2章 37話 夢の中の猫
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窓の外は、大粒の雨が紫陽花をたたきつけていた。
うねった前髪を熱心に手で直している。
ガラスに映る私は、あいにくの天気とは相反して曇りのない表情をしている。
リビングで挨拶をして席に着く。
朝食を口にしながら、テレビから聞こえてくる今後の天気について、お母さんと話をしている。
傘をさし、一人で学校へと向かっている。
教室に入ると数人の友達が、おはようと声をかけてきて、私は笑顔を作り軽やかに挨拶を返す。
席に着くと、美幸と真由ちゃんが駆け寄って来た。
「あれー、小春は今日休みー?」
——ここで場面が変わり、映像は断片的に流れていく。
次の日も雨の中、一人で学校へと向かっている。
私は一人で席から窓の外を眺めている。
「七海っ。ここ教えてよっ」
言われて、美幸と真由ちゃんに数学の計算式を教える。
次の日は英語だ。
授業開始のチャイムが鳴って去って行く二人に、私は言った。
「私の方こそ、ありがとっ」
学校からの帰り道は三人だった。空は、かろうじて雨が上がっていた。
——また、なんとなく描写は移り変わり。
私は帰り道を一人で歩いている。
すると、ふらふらーっと黒猫が擦り寄ってきて、なんとなく後を追っていると、気づいたころには辺りは深い暗闇となっていて、幼い少女は、体の奥底まで深くめぐるような空間を一人で彷徨っている。
——また突発的に目の前が変わった。
今度は自宅のリビングから、怒鳴り声が聞こえてきた。
お父さんは、まあまあ、と優しくたしなめているけど、お母さんは一歩も引く気はなさそうだ。
私は廊下の階段の隅に座って身をひそめているけど、話しに没入する間もなく辺りは転換する。
また黒猫……。
辺りは再び暗闇と化していた。
そして黒猫は振り向き不敵に笑うと、口を開く。
「あんたが私立に行かないから、こんなんなっちゃったんだからね」
お母さんと同じ声だった。
私のせい——
と、幼い私は一気に黒色の感情に押しつぶされそうになっている。
ほんと、ささいな動機だった。
私立の小学校を目指すきっかけなんて——
幼稚園で高飛車だった、エリカにそそのかされただけだった。
ただ、負けん気だけで受けた受験。
最新のIT設備に学習環境が整っていると、自らひけらかす学校では、変に着飾った親子ばかりだった。
自分の母親もその一人に見えた。
自然を装った笑顔に挨拶。
吐き気がした。
面接では、生まれて初めて嘘をついた。
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