死の魔法をかけた。具体的に言うと、俺に流れる時間のみを固定する、時間魔法だ。それにより、俺の身体は何が起きようと17歳の状態を維持するようになった。1000年経とうが、致命傷を負おうが、必ず17歳の身体にリセットされる」
「1014歳!?時間魔法!!??不老不死!!!???到底信じがたいけど……今の光景を見せられた以上、信じるしかないわね」
「不老不死の魔法なんて、本当に存在するのか!どうやって発動した?」
「無限の魔力を持つ『愚人の蒼玉』を触媒に、生贄の儀を駆使して発動した」
「なるほど。道理で『愚人の蒼玉』に詳しかったわけだ。君も愚人だったとは。で、どうして君は不老不死なんていう、栄華を極めた権力者が欲っしそうなものを求めた。柄じゃないだろ」
「魔王と倒すためだ」
そして俺は語り始めた。不死の勇者と1人の魔族の話を。




