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54話 夢の中

 ——よし。

 できた。うまく成功した。


 私は今、空に浮かんでいる。自分の家を真下に眺めている。目で見て、飛べた、と確信する。

 上から見下ろす屋根は、ただの勾配(こうばい)がきつい四角い足の踏み場のように感じた。


 ほんとに妙な感じだった。


 自分の手はしっかりと確認できるけど空気に触れているという感覚はない。小春の家もきちんと確認できる。薄暗いから、ただの黒い物体の一つにすぎないけど。

 辺りも現実と似たようなものなのだろう。そればっかりは上から眺めたことがないから何とも言えないけれど。


「あ……」


 両方の手を腰の辺りで小鳥のように、ぱたぱたと小刻みに振り少しずつ空へと上昇しながら思い出した。


 そう、ここまでだ。

 自由に行き来できるのは——


 ここから先は何か嫌な感じしかしなかった。

 行くと二度と部屋には戻れない、そんな感じがした。正確には目では見えてはいないのだけど。

 これまでも何回か恐る恐るこの結界みたいなやつを越えようと試みたけど駄目だった。

 いつも、ぐわーっと一瞬にして部屋の中へと強制的に引っ張り込まれている。

 そして、ああ、夢だったんだ、と目が覚めるのだった。

 とにもかくにもここまでなのだ。足元に自宅の全体が見渡せる程度まで……


 ただ——

 ただ、だ。


 何だか、その結果みたいな、オーラ?

 波動? のような、天然石のシラーかかった輝きが薄く柔らいでいるように感じ取れるやつを、今日の私になら突破できるのでは? とうすうす感じていた。


 気のせい?

 ついに潜在的な力が解放されたか? 笑笑。


 まあ、いい。

 私は先へ行きたい。

 もう一度覚悟を決める。

 さっきよりも力強く。

 目を閉じ境界線みたいなものを。

 思い切って。

 超える。

 水面を飛び出すように——


 あれ?


 想像していたものとは全く違い、あっさりだった。

 すんなりと行けた。

 拍子抜けするくらいだった。

 ——やっぱ覚醒したかな。


 根拠のない自信を手に、私はそのまま小春の家の屋根へと飛んで行く。

 辺りはいつもの夜だけど人の気配は無い。しんとしている。

 生物の存在自体が無いのかもしれない。虫の鳴き声も聞こえないし、音自体無い。

 あるのはたくさんの星たちと、あの月明かりが世界を照らしているだけだった。

 南の空の高い位置に見えるのはオリオン座だろうか。


 ——小春はどうしてる?


 一瞬存在が気にかかった。

 この体は、気持ち一つで物体をすり抜けることも可能だった。

 足元は屋根の上にかけることもできるし、貫通させることだってできた。だけど私は目を細め、じっと東の方向を見た。

 あの木の下に……

 そう思うと使命感みたいなものが湧き上がってきた。そして足全体にしっかりと力を入れ踏み込むように屋根から飛び立つ。


 あっという間だった。星崎神社への道のりは。


 最初の方は水の抵抗がない水の中をかき分けるように飛んでいたけど、すぐに気づいた。イメージさえできれば、一瞬にしてその場所へ飛んで行けるのだということを。

 たぶん、地球だって飛び出せる。それは怖くてやらないけど。やめとけ。まだ今じゃない。本能が強烈にそう私に訴えかけている気がするから。

 ここから先はゆっくりと飛んで向かった。


 ほんのりと左側が欠けた月の明かりに導かれて——

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