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8 薬師本領発揮

 フレデリカは家に戻ると、自分用に楽しみに取って置いた特別なスライムを確認した。

 珍しい金色のスライム。スライムの中でも上位種だ。このスライムなら、青いスライムから受けた傷にも打ち勝つかもしれない。

 めいっぱい上等の薬草を数種類食べさせ、さらに聖水に二週間浸けて、それでもなお色が抜けきらない個体。ここまでくると元の色がとれてはいなくても瘴気も魔力もなくなっているのではないか。触れてもしびれはないが、フレデリカが飼うとスライムはみんななついてしまうので確証は持てない。早まって切ってしまえばおしまいだ。

 フレデリカはその日最後の薬草を食べさせると、翌日から絶食用の浴槽に移し替え、二日を待ってまだほんのりとレモン色の残るスライムをスライスした。溶解液は吐かなかった。今回は吐きかけてくれた方が毒性が残っているかの目安になったのだが。

 今まで育ててきたスライムは、何を食べさせてもカットするまでは透明だった。カットして数時間で透明から乳白色に濁っていくが、食べさせた薬草の種類によってほんのりと色がついていく。公爵家に納品したぷるぷるのシートがその例だ。


 少し不安を残したフレデリカは家の裏の小屋に行き、防御魔法なく飼育中の青いスライムに素手で触れた。フレデリカになついているスライムはなかなか攻撃してこなかったが、しつこくつついていると、怒って軽く溶解液を拭きかけてきた。スライムにとっては甘噛み程度だろうが、あまりの痛さに思わず声が出て、ジョシュアが走ってきた。

「フレデリカ、何を!」

「待って、この子は悪くないわ」

 スライムを殺そうとしたジョシュアをフレデリカは止めた。

 溶解液のかかった手から白い煙があがり、皮膚が溶けかけていたが、フレデリカは傷を水でさっと洗い流すと壺からさっき作ったばかりのレモン色のシートを取り出し、傷の上に乗せた。

 ゆっくりとだが痛みが引いていき、傷から出た体液や流しきれなかった溶解液までもシートが吸い取ろうとしているのを感じた。

「包帯を巻いてくれる?」

「全く、無茶をする。おまえがそこまでする義理はないだろう」

 怒りながらも丁寧に包帯を巻くジョシュアに、フレデリカはジョシュアの頭に顔を埋めて軽く口づけをした。ピクリと反応しながらも、ジョシュアは

「それくらいでこの怒りが収まると思うなよ」

 そう言うと、怪我をした手に包帯の上から口づけた。



 翌日、昨日切ったシートの入った壺を持ってフレデリカはジョシュアと共に王城に向かった。

 まずスライムの溶解液で負傷した兵を呼び、王と侍医の目の前でシートの使い方を説明した。今使っている薬などは全てきれいに洗い流したうえで、シートをゆっくりと傷を覆うように貼り付けた。

「治療はこれだけですが、一週間は貼ったままにしてください」

 兵は貼られる前はビクビクしていたが、貼った後の心地よさに安心した顔を見せた。

「どうだ、しみたりしないか?」

 侍医の言葉に、

「大丈夫です。痛むどころか、なんだか傷の痛みが弱まってきたような気がします」

 侍医は兵に貼られたシートの様子を確認すると、壺を受け取り、王妃の頬にぷるぷるのシートを貼り付けた。続いてスライムにやられた他の兵の傷にも同様にシートが貼られた。あとは一週間待ち、効果があることを期待するばかりだ。

 王はフレデリカの腕の包帯を見て察したらしく、

「それは、自ら検証されたのだな。…ありがとう」

と先んじて礼を言った。それに対して

「薬を提供する前に効き目を確認するのは当然のことです」

 そう言い切ったフレデリカに、城の魔法使い達は小さくなっていた。たとえ王子に無理に持って行かれたとはいえ、自分たちの作ったものがこのように多くの人に害をなしたことに罪悪感があったのだろう。

「度々の登城、大義である。礼を取らせよう」

 王は用意していた金貨の入った袋を出したが、フレデリカは首を横に振った。

「お礼は効果を確認してからで。私も今回は完治するか確証が持てないのです」

 フレデリカは再度このぷるぷるしたシートを一週間取らないように言い残すと、ジョシュアと共に城から下がった。


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