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3 公爵家御用達

 一週間後、三たびフレデリカは公爵家から呼び出しを受けた。今度の呼び出しは公爵夫人から。フレデリカは断ろうと思っていたが、訪問するだけで金貨一枚の破格の対応。相手は貴族と言うこともあり、下手に機嫌を損ねても面倒なので行ってみることにした。


 応接室には夫人とマルガレーテが待っていて、お茶だけでなくケーキまで出された。要求を通すには、まずは餌付けからのようだ。

「先日、残りのシートを使いましたの。そそっかしくて紙で手を切ってしまい、使わせていただいたのですけど」

 夫人はフレデリカに右手を差し出した。

「お恥ずかしいですが、さすがに年にはかなわず、どうしてもしわとかしみとか気になってしまいますでしょう? それがあのシートを貼った所がほら、傷と一緒にしみも消えているの」

「そうですか。そんな効果が…。失礼いたします」

 フレデリカは差し出された手をそっと持ち上げ、少し傾けながら傷としみの具合を確認した。外傷に効くよう作ったつもりだったが、皮膚に沈着したしみにまで効果があるとは。しわも軽減されている。薬草の成分が効いているのかもしれないが、配合を変えるともう少し面白い結果を生みそうだ。フレデリカはあれこれ頭の中でシミュレーションしながらふふっと笑った。


「それで、大変厚かましい申し出で恐縮なのだけど、治療に不足がないようでしたら、もう少し譲っていただくことはできないかしら」

 やはりそれが目的か。

 フレデリカはお茶もケーキもきれいに食べきり、口を拭いた後で、夫人の申し出に答えを出した。

「今は手持ちがありませんが、実験にお付き合いいただけるようでしたら、一週間後に少し配合を変えたものをお持ちしようと思いますが、…いかがでしょう」

「実験? どのような?」

 夫人は首をかしげるだけだったが、マルガレーテの方が好奇心を見せていた。

「害があるものではありませんが、高貴な方でお試しするのは不敬かもしれません。ご無理いただく必要は…」

「是非試してみたいわ。お値段は」

「治療用のものは原価ギリギリでお分けしていますので、同じ値段でと言うわけにはいきませんが、今回は実験ということでお値段据え置きで、一シート金貨一枚で、四種類お届けしようと思います。是非使ってみた感想をお聞かせください」



 後日、フレデリカはぷるぷるのシートの入った小さな壺を四つ、公爵家に届けた。容器には番号が書かれていて、番号毎に感想を聞かせてもらうことにした。

 新しいシートは小さくて薄い分、一つの容器に五枚入っていた。顔にシートを貼りっぱなしにしていては社交にも差し障りがあるだろうと考え、毎日剥がして使う想定だ。値段も一壺金貨一枚にした。

 中のシートは前回は乳白色をしていたが、今回はほんのりと色がついていて、ほのかに黄色みを帯びたものやわずかに緑色、緋色に見えるものもあった。それぞれ何かの配合を変えているのだろう。


 夫人とマルガレーテは番号を間違わないように気をつけながら使い比べた。一番の壺はさわやかな薬草の匂いが広がり、さっぱりとした使い心地。黄色みを帯びた二番の壺が一番しっとり感が強く、三番の壺は最初に使った治療用のシートとほぼ変わらない。四番目の緑っぽいものがしみ消しには一番効果があった。どれも満足のいくものだ。


 今回の実験で手のしみはほとんど消えていたので、夫人はお肌に合った二番の壺を選んだ。マルガレーテはさっぱりとした使い心地の一番が気に入ったといい、娘の分も併せて二種類を購入することにした。一壺の中身を十五枚に増やし、値段は金貨四枚。二週間使い切りで、毎月二壺、月金貨十六枚の収入は今後治療用のシートを安定して供給するためにも役立てることができる。

 公爵家の金払いの良さ、そして何より、フレデリカは公爵夫人の「薬」としての必要性を優先する態度が気に入っていた。この人達なら信用できるだろう。

 フレデリカは一週間後に頼まれた商品を届ける約束をした。


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