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最高の国

 『人にとって最高の国』と称される、とても豊かで、とても伝統的で、とても安定した国があった。

400年以上前に初代皇帝がこの国を(おこ)してから今日(こんにち)に至るまで、初代皇帝の血を引く王族が国を統治し続けた。他国と比べ、極めて安定した国といえよう。

資源は類を見ないほど潤沢。この国の特権階級層は有り余る富を持つために、世界で最も幸運な人間とさえ言われている。貧富の差は激しいが、一般階級層の餓死率も他国と比べてそれほど高くない。

素晴らしい国であった。


ただ一つ問題を上げるとすれば、幾許(いくばく)かゴミが多いことだ。

路地裏に入れば、大抵誰かの死体が転がっている。誤解が生じぬよう説明すると、その死体は人間の死体ではない。賤民と呼ばれる、この国で最も身分が低いモノの死体だ。

賤民は動物界脊索動物門哺乳綱サル目ヒト科ヒト属ヒト種のホモサピエンスであって、人間ではない。言葉を解し、人の見た目をしているが、人間ではない。

よって餓死しても餓死者としてカウントされない。当然、人権もない。彼らを殺すことは殺人に該当しない。場合に応じて器物損壊罪に問われる。賤民は奴隷として取引され、大半が買われた1年後には他界し、ゴミのように捨てられる。

この国は皮肉を込めて『人にとって最高の国』と称される。



薄紅色の桜がひらひらと宙を舞う校内を、新調したブレザーを羽織った新入生が闊歩する。周りをきょろきょろと観察しながら歩く姿は、さながら未開の地に訪れた探検隊だ。

俺もまた、そんな初々しい探検隊の一員であった。


シェーンブル国立魔法学校。

自主自律を重んじる校風が特徴的な、国1番の名門校。ここに入学できれば将来は約束されたも同然で、毎年定員の20倍である4000人が応募する。そんな誰もが憧れる学校こそ、今日から俺の通う魔法学校だ。

本日は入学式。集合終了時刻より15分も前だが、既に1ーAの教室には俺を含めて殆どの生徒が登校していた。

40人近くが集まった教室で、俺は1人孤立していた。

教室にいるクラスメイトたちは以前から交流があるようで、既に何人かで固まり、グループをなしている。完成された輪に入るほどの度胸もコミュ力もない俺は、離れ小島のようにポツンと浮いていた。

誰か話しかけてくれないかと他力本願な祈りをしていると、1人の男子生徒が教室の扉を開け、俺の丁度隣の席に座る。

その生徒は絶世の美少年であった。

澄んだ黒髪。サファイアのように透明度の高い紺青の瞳。同学年の男子と比べると遥かに小さい、150cm弱の華奢な体。あどけなさの残る甘い顔だち。もしズボンではなくスカートを履いていれば、何の疑いもなく女子だと信じてしまうほど見目麗しい美少年だった。

教室にいる生徒は男も女も関係なく、人形のように儚く美しい少年に目を奪われていた。


ただ一人、俺を除いて。

俺は少年に見惚れることなく、ただただ口をあんぐりと開き、呆然としていた。

なぜならこの少年からは、俺が少し前まで追っていた凶悪犯罪者と同一の魔力を感じるからだ。

存在しているだけで蛇に睨まれた蛙の如く縮こまってしまう、氷のように冷たく海のように膨大な魔力。巧妙に隠しているが、俺の目は誤魔化せない。いや、俺だけが気付けるよう偽装しているというべきか。

この幼気(いたいけ)な美少年があの凶悪犯とは信じ難いが、俺が()()()の魔力を間違える筈がない。

この少年は間違いなく、400年の歴史を持つこの国で史上最悪の犯罪者、通称”怪物”だ。


”怪物”は国家転覆を目論むテロ組織”蠢く蛇”を束ねるリーダー。王妃殺害や最高裁判所の破壊など、数えきれないほどの悪行を計画、実行した悪の権化。慎重な性格で常に仮面をつけており、その素顔は”怪物”の仲間たちですら知らない。俺は最近まで国を守る衛兵として”蠢く蛇”を追っており、”怪物”とは何度も交戦した。

しかしつい2か月前。衛兵が”蠢く蛇”のアジトをつかみ、250人以上の大兵団を率いてアジトを急襲。”蠢く蛇”の団員の約9割が逮捕された。そしてその急襲により、”怪物”はとある騎士長に殺された。

つまり”怪物”は既に死んでいるはず。しかし俺の目の前にいるこの少年は、間違いなく”怪物”。矛盾する現状を呑み込めず、夢ではないかと頬をつねる。が、弱く確かな刺激が頬に広がる。


この時の俺は、さぞかしマヌケな顔をしていたのだろう。隣の美少年は意地の悪い笑みを浮かべ、話しかけてくる。

「お久しぶりだね。元気そうで残念至極だよ、”化け猫”」

この一言で俺は、この少年が本物の”怪物”であることを確信する。俺を”化け猫”なんて呼ぶのは、”怪物”だけだ。

「やっぱり怪物か。何でここにいる?」

「入試で合格点を取ったからさ」

「そういうことじゃねぇ。お前は殺されたはずだ。もしかして不死身なのか?いや、そんなことはどうでもいい。大人しく捕まれ」

「こんな美しい少年があの”怪物”なんて、信じてもらえるはずないだろ?”怪物”は死んだことになっているんだ。実際に死んだのは()()()なんだけどね。普段から素顔を隠していたおかげで、簡単に騙せたよ。そうかっかしないで仲良くしようぜ。僕は改心したんだ。約束する。僕はもうテロを起こさない。それとも…ここでやる?」

オロチの鋭い眼光が俺を突き刺す。

ここは人が多い。戦えば、何人巻き込まれるか分かったものではない。それに怪物はおどけた口調ではあるものの、言葉の節々からずっしりとした重みを感じる。出鱈目(でたらめ)を言っているわけではなさそうだ。

「…分かった。ひとまず、お前のことは放置してやる」

俺が発言が意外だったのか、怪物は目を丸くする。

「怖いくらい簡単に信用するね。僕はあの恐ろしい犯罪者、”怪物”なんだぜ?」

「人を見る目には自信が有る。お前はこの手の約束は守るタイプだ」

「なるほど。いい目だね。羨ましいよ」

「だがもしお前が約束を破ったら…その時は覚悟しろ」

「はいはい。煮くなり焼くなり好きにしな。そう言えば、自己紹介がまだだったね。僕はオロチ。好きなものは金。嫌いなものも金だ。よろしく」

オロチはそう言って、手を差し出す。

「俺はクレインだ。嫌いなものは嘘つき。お前が嘘つきでないことを祈るよ」

オロチに倣って俺も手を差し出し、握手を交わす。

こうして、凶悪犯罪者との学校生活が始まった。

初投稿です。

拙い文章で申し訳ありません。日本語って難しい。誤字脱字があっても許して。

妄想をなんとか文章という形にまとめてみました。想像より大変ですが、最後まで頑張って書きます。

楽しんでもらえたら幸いです。

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