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EDEN  狂気と裏切りの楽園  作者: スルメ串 クロベ〜
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8.不安

慣れない手つきでレジを操作する。

電子音が何度も鳴り響くが、一向に開く気配はない。

叩き壊してもよかったが、自分の手で開けないと負けた気がしてそうしなかった。

…けれど、全く開かない。隣にいる雪原さんが、見かねて声をかけてくるほどだ。


「あ、あの…」

「だ、大丈夫!なんとかなるから!最悪壊せばいいから!ぬぐぐぐ…」


何度試しても開かない。だんだんとイライラしてきて、思わず拳銃を抜きそうになる。

時折、隣の店から大声で話す声が聞こえてくるが、どうやら向こうを調べていた二人が喧嘩をしているようだ。


この状況で喧嘩なんて…そう呆れてしまった。

けれど、放っておくこともできない。できるだけ早くこっちを調べて二人のところに戻ろう。

…そう思っているのだけど、レジが開いてくれない。


「……あ、あの!」

「うぇ?!あ、ごめんなに?」


すぐ隣から聞こえた大声に、思わず変な声をあげて驚いてしまった。

おもわずそちらを見ると、気弱そうながらもこちらを見つめている。


「えっとわたし開けられるかもしれません…」

「………そうなの?」

「はい……」

「えっと…じゃあお願いしてもいい?」

「はい…」


…もう少し早く言ってくれれば…そう少しだけ思ってしまった。

けれど、自分で開けようと固執していたのはあたしだ。雪原さんは悪くない。

彼女がレジに立つと、おどおどしながらも的確な操作でボタンを触る。

ッピ!ッピ!カシャ―ン!


「…えっと開きました。」

「おお…こんなあっさりと…」


なんだろう、ちょっと悔しい。解いてるパズルを横取りされた気分だ。

いや、今はそんなことよりももっとやることがある。

開いたレジ内を漁ると、


「おっ鍵!雪原さんやったね!」

「はい!あってよかったです!」

「うん!さて早速。」


すぐそばにある扉の前へ。鍵穴に、今手に入れた鍵を刺して回す。

カチャリと音がした。ほかの場所の鍵じゃなくて安心した。

扉を開く直前で、中に何かいる可能性に思い至り、警戒しながらドアノブに手をかけた。


「雪原さん少し下がってて。」

「は、はい…」


ゆっくりと扉を開く。中は真っ暗で何も見えない。Gフォンのわずかな明かりで照らすが心もとない。

けれど、中に何かいるという事はなかった。

手探りで電気のスイッチを探す。壁伝いに手を這わせていくと何かに触れた。

触れたものに力を籠めると、パチリと音が鳴り明かりが点いた。

部屋の中には、机と椅子と空っぽの棚が壁に並んでいる。


「えっと…何もないみたいですね…。」

「そだね…」


危険がないことを確認し足を踏み入れた。

見える範囲には何もない。棚もからっぽで、何も無いように見える。

一応引き出しがいくつかあるが、大きさ的に鞄が入っていそうもない。


少し落胆して、椅子に座った時だ。足に何かが当たった。

机の下をのぞき込んでみると、目的の鞄が置いてあることに気が付いた。

喜々としてそれを引っ張り出し、中身を確認しようとしたが、全員がそろった場で確認した方がいいと思いやめた。


「さて、雪原さん2人のところに戻ろ…って雪原さん?」

「…えっあっはい?…なんでしょう?」

「ここにはもう何もなさそうだから、2人のところに戻らない?」

「えっと…先に戻ってもらってもいいですか?その…ちょっと…疲れてしまって…」

「そう?わかった。なら先に行くね?」


彼女は引き出しを探っている様子だ。

何かあるかもしれないけれど、あの二人が喧嘩していないか心配だ。だから、できれば先に合流したかった。

けど、ここなら襲われる心配も少ないし、下手にあの二人と一緒にいるよりは心休まるのかもしれない。ひとまずあたしは雪原さんを残し、見つけたものを二人見せに行くことにした。








「おーいお二人さん。そっちは…って何してんの?」

「ああ…神代か。少しな…」

「少しって、顔腫れてるけど大丈夫?それに麻倉君は?」

「ああ、大丈夫だ。それと…あいつなら別のところを探しに行っている。」


腫れた顔を抑えながら気まずそうに言う。

あたしの質問に、ばつが悪そうに答える様子。そして晴れた頬。

…何があったのか大体想像がついた。


それにしても、まさか殴り合いをするとは思ってなかった。

こんな状況なのだから、喧嘩している場合じゃないと分かると思っていたが…そうじゃなかったらしい。

けど思い返してみれば、この二人は会った時からかなり険悪だった。

そのことを考えれば、この二人を組ませた時点でこうなるのは必然だったのかもしれない。


「はぁ…事情は大体察した。まあ喧嘩になるのは仕方がないとは思うけど…」

「……ああ、本当にすまない。彼にいろいろと言われて、僕も少し頭に血が昇ってしまって…手を上げてしまったんだ…」

「えっ?先に手を出したの?それはちょっと意外だった。てっきり、麻倉君が先に手を出したんだと思ったけど。」


正直意外だ。

石塚君はかなり冷静に状況を見ていたから、口論をすることはあっても暴力はしないと思っていた。


「…はあ、自分でも情けないよ。確かに彼とは合わないところはあるけど、暴力に頼ってしまうなんて…」

「彼に何言われたの?」

「…怪物が出たらお前は役に立たないから後ろに下がってろって。」

「いやそれ麻倉君が悪いでしょ。というかなんでいきなりそんなこと言うかな…」

「どうも、僕がここを探そうって言い出したことが気に食わなかったようだ。何か出た時に対処できないくせにと。だが…」

「もう!そんなに落ち込まないの!確かに手を出したのはいけないと思うけど、麻倉君が先に悪口言ったんでしょ?ならもうお互い様ってことにしよ!ね?」


この二人は本当に相性悪い。

正直麻倉君の方が悪いとは思う。けれど、石塚君も手を出したことを気にしている様子だ。

だから今回は、それぞれに落ち度があったという事で納得してほしい。

それにしても、どうして麻倉君はいきなりそんなこと言ったのだろう?


「…ああ、そうだな。今は他にやることがあるんだ、そっちを優先しないと…」

「そ!とりあえず麻倉君はあたしが探してくるから、石塚君は雪原さんと一緒にいて。」

「ああわかった。すまないが頼む。」


とにかく麻倉君を探さないと。一体どこへ行ったのだろう?








石塚君に雪原さんを任せ、周辺を探す。

少し歩いていくと、近くの店からガチャガチャと音が聞こえた。

もしかして麻倉君?そう思い、店に近づいていく。


網目状の棚に様々な靴が陳列されている。どうやらここは靴屋のようだ。

その店の中で、棚をひっくり返している人物がいた。


「麻倉君!ここにいたのね!」

「ああ?!うっせえな!でけえ声で呼ぶな!」

「いや、あんたの方がでかいから…」


とりあえず無事なことにほっと胸をなでおろした。

けど、問題は彼をどうやって連れていくかだ。

今の様子だと、行こうと言っても意固地になってついて来てくれないのは分かり切っている。

ひとまずここは、雑談でもして彼のイラつきを抑えよう。


「えっと…あっ何か見つかった?」

「あ?…まだなんもねえよ。」

「そうなの?あっこの棒とか使えるかもよ?」

「…そんな長え棒どうやって持ち歩くんだよ。」

「あっそっか、あははごめんね〜。」


少しずつだが、さっきまでのピリついた空気がほぐれていくのを感じる。

どうやら、思ったよりも怒っていなかったらしい。これならすぐに連れ戻せそうだ。


「なあ…お前は、なんでそんなに余裕なんだ?」

「え?」


突然の彼の質問に、思わずポカーンとしてしまった。

そんなあたしの様子を見て、また彼がむすっとしだす。

それを見て、慌てて質問に答えた。


「余裕なんてないよ。今もいろいろ考えることがあって大変だし。」


実際今日にいたるまで、余裕だったことなんてない。

怪物がいて、いつ襲われるかも分からない状況で余裕を持てるほど、図太い神経は持ち合わせていない。

もしそう見えるのだとしたら…それはただの虚勢に過ぎない。


あたしが不安そうにしていれば、それを見た周りも不安に感じてしまう。

だからあたしは、平気そうな振りをしているに過ぎない。


「そんなことねえよ…今だって、俺の事を気にする余裕があるじゃねえか…」

「いやいや、ほんとだって。」

「いい加減にしろよ!!」

「っ!」


怒鳴られた。何か気に障るようなことを言ってしまっただろうか。

彼を見ると、思わず口にしてしまったようで、気まずそうに顔を背ける。

このままだとどこかに行ってしまいそうだと思い、急いでフォローを入れる。


「えっと、ごめんね?何か怒らせるようなこと言っちゃったかな…」

「………いや、悪い。怒るつもりなんて…」

「…………」

「…………」


気まずい沈黙が流れる。だけど、ひとまず彼がいなくなるのは避けることができた。

空気を変えるためにもあたしは、さっきの言葉の意味を聞くことにした。


「ねえ、聞いてもいい?あたしってそんなに余裕いっぱいに見える?」

「………ああ、見える。」

「はは…そっか〜。見えるのかぁ…まいったな〜。」


…余裕なんてない。そう見えないのは、必死に仮面をかぶっているだけ。そうしてないと、色々なものに押しつぶされそうになる。

恐怖、不安、後悔、いろんな感情が、あたし心に傷を付けていく。

目を瞑れば昨日のことが焼きついて離れてくれない。しばらくは夢に出るだろう。


「あたしはね…余裕があるように振る舞ってるだけだよ。今だって不安だし…」

「…そんなことができる時点で余裕があんだよ。俺には無理だ…」

「そう…なの?」

「ああ。今だって俺のことを気にしてんだろ?こんな状況で他人を気に掛けれるなんてすげぇよ。」

「それは…そうしてないと不安だから…」

「けどよ、俺たちを不安にさせないように気を使ってたんだろ?」

「それは…まあそうだね。だって放っておくと喧嘩するでしょ?」

「はは!ちげぇねえ。…やっぱお前はすげえよ。俺なんかとは違う…」


なぜか褒められた。ここでそんな事を言われたのは初めてで、なんだか無性に照れてしまう。

でも、本当に褒められることなんてあたしはしてない。

だってあたしのやっていることは、ただの自己満足。自分のためにやっていることだから。


彼を気にしているのだって、喧嘩して空気を悪くするのを防ぐためだ。

打算でやっていることにしかすぎず、感謝されるほどの事ではないと思ってしまう。

けど、そう思っていたのはあたしだけだったようだ。


「…怖いんだよ。」

「え?」

「前にお前らにビビってるじゃねえかって言ってたけど、一番ビビってるのは俺なんだよ…」

「………」

「記憶のこととか、怪物のこととか、いきなりこんなわけわかんねー場所に連れてこられてよ。意味わかんねえよ…。できるならずっとセーフルームにいたかった…けど食い物もねえし、知らない奴と一緒にいて息が詰まるつーか…」


そう言っている彼はいつもの態度とは違って、今にも泣き崩れてしまいそうな弱々しく見える。

初めから一人だったあたしと違って、誰かと一緒だという事は、人によっては苦痛なのかもしれない。

ましてや、その人は全く知らない人だ。しかも考え方が合わない。これは喧嘩になるのは必然だ。


「けどよそんなだっせーところ見せらんねえだろ?だから…」

「だから強がってたってこと?」

「ああ…ビビってるところ見られたくねえからよ、あいつらにも当たっちまったし、ほんとだせえよな…」


恐怖を隠すために、虚勢を張っていた。そうやって、自分の心を守ろうとしたのだろう。

考えてみれば、当然の事なのかもしれない。不安なのはあたしだけじゃない…みんな同じなんだ。


「だからよお前には感謝してるんだ。」

「へ?」

「あの時、お前があそこに来なかったら俺は1人で暴走して死んでた。お前のおかげだよ。…その、ありがとな。」

「なんかいきなりキャラ変わったね。」

「うっせ!…ッチ、礼言って損したぜ。」

「はは!そうそう、その調子だよ。…1人で無理することなんてないんだからさ、不安ならそう言ってくれればいいから。ね?」

「ああ…わかったよ。とりあえずあいつらに謝んねーとな。」

「そうだよ〜、仲良くしてよね?」

「わーってるよ。」


口は相変わらず悪いが、さっきまでと違って表情は明るい。

お互いに思っていたことをさらけ出しあい、分かり合えたことが大きいだろう。

今の彼なら、麻倉君とも仲良くできるだろう。

そう思い移動しようとした時、乾いた音が辺りに響いた。

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