25 高鳴る鼓動.1
── ミャオ……
魔女の猫?
いや、夢か……。
眠たい目をこすってそう思った。
ゆっくりと身体を起こし、カーテンを少し開けて外を見るけど、魔女の猫の姿はなかった。
この暗さは、きっとまだ夜と朝の間の時間なのだろう。昨日の高揚のせいか、まだ眠りが浅かった。何年ぶりだろ? お母さんとあんな話をしたのは……
と過去を思い出しつつ私はまたベッドに横になった。
……。
バイクの音が聞こえる。意識的に耳をかたむけると、音は断続的に忙しなく響いていく。きっと新聞配達だろう。
煙たがる気持ちを飲み込みながら、私は目を閉じたまま手でスマホを探った。画面をタップすると四時三十分と表示された。ふわりと浮かび上がった光は、何秒か経って薄暗い部屋と同化していった。
……毎年。
私と快晴の誕生日には、海外からお父さんの手紙が届いた。
そのアルファベットが並んだ文字の封筒を手にするたびに、お父さんは何かすごいことをしてるのではないかと思ってわくわくしたのを覚えている。
……たぶん。
最後の郵便物が届いた日。
あの日、以来だと思う。
きちんとお母さんとお父さんの話をしたのは——
『こらー。快晴、七海、落ち着けー。深呼吸しろー』
頭の中でお父さんに言われ、私は深く呼吸を整え、何となくスマホを操作する。
皆それぞれに夏休みを満喫していた。あはは、と笑みが溢れた。
画面には各々、渾身の写真がアップされていた。
——最後の郵便物。
しつこくて敵わないが、再び脳裏にフラッシュバックしたため、スマホを操作しながら過去を回想することとする。
そのあまりに一方通行に書かれた英語の書類をお母さんは、スマホで翻訳しながら解読していった。そして、そのあとに発した言葉は一言だった。
『もうこの手紙で終わりだって……』
——あ、小春だ。
何か呟いている。過去はさておき、私はスマホをスクロールさせていった。
なになに……『皆さま──この度は──田中重松が大変ご迷惑をおかけしました──』。
——って、お祭りのときの謝罪文じゃん。
小春ごめん。笑っちゃった。
……SNSをチェックするのも久しぶりだな、と思いながら眺めるように画面をタップしていく。
するといつの間にか無意識に神沢の名前を探していること気づいた。画面で見つけることはできなかったけど。
光る石……
そしてあの素振り。
神沢なら何かを知っているような気がする。
私は身体を起こし、腕を組み、首を少し傾け、やんわりと脳みそを活動させていった。
このモヤモヤした気持ち……
どうせこのまま勉強をしたところで、効率が悪くなるのは目に見えていた。
よしっ、と勢いよく立ち上がる。
神社へ行こう。
ウォーキングがてら気分転換にもなるだろうし。
何だろう……
居ても立っても居られないとは、こういうことなのだと思った。