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祟り目

 俺とオロチは学校から家までの帰り道が、途中まで殆ど同じである。だから大抵の場合俺とオロチは、他愛無い会話をしながら共に下校する。

カンニングについての審議があった翌日の下校も、俺とオロチは一緒であった。

ただその日は、いつものようにくだらない雑談に花を咲かせることはなかった。俺はあることが気になって、会話に集中できなかったからだ。

止むに止まれず、俺は思い切ってオロチに質問を投げた。

「オロチ、どうしてお前は両目を失くしたんだ?」

俺とオロチは今まで、互いのバックグラウンドに関連する話をしたことはなかった。互いの過去は探らないという、暗黙の了解ができたいたからだ。

この質問は、明らかにそれを侵している。

だから俺はオロチがこの質問に真面目に答えることはないと思いつつ、ダメ元で聞いてみた。

しかし返ってきた言葉は意外なものだった。

「そう言えば、君はあの審議を覗き見していたね。…つまらない話になるけどいい?」

俺は内心驚きながら頷くと、オロチは吐息をついて話し始めた。

「この国にはざっくり4つの階級がある。権力が強い順に、王族、貴族、平民、賤民。国民の大概は平民で、『人間』として扱われるのも平民まで。『非人間』である賤民の殆どは、奴隷として売られるか、その前に餓死する。奴隷になった奴も、1年後には大体死ぬ。奴隷となった賤民に、碌な結末はない。そもそも奴隷を買うような奴は大概、きちんとした使用人を雇うだけの財力がある。それでも奴隷を買い求める理由は、『人間』には道徳的に出来ないようなことをするためさ。例えばサンドバッグとか、実験体(モルモット)とか、肉便器とかだね」

オロチの言葉には、泥のようにずっしりとした重みがあった。実際に体験していなければ醸し出すことのできない、生々しい重みが。

「察した?僕の本来の身分は賤民さ。戸籍を弄って、今は平民って事にしているけどね。僕は10歳くらいの時、奴隷商に捕まって、当時の第2王妃に売られた。飼い主は重度の児童性愛者(ペドフェリア)で、中性的で容姿に恵まれていた僕は高値で買われた。言ったろ?『小さい頃はモテた』って。幸い僕は()()()だったから、殴る蹴るみたいな暴行は受けなかった。毎晩、性的暴力には晒されたけどね。思い出しただけで吐き気を催す日々だよ。話を戻そう。僕はなぜ目を失ったのか?昔の僕の目は燃えるような赤色だった。でも飼い主は青色が好きだった。だから僕の目を(えぐ)り取り、新たにこの紺青の義眼を嵌め込んだ。綺麗な目だろ?希少な宝石が惜しみなく使われているらしい。金貨うん十枚はする逸品なんだぜ。僕は目を奪われたことで、誰もが目を奪わる、美しい目を手に入れたのさ」

オロチはそう言うと、不気味なほど蒼く秀麗な瞳を指さす。

「…狂ってる」

俺が思わずそう呟くと、オロチは可笑しそうに(わら)う。

「あいつにとって僕は人の形をしているだけの、文字通りの人形だ。目を取り換えたのも、人形を自分好みに改造したに過ぎない。それに目を取り換えたことに関して、僕は寧ろ感謝してる。どういうわけか知らないけど、この義眼を嵌め込まれた瞬間、膨大な魔力が僕に宿った。その魔力のおかげで僕は奴隷を縛る”隷属の呪縛”を力づくで解呪でき、自由を手にした。それに何より、この国に復讐できた」

オロチが恍惚とした表情で語る。やっぱり狂っている。国そのものが。

だがそれはひとまず脇に置いて、俺は確認しないといけないことがある。

「オロチ。ちょっとそこに立ってろ」

そう言うと俺は鼻先が触れるほどオロチに近づき、義眼を観察する。

義眼に使われている宝石は、不吉なほど鮮やかな青の宝石だ。よくよく観察すれば、その宝石から鬱々とした底なしの魔力が感知できる。

間違いない。()()石だ。

「やっぱりな。お前の義眼に使われているこの宝石は、『愚人の蒼玉』って代物だ。大昔に大賢者が創ったとされる、底なしの魔力を秘めた魔石。今となっては、この魔石を知る奴は殆どいない。この魔石は適合者が持たなければただの綺麗な宝石だが、適合者には莫大な魔力を与える魔石となる。適合者は滅多にいないが、お前は偶然にも適合者だった。だから『愚人の蒼玉』が施されたその義眼を嵌め込まれた際、多大な魔力がお前に宿ったんだ」

「なるほど。そういうことだったのか。でもどうしてこれほど魔石が、『愚人の蒼玉』なんて呼ばれているんだ?『賢者の蒼玉』が妥当だろ」

「その魔石が与える魔力は、あまりにも多すぎる。巨大すぎる力は、驕りや嫉妬の元となり、必ず本人を破滅させる。大吉は凶に還る、ってやつだ。そんな当たり前の道理を理解できない愚かな者だけが、その魔石を求める。だから『愚人の蒼玉』なんて呼ばれている」

「なるほど。ならこの石の力に(すが)りつく僕は、お手本のような愚人だね。まぁ、人間扱いされるだけマシだけど」

いつの間にか都市部からだいぶ離れ、辺りには俺たちの他に誰もいない。世界に俺とこいつしかいないみたいだ。

2人だけの静かな空間に、俺の声が染みるように響く。

「お前、『この国に復讐できた』って言ったよな。お前が犯罪行為に手を汚したのは、復讐のためなのか?」

俺の言葉に、オロチはぐしゃりとした禍々しい笑顔を作る。

「そうだよ。僕はこの糞みたいな最悪な国を壊したかった。そのために当時小さな犯罪組織であった『動く蛇』を乗っ取り、『蠢く蛇』に改称して、数多のテロを起こした。色々と疲れたから、今は気分転換に学校生活を謳歌しているけど、復讐心は消えていない。今も昔も、僕は復讐の”怪物”さ。僕が膨大な魔力に目覚めた時、まず何をしたと思う?手始めに、僕を散々()()()()()()()()飼い主をぶち殺した。その後、血が染みたシーツの上で、既に息絶えた飼い主を犯した。生まれて初めて、性交渉に気持ち悪い以外の感情を抱いたよ」

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