2 公爵令嬢回復
そして一週間後。
再び公爵家を訪れたフレデリカは、公爵やその妻が見守る前でマルガレーテの顔に貼っていたシートを剥がした。
シートは一週間経ってもまだぷるぷるしていて、少し顔に張り付きながらゆっくりととれていき、引っ張られた頬には少しも痛みはなかった。ぷるぷるのシートは傷から出てきた液を吸い取り、さらには傷に含まれていた毒や瘴気までも吸い取ったかのように変色し、赤黒くなっていた頬はほんのりと赤みを帯びている程度で、ほぼ元通りに治っていた。
手の方も同じくほぼ完治していて、傷のなかった部分までもがつややかに輝いていたが、傷のあった部分は赤ちゃんの肌のように白く柔らかで、わずかな色の差を見せていた。
「う…嘘…。こんなにきれいに…」
鏡に映った自分の顔を見たマルガレーテの目には歓喜の涙が浮かんでいた。
「今は傷のあった部分が少し色が違うように見えますが、外気に触れているうちになじみ、しばらくするとほぼわからないくらいになります。当面直射日光はお避けください」
「ありがとうございます!」
フレデリカの手をしっかりとつかみ、祈るように何度も礼を言うマルガレーテ、そして母親も目をハンカチで抑えながら、マルガレーテの完治した頬をそっと撫でた。
「何とお礼を言えばいいか…」
フレデリカは笑顔を見せた母子に小さくうなずくと、剥がしたぷるぷるシートと包帯を一緒に丸め、紙に包んだ。
この結果には公爵も機嫌をよくし
「見事だ! よくぞここまで。これは礼だ」
そう言うと、金貨三枚をフレデリカに渡した。
フレデリカは気前のよい依頼主に丁寧に礼をし、金貨を鞄にしまった。
「残ったシートはお早めにお使いください。あまり日持ちしませんので、小さな傷でも遠慮なくお使いいただくことをお勧めします。一週間前にお渡ししましたので、残りあと一週間以内には使い切った方がいいでしょう。干からびてしまったら、水で戻したりせず、そのままお捨てください。では」
フレデリカは一礼すると、今回も帰りの馬車は辞退し、公爵家を後にした。