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12話 八年前-るるぽーと.3


「おーやってるな~。快、七、すごい人だぞー」

「なにあれ? すごいっおっきーよー」

「でかすぎだってっガチで」


 目の前には、どどん! と日本最大級だといわれるピラミッドがそびえ立つ。

 私たちは、るるぽーとの広場へとやってきた。

 イベントのためだけにこんなにも大きな物体が出来てしまうことに驚いた。昨日、通りかかったときには半分も完成していなかったのに。

 ピラミッドの一番上に視線をやるけど、照りつける太陽に私は思わず目を細めた。


「やっぱ外は暑すぎだなー」


 お父さんは額の汗をタオルで拭ったあとに、それを首に巻きながら言った。


「父さんー。暑すぎて、おれ死ぬわ~。これガチね」

 たしかに……

 快晴が言うとおり死んでしまうのではないかと思うほどに暑つかった。

 さっきまで映画館に居たせいか少しばかり日向が心地よくも感じたけど、それもほんの一瞬だった。今日の最高気温は、四十度になるのだとテレビでお姉さんが言っていたのを思い出した。

 お父さんは後ろを振り向いて、「ばっちり装備整えてきて正解だったな」と言いながら、ドヤ顔をする。

 私たちは、キャップの帽子を被り、リュックを背負い、リュックの中は水筒に汗拭きタオル、着替えの服に替えのパンツまで入っている。昨日の夜に、お母さんと一緒に準備をした。まるで探検家になったみたいだった。私はわくわくしていた。


 ——幼かったのもあるけどピラミッドの大きさは想像以上で、仮設の作り物だったけど、たしか……高さ十五メートルかなんかだったと思う。スマホで検索すると、イベントの出店元は、岐阜県にあるイベントの宝石ミュージアムで、そこにはこれと同じサイズの本物のピラミッドが存在するようだ。こちらはもちろん本物の石だ。


「父さんー。アイス食べよ。ガチで」


 あとでな、と言い、お父さんは周囲を見回した。 


「七もたべたいー」


 私も大きな声で快晴に続いた。広場には売店や休憩所も隣接していた。ソフトクリームはもちろん、かき氷の店もあった。どうやら名物のピラミッドカレーが一押しのようだった。


「あ、お父さん見て! あそこピクニックだよっ」


 芝生にレジャーシートを広げてお弁当を食べている親子もたくさんいた。周囲を見渡すと、ほとんど家族連ればかりだ。

 辺りは人だかりで熱気を帯びている。


 ──反射的に私はお父さんの手を強く握る。


 私は大勢の人間たちが苦手だ。何というか、たくさんの欲望に押し潰されそうな感じが怖かった。


「やべーな、この人数。時間かかりそうだから小まめに水分とってな」


 お父さんの言う、受付までの道のりは長い行列となっていた。入場の人数制限があるのも原因らしい。私には目的地を目で確認することはできなかった。

 私は昨日の夜の話を思い出していた。

 ……まず、自分の誕生石はアクアマリンで、それも採れるということ。それと宝石は三十種類以上あって、中にはルビーが見つかったり、化石が出てくることもあるのだということ。あと、小さな鍵を見つけた人は終了時に係員に伝えると、特別の原石がプレゼントされるみたいなことも聞いた。でも、その石が快晴の言う隕石なのかは不明なのだと。

 お父さんは、SNS上に上がっている、ただの都市伝説なのでは、と懐疑的だった。

 どうであれ、星崎町民としては、隕石をこの手で掴みたい。

 私はそんな意気込みだった。



 列に入ると、

「いたいた、七ちゃんー」

 小春だ。


「おはようございますー星宮さんー」

「あー田中さん! おはようございます」

「いやいや、今日も暑いですなー」


 ははは、と田中さんは額の汗を手で拭う。

 頭には、イベント公式の白いハチマキを巻いている。


「さすが田中さん、気合い入ってますねー」

「ははは、準備万端ですよ」


 田中さんは得意げに言い、話そこそこに「お互い頑張りましょう」と両手を軽く上げ、ぎゅっと握りしめその場を去って行った

 田中さん……こんなキャラだったっけな。


 

 しばらく足を進めると、屋根が付いてるエリアに差しかかり、ここからはS字の列が続いた。

 やっと日陰だ……

 私はリュックから水筒を取り出し一気に飲んだ。少し安緒した表情のお父さんも額から滴り落ちる汗をタオルで拭っていた。


「快晴も水分とってな」


 お父さんがそう促して一息着こうと思ったのも束の間だった。大きな声で男の子が勢いよく向かってきた。


「快晴ーー快晴ーー」


 肉付きがいいせいか大層な威圧感があった。


「よー元気ー!」


 また快晴は格好をつけていた。このキャラに扮するたびに、私は妹をやめたくなる。

 快晴と同じクラスの元気くんは、まるで重戦車みたいだった。

 二人は、よお、と言い、慣れた手つきでお互いの拳と拳をゴツリ合わせる。元気くんは私と小学校で出くわした際も、よお、と声をかけてくれる。そのときは拳ではなく、控えめに片手を上げて。


「どうだ? あれは?」

「おう。ガチで大丈夫」


 元気くんに答える快晴の顔は、なにか企んでるようにも見えた。

 二人は、へっへっへへへー、と肩を組んで不適な笑みを浮かべている。



「お父さんが言ってたやつ、みえてきたよっ」


 私は目に入ってきた水槽を指を差した。ピラミッドの入口にいくつか不規則に並んでるやつだ。大人一人分くらいの長細い四角に、素材は石? 皆、中に手を入れて必死に掘り起こしている。

 私は身体が固まった。やっぱり緊張してきた。


 ——この頃の私は、鉄の棒みたいに硬直してしまう癖があった。


 そんな私を見て、お父さんは笑う。


「まーた固まってんのかー? 七ちゃん、リラーックスリラーックス。深呼吸してー」


 お父さんは私のほっぺを両手の指で挟み、ぶるぶると揺らし「変な顔ーー」と言って大笑いする。

 それを見ていた快晴も手を叩いてゲラゲラと笑っている。

 二人の様子を見て私も笑えてきた。


 この『変な顔』はお父さんが寝る前に読んでくれた絵本の中の一コマで、私は緊張するたびに変な顔で笑ってきた。

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