目に物見せる。
部活動に励む活気のある声が、窓を貫いて無音の教室に広がる。今にも沈みそうな夕陽により茜色に染まった放課後の空き教室にて、一人の女子生徒が不安げな様子で誰かを待っていた。
時計の短針が丁度真下を指した時、少女のいる静かな教室に、ガラガラと大袈裟に扉が開かれる音が響く。そこには横柄な態度の大男が立っていた。
その男こそ、家の威光を利用してシリアを含む複数の女子生徒に性的奉仕を強要する真正の屑、ジャッカル・アビシニアである。
男は少女を値踏みするような目で見た後、下卑た笑みを浮かべて少女に近づく。
「ふーん。流石、可愛いと噂されるだけある。期待以上にいい女じゃねぇか」
男の言う通り、その女子生徒は非常に可愛らしい容姿をしていた。
黒く澄んだ髪。思わず目を奪われてしまううサファイアブルーの瞳。人形のように端正で、どこかあどけなさの残る顔立ち。一生に一度見ることができるかどうか分からない程の美少女を前に、男は舌なめずりをする。
「貴方がジャッカルさんですか?私に会いたいなんて、何の用です?」
少女は男の獣のような目に、警戒の色を強めながら尋ねる。
「何の用かって?イケないことだよ」
ジャッカルは少女に飛び掛かり、両腕を掴み押し倒す。
少女が思わず悲鳴を上げそうになるが、ジャッカルは素早く口を塞ぎ、脅しをかける。
「逆らっていいのかな?俺が顔を知らないってことは、どうせ大した家柄じゃないんだろ?俺が父上にお願いしたら、親戚の家ごと取り潰しされるかもねぇ。ま、そう怖がらないでよ。大丈夫。俺上手いし、優しくするから」
ジャッカルは嘲笑するように言い放つ。ジャッカルはこの脅し文句を使って、これまで何人もの女子生徒を食い物にしてきた。
ジャッカルの発言に、少女の美しい顔は青く染まる。そしてすべてを諦めて表情で、腕の力を緩める。
少女が身を委ねてきたことにジャッカルは下卑た笑みを浮かべ、慣れた手つきで少女の制服のボタンを外す。
そうして露わになった少女の胸を見て、ジャッカルの動きがピタリと止まる。
その少女はブラジャーをしていなかった。少女の胸は平坦かつ筋肉質であり、明らかに男性の胸部であった。目の前の光景を処理できず、ジャッカルは硬直する。
呆然とするジャッカルの腕を掴み、少女(?)がジャッカルを掴み押し倒す。
さっきとは真逆の構図だ。
少女(?)はジャッカルの制服のボタンを手際よく外す。そしてボタンを全てのボタンを外すと、耳元でそっと囁く。
「意外といい体しているじゃないか。僕の好みとは外れているが、悪くない」
その声は先ほどまでの柔らかい女性的な声とは異なる、ドスのきいた男の声だ。
男を押し倒している少女(男)の顔には嗜虐的な笑みが浮かんでおり、全身から飢えた獣に通じる気迫が漂っている。ジャッカルは反射的に逃げようとするが、男の腕は少女(男)はジャッカルの腕を強く握り、離さない。
「逃げんなよ。誘ったのは君だろう?大丈夫、僕上手いし、優しくするから」
少女(雄)はそう言うと、ジャッカルの股下へ手を伸ばそうとする。
その瞬間、ジャッカルは渾身の力で少女(雄)をどかし、泣き喚きながら逃げ去った
「ありゃりゃ、逃げてった。クレイン、シキ。もう隠れるを止めていいぞ」
静寂を取り戻した教室で少女(嘘)がそう言うと、俺とシキはそれぞれ教室の掃除ロッカーと教卓の下から出る。
「お疲れ。名演技だったぞ、オロチちゃん」
そう。ジャッカルに襲われかけ、そしてジャッカルを襲いかけたこの少女(嘘)の正体は、女装したオロチだったのだ。
「なんで僕が女装するの?こういうのは、発案者であるクレインがやるものでしょ?」
「クレインに女装させるのは気が引けるじゃない」
「僕なら気が引けないのかよ。ま、背丈や顔立ち的に、僕の方が適任だから別にいいけど」
「それにしてもあんた、本当に似合っているわね。私と同じくらい可愛い人がこの世にいるなんて、今世紀最大の驚きだわ」
シキがオロチの女装姿をまじまじと観察しながら話す。元から中性的な容姿をしているオロチは、いざ女装してみると、本当に女子にしか見えない。
「自己肯定感が高くて羨ましいよ。僕には審美眼がないから分からないけど、そんなに女装が似合っているのか?」
「もう、女子より女子よ。何が恐ろしいって、5分くらい化粧して、スカートを貸したら、そうなったことよ。私が毎朝に化粧に何分かけているとと思っているのよ。試してみて女の子っぽくならなかったら、ちょん切るつもりだったのに。杞憂だったわ」
「ちょん切るって何!?何をちょん切るつもりだったの??」
「なんにせよ、上手くいって良かった。もしジャッカルが男もいけるクチだったら、作戦は失敗していたからな」
「そん時はそのままヤルまでだ。そういうことに関しては、僕はそこらの男娼よりもよっぽど心得がある。ジャッカルが僕以外じゃもう二度と満足できなくなるようにするつもりだったけど?」
「…俺とシキが教室内に潜んでいたんだけど?」
「見せつけるつもりだったけど」
あ。こいつヤバい奴だ。
今回の件で、ジャッカルも少しは被害者の気持ちが分かったのだろう。
数日後、シリアがジャッカルから性的暴行を受けることはなくなったと、喜色満面で報告に来た。
その報告を聞いた時に見せたオロチの安堵の顔が、何故だか深く印象残った。




