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目に物言わす。

 夏の暑さが牙をむき始める5月下旬。

なんとオロチは退学の危機に瀕していた。

その理由は、中間テストにある。別に、オロチがテストで赤点をとったからではない。オロチが中間テストで不正行為(カンニング)を行った疑惑が浮上したからだ。

中間テストが終わってすぐ、座学試験にてオロチが自身の解答用紙を盗み見ていたと、ボルという生徒が学校に報告した。オロチはボルの左隣の席であり、カンニングは容易であった。実際に答案用紙を見比べたところ、2人の解答は酷似しており、カンニングが行われたことは明らかであった。そこで学校がオロチに事情聴取をすると、オロチはカンニングを完全に否定。学校側はオロチがカンニングを行ったどうか判断を下すため、審議を行うこととなった。

オロチを知っている俺から言わせてもらえれば、審議などせずとも、オロチがカンニングを行ってないと断言できる。

そう言える根拠は、もし本当にオロチがカンニングをしたのなら、カンニングが露見する訳がないからだ。オロチならば、誰にもバレることなく完璧にカンニングを実行できる。矛盾するようだが、オロチにカンニングの容疑がかかっているこの状況こそが、オロチがカンニングをしていない何よりの証拠だ。

ただしこれは、オロチの正体があの狡猾な犯罪者”怪物”であると知る俺のみが言える理屈だ。

実際のところは、オロチが不正行為をしたと審議される可能性は高い。なぜならば、オロチは自分が不正行為を行っていないことを証明しなければならないからだ。

どうすればそんな証明が出来る?これは所謂、『悪魔の証明』というやつだ。

そしてもし審議の結果、オロチがカンニングをしたと判断されたのならば、オロチには退学処分が課されるだろう。本来は1回の不正行為で退学処分となることはあまりないが、オロチは立場の弱い平民だ。身分意識が根強いこの魔法学校ならば、退学を宣告されても不思議ではない。


カンニングについての審議はすぐに実施され、オロチとボルと校長を始めとした5人の教師が、普段滅多に入ることのない職員用会議室に集まる。皆、揉め事の発端であるオロチを訝し気な目で見ている。やはり、オロチに対する心象は悪いようだ。

ちなみに、俺はトカゲの使い魔を会議室に送り、そのトカゲを通して審議を覗いている。

重大な審議を不正に盗み見るという点で言えば、審議されるべきは俺かもしれない。


教師陣はまず、ボルの証言を聞いた。

ボルはテスト中に視線を感じ、右を見るとオロチが自身の解答を盗み見ていたと主張した。

その後に教師の1人が、ボルとオロチの解答が偶然では説明がつかないほどに酷似していること。ついでオロチは普段から授業をサボるなど、素行不良が目立つことを述べた。

これらの状況証拠を聞くと、俺でもオロチが黒に思えてしまう。

「これらの主張を踏まえて、学校はオロチがテスト中に不正行為を行ったと考えている。オロチは何か釈明があるのならば、聞かせてもらう」

教頭先生が厳格な口調でオロチに問い質す。

その場にいる誰もが耳を傾ける中、オロチは徐に喋りだす。

「えー、念のため確認したいことがあります。僕が中間テストの座学試験において、隣の席にいたボル君の解答を盗み見ていた。これがボル君の証言で間違いありませんか?」

オロチの質問にボルは、今更何を聞くのかと呆れた様子で答える。

「えぇ。間違いありません。それが何か?」

その瞬間、オロチは勝ち誇った顔で口角を上げる。

「それならば、ボル君の証言は虚言に他なりません。なぜなら、僕は目が見えませんから」

そう言うとオロチは自身の紺青の瞳に手を伸ばし、眼球を取り出す。

「御覧の通り、僕の目は義眼です。昔色々あって目を失いました。つまり僕は盲目です。ですので当然、隣の席の解答を盗み()()なんて不可能です」

それはあまりに衝撃的で、これ以上なく完璧な証明だった。

そもそも盗み見ること自体がそもそも出来ないならば、解答を盗み見たかどうかなど議論するまでもない。

その場にいる誰もが開いた口が塞がらない中、オロチは悠然と続ける。

「さて。僕の無実は自明となりました。しかしここで疑問が生じます。なぜ僕とボル君の解答は酷似しているのか?偶々解答が似通っただけ??いいえ、偶然にしてはあまりにも出来過ぎ。カンニングは実際に行われた。でも僕はカンニングをできない。つまり消去法的に、カンニングをしたのはボル君です!」

オロチはぴしゃりと言い放つ。一方、ボルはこの世の終わりのように顔を青くする。

「ボル君が僕にカンニングをされたと嘘の証言したのは、疑いを僕に逸らすためです。先に告発すれば、自分の方が白くみられる。しかも僕は平民で心象が悪い。実際、誰もがカンニングをしたのは僕だと思い込み、ボル君を疑わなかった」

オロチの推論に、ボルは力なく項垂れる。その反応からオロチの主張が正しいことは、火を見るよりも明らかであった。


結局、オロチの無罪は認められ、ボルには謹慎処分が下された。

ボルへの処罰が謹慎処分に済まされたことに、オロチは少しばかり不満を抱いている様子だった。が、『盲目だけに目を(つむ)る』ことにするそうだ。

俺はオロチのジョークセンスに、目を瞑ることにした。

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