7.探索
「で、話の続きなんだけど昨日起きた時とかどんな感じだったの?」
移動しながらあたしはそう聞いてみた。
量が少なかったとはいえ、食事をしたおかげか先ほどまでの険悪な空気が軽くなっている。
けど、それもいつまで持つか分からない。その前にいろいろと聞いておきたい。
思えばあたしは、昨日他の人が何をしていたのか全く知らない。
「どんな感じと言われても…正直戸惑うことしかできなかったのが本音だ。3人とも何も憶えて無くてな。どうすればいいか分からず時間が過ぎてしまい、部屋から出れなかった。」
「そうなんだ。…そういえば、3人は同じ部屋だったの?」
「ああ、僕らは同じ部屋だった。君は1人だったのか?」
「そうなんだよ。あたしも、誰か一緒だったらよかったのに。」
「へっ!誰かいたって、こいつみたいな役立たずもいるし、1人の方がマシだろ。」
「ご、ごめん…なさいっ…!」
「もう!いじめないの!まったく…。」
また空気が悪くなってきている。こんな状況なのだから、無駄な喧嘩はやめてほしい。
それより、他の人もあたしと同じで記憶がなかった。
記憶を戻せるカードなんて物を用意していたしそんな気はしていた。
でも、実際聞かされるまでは信じられなかった。…本当におかしな状況だ。
この施設の人たちは、あたし達の記憶を奪ってなにがしたいのだろう?
わざわざ記憶を奪う事に、どんな意味が?
それと、気になってることがもうひとつ、
「ところでその鉈?どこで手に入れたの?」
「あん?こいつは目が覚めた部屋の箱の中に入ってたぜ。」
「へぇ…あたしは拳銃が入ってたけど、人によって違うんだね。」
「ああ、そうみたいだ。ちなみに、僕の箱にはこれが入ってた。」
そう言って服を少し捲る。
彼の腰のベルトに、少し角ばった玉が2つついている。
レバーのようなものが付けられた球体。あたしが持つには少し大きい。
これは一体なんだろう?
「手榴弾だそうだ。炸裂すると周りに破片が飛び出すらしいが…正直使い所に困っている。」
「…まあ自分に当たりそうで怖いし、気軽には使えないよね…」
「ああ…。正直君や彼、それと彼女が羨ましいよ。」
「そうなんだ、なんかごめんね?それで雪原さんは何が入ってたの?」
「うぇ?!わ…わたしのところは…これ…です。」
そう言って、上着のポケットの中から2つ小さな筒を出した。
先ほど見た手榴弾と同じような機構に見えるが、形が違うのが気になる。
大きさ的にはどちらも同じくらいだけど、筒状な分こちらの方が投げやすい。
形が違うのは性能の違い?
「え…っと、閃光…手榴弾…だそうです…。」
「閃光ってことは、目くらまし?へぇ~!こっちなら緊急時に使えそうだね。」
「でも…わたしが投げても…その…全然…遠くまで投げられなくて…」
「…ある意味持て余してると?」
「…はい…」
「ま!なんか出たら俺がなんとかしてやるからお前らは隠れてろよ。」
なるほど、ようやくわかった。彼が偉そうな態度だったのはこういう理由だったのか。
2人が戦えないから、自分の立場が上なのだと思ってるようだ。
そうなってくると、石塚君が強く言えないのも納得できる。
この状況で麻倉君に離れられたら、怪物に遭遇したら間違いなく死ぬ。
だから、どれだけ傲慢な態度を取られても、突き放すようなことはできない。
それでも、危険なことに足を踏み入れないように手綱は握っておきたい。と言ったところだろうか。
こんな状況じゃあ、あたしが何か言ったところで聞きそうもない。
確かに、そんな風に思えるのも仕方ない気もする。
けど、こんな状況なのだからこそ、手を取り合う必要があると思うのは間違っているのだろうか。
「それにしても…さっきからろくな店がねえな!服屋か小物店ばっかじゃねえか、あー腹へった!」
「そだね。ゆっくり服とか見たいけど、今のうちにセーフルームと食べ物を見つけとかないと。」
「…なあ、いっそ1階に行って俺とお前で怪物狩りでもしね?そうすりゃ楽に調べられるだろ?」
「絶対いや、まだ死にたくないし。」
「なんだよ~ビビってんのか?楽勝だろ?こっちには銃と剣があるんだぜ?大丈夫だって!」
あまりにも軽薄な言葉に内心苛立つ。
昨日あたしが見た光景を、こいつに見せてやりたい。
人間が引き裂かれ、肉塊に変えられていくおぞましい瞬間。
今でも、あの時の事は思い出せる。あれは、一生忘れる事なんてできないほど、強烈に脳裏に焼き付いている。
そんな奴がいるかもしれないところに、無防備に行こうなんて頭がおかしいとしか言えない。
…いや、彼はあいつの事を自分で見ていないからこそ、こういう提案してくるのだろう。
ここは知っているあたしが止めなければ。そうじゃないと、死体が増えることになる。
「ビビってるよ。さっきも言ったけど、あたしは昨日怪物が人を殺してるところを見た。あれを見て一狩り行こう!なんてなるわけないでしょ…」
「俺は見てねえし知らねえよ。」
「なら見なくてすみように祈っといた方がいいよ。気分のいいものじゃないから。」
「…ッチ!そうかよ、わーったよ。」
よかった。納得はしていないようだけど引いてくれた。
お願いだから、もうちょっと落ち着いて行動してほしい。
おそらく麻倉君は、まだこの状況に対して現実感が薄い。だからこそ、無謀な行動も平気で取ろうとするのだろう。
けど、そんなことを続けていればすぐに命を落としてしまう。
かと言って、言ったところで彼は理解しないだろう。それならせめて、彼がそういった行動をしないように誘導しないと。
「すまない少しいいか?」
「ん?どうしたの?」
「少しこの店を見て周りたい。」
「この店って…え、何屋ここ?」
彼が見たいと言った店。…本当にここを見たいのだろうか。
4畳ほど広さしかない小さな店。置いてあるものも机と椅子だけだ。
「保険屋か何かだと思うんだが、店の奥に扉が見えてな。おそらく従業員室だと思う。」
「えっと…イマイチ何がしたいか分からないんだけど…」
「ああすまない。神代の話だと、飲食店の机の上にバッグが置かれていたそうだな。」
「うんそうだね。」
「なら、他の店にもあるんじゃないと思ったんだ。それで、あるとしたら簡単に見つけられないような場所…そこの扉の奥みたい場所だと思ってな。」
なるほど…一理ある。
あたしの鞄は割とすぐに見つけられるところに置いてあったから、他の鞄もそうなのだと思い込んでいた。
けれど、数に限りがあるのなら、探させるためにも隠されていると考えた方が自然だ。
「なるほど…少し調べてみよっか。」
「ああ。それとここはあまり広くない。手分けして、他の店も調べたほうがいいと思うんだが…」
「え…あ、あの…わたし…ひとりだと…その…」
「ああ?んだよ4人で別れた方が早く済むだろ。少しは役にたてよな。」
「ひぅ…ごめん…なさい…」
「ッチ!うぜえな…!」
「はいはいいじめないの!あたしも手分けするのは賛成だけど、2人1組にしない?そのほうが何かあった時対処できるし。」
「そうだな…そうしよう。…すまない。」
あたしは雪原さんと組むことになった。…まあ他の2人に任せるのは心配だし丁度良かった。
「よろしくね!雪原さん。」
「あっ…っと…はい…」
まだ警戒されているのだろう。返事はたどたどしいものだ。
あたし達は隣のお店を調べることにした。ここにはもう、調べられそうな場所もない。
それならと思い隣へと向かった。
内装的に小物屋のようだ。
綺麗に陳列された商品。ランプや、器などのガラス製品が並んでいる。
かなり精巧に作られたものを見て、状況を忘れて思わず見惚れてしまいそうだ。
気を取り直して探索をする。
見て回ったところに鞄はなかった。
けれど、さっきの店同様従業員室を見つけた。しかし、
「鍵がかかってるとは…」
「そうですね…棚とか調べたんですけど…その…使えそうな物は…ありませんでした…ごめんなさい…」
「そんなっ謝らないで。気にしなくていいから、あたしだって何も見つけてないんだし。」
「はい…すみません…」
まだまだ壁を感じる。せっかく会えた同性だ、仲良くしたいと思っているのだけれど、なかなか上手くいかない。
…それも仕方ないのかもしれない。
側から見ていても、ずっと怯えてるのが分かる。きっとまだ、この状況についていけてないのだろう。
そんな彼女に積極的に行くのは酷だ。少し控えよう。
「にしてもこの扉、なんとか開けれないかな…鍵がどっかにあればなぁ。」
「あの…もしかしたらなんですが、レジに入っているんじゃないですか?」
「ん?あー確かにそれありそう。ありがとね。」
「いえ…大したことじゃありませんので…」
「そんなこと言わないの。雪原さんのおかげで気づけたんだからね?わかった?」
「はい…ごめんなさい…」
…辛い。
どれだけ優しく話しかけても、返ってくるのは謝罪の言葉ばかり。
少しだけ麻倉君の気持ちが分かる。こんな態度を続けられたら怒るのも仕方ないのかもしれない。
けれど、彼女が悪いわけじゃない。こんな状況で怖がらない方がおかしいのだ。
…この事に関しては、すぐにどうにかなるような物でもない。今は彼女が、すこしでも安心できるように接してあげよう。
…ところで、
「レジって…どうやって開けるの?」
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