表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/65

33話 並行世界

 常識的な科学か……


 部屋を離れ、広野さんの後ろ姿を見つめながら、私はリザ教授の言葉を思い返していた。


 おそらくリザ教授は、今は自身の研究に没頭してるのだと思う。だから常識的な見解しかできないのだと。——そして、星宮ひかるは非常識的な発想の持ち主だったいうこと。

 リザ教授は、その才能に賭けているのだと思った。

 私たちを送り出したとき、そんな眼差しをしていた。



 広野さんに感謝を述べてから、キャンパスを出て、私たちは駅前のファミレスへとやってきた。

 ここへはちょっと早い昼食を、と思ってきたのだけど、お互い手にしていたのはドリンクだけだった。

 ストローでジュースを吸い上げる音で、胃がもたれたようにもたれきった感情を整理する。音は何度か交互に行き交うが、そこに達成感みたいなものはなかった。


「なんか、すごすぎたね。盗聴されてるとか、政府機関とか。陰謀論みたい。世界を牛耳る闇の支配者たち、みたいな」

 最初に口火を切った自分を褒めてやりたい。

「そうだね……」

 軽い。

 神沢の返答は、私が思い描いてたのとぜんぜん違った。

「ほんとに地球滅亡しちゃうね」

 と、私は苦笑いしてその場をやり過ごした。

 神沢は、コップの中の氷をストローで(っつ)いて考えているように見えた。

 そして、そのあとに神沢が溢した言葉で私は初めて知る。

「まあ、どのみち、今のおれたちにできることなんか何もなかったね」

 神沢は、真剣に世界を救おうと思っていたのだということを。

 気の利いたこと気の利いたこと、と私は何十回と思考を巡らせ言葉を絞り出した。


「そうだっ。無数の並行世界! 無数の並行現実へ移動することが可能ならば、回避することは可能って言ってた。AIが」


 すると神沢は予期せぬ言葉だったのか、きょとん、とした表情をしてから笑い出した。


「やっぱ星宮は変わってるっ。面白いっ」


 褒められているのか(けな)されているのかは知る(よし)もないけど、いつもの神沢飛月だった。

 ひとまず()しとした。


「でも……せめて衝突する日時だけでも知りたかったな」

「あー、あと数ヶ月くらいなんだっけ……」


 衝突する日の予測は、前に神沢から聞いていた。

 たしかに、正確に日時がわかってさえいれば、少しは気の持ちようも変わるのかもしれない。

 気まぐれで明日に落ちてくる、なんてこともあるかもしれないしな……

 リザ教授の話しを聞いて、そんなふうに思った。

 あれ?

 私は、ふと気づいた。自分が何故こんなにも楽観的なのかと。地球滅亡だぞ? 少し前から、自分と神沢との温度差に違和感を感じてはいたけど。

 オレンジジュースをすすりながら考える。


「リザ教授なら把握してるとは思ってたんだけどな」


 それは私もワンチャンあると思っていた。その日がわかれば、お父さんが帰ってくる日がわかるから。

 ん? 帰ってくる? ふと、声が漏れた。


「星が降る日には帰ってくる——」

「え、なに?」


 と少し困惑気味の神沢に、「あ、ごめん」と言いかけて、『言ったことは必ず守る人』と以前話していたお母さんを思い出した。

 あとリザ教授の台詞も。


『皆、彼の言う言葉を疑う者なんていなかった』


 とても力強い言葉だった。とん、と軽く背中を押された気がした。

 私は知らず知らずのうちに、都合よくこれらを解釈し、明るい未来を創造する。

 そしてもう一度声に出した。


「星が降る日には帰ってくるっ」


 そうだ、ほんとうに並行世界なんてものが存在するのであれば、今、私がいるこの世界は、滅亡しない世界線に決まっている。


「行こ。神沢も私のおばあちゃんの所へっ。今から」

『昨日は来てくれてありがとう。毎週土曜日に剣道の稽古してるから、七海ちゃんもよかったら来てね』


 私はスマホを手にして、今朝すみばあちゃんから届いたメールに返信をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ