6.出会い
栄華さんと別れた後、主通路の中央から下の階を見渡す。
のぞき込んだ瞬間、昨日見たものがフラッシュバックした。目の前がチカチカとして、昨日の光景が何度も脳裏を駆け巡っていく。
…大丈夫だ。そう自分に言い聞かせ、こみ上げる吐き気を抑えながら観察する。
のぞき込んで数秒で異変に気付いた。
そいつは一番下の階にいた。ここからでもその異常さがはっきりと分かる。
そいつの見た目だ。全身緑色で人型の怪物が、2足歩行で闊歩していた。
蛇のような頭に、長い首。
ゆらゆらと揺れ動く頭は低い位置にあり、体に似つかわしくない大きい手には大きな爪が見える。
あの緑色。てらてらしていて、光を鈍く反射してるけど…鱗?
爬虫類と、人間を掛け合わせたような化け物。…昨日の奴以外に、あんなのまでいるのか。
見た限りだと、誰も犠牲にはなっていないのが幸いだ。
…もしかして、さっきの床の傷はあいつがつけたのか?
爪跡のような傷も、あの怪物ならつけることができるかもしれない。
もしそうだとしたら、この階にもいることになる。
見つかったら何をされるか分からない。気をつけないと…。
2階も見渡す。
床や柵、所々が壊されてる。一部がへしゃげていたり、崩れているところも。
これに関しては、昨日の人型の怪物のせいだろう。人間をちぎれるのだ、それぐらい簡単にできるに違いない。
…本当に、もう少し大人しくしていてほしい。
3階も見渡す。
下の階を見ても、この階が一番マシかなもしれない。
柵がいくつか折れ曲がってるけれど、崩れているところはない。
それにしても、どの階も柵が簡単に折れ曲がっているのが気になる。…意外と脆いのか?この柵。
…あたしでも、曲げられるかもしれない。
「…ふぅぬぬぬぬ!…って、できるわけないじゃん…」
一ミリも曲がらなかった。…まあ当然なのだけれど。
…全ての階を見渡して気づいたことがる。
それは、階層を移動するための手段がないことだ。エレベーターどころか、階段一つない。
この場所に無いだけかもしれないが、どうなのだろう。
とはいえ、下の階に人がいたという事は、きっと行く手段はあるに違いない。…今のところ、好き好んで行こうとは思えないが。
「…さて、そろそろ真面目に探索しようかな。」
Gフォンをだしてマップを開く。昨日は逃げるのに必死で、探索らしいことはあまりできていない。
しいて言えば、フードコートを見て回ったくらいだ。
その為、案の定マップが埋まってない。全体が分からないから、これがどのくらいなのか分からない。
それに、下の階とかはやっぱり表示されない。…いずれ行くことになるのだろうか。
ともかく、まずは今いるフロアのマップを埋めていくしかない。
「……よし…行くか…」
Gフォンをポケットに仕舞い、気合を入れなおす。
…拳銃だけカバンから出しておく。さっき見た怪物がいるかもしれない、いざという時に必要になる。
それにしても、落ち着いて見渡してみるといろいろなお店がある。
服屋に飲食店、それに本屋。ほかにも様々な店が並んでいる。こうしてみると、ここは間違いなくショッピングモールなのだろう。
何かの理由で放置された場所なのか?でも、店によっては商品が並んでいるから放置とは違う気がする。それに、放置されたにしては、棚や机が真新しく感じる。
「はぁ…こんな状況じゃなかったら、ゆっくりと買い物とかできたのに…」
そんなことを考えながら歩く。
すると、ふいに誰かの声が聞こえてきた。
すぐに壁に寄り、聞き耳を立てる。…何人かが、会話しているように聞こえる。
姿を見られないように、そっと声の方を覗き見る。
「…誰だろう。」
同じような服を着た男の子2人と、女の子が1人。
あの服、昨日わたしを襲った人も着てたけど…学校の制服?
胸元に校章のようなものが付いているのを見ると、おそらくそうなのだろう。
それよりも、聞こえてくる会話を聞いていると…なんだか揉めている?
「だから!1階に行けば外に出られるかもしれないだろ!黙ってついてこいよ!」
「まだこの階を調べていない。それに状況もわからないのだから大きく移動するのは危険だろう?」
「へっ!いろいろ言ってるけど、要はビビってるだけだろ?」
「僕は慎重に動くべきと言っているだけだ!」
「それをビビってるっつてんだよ!」
「あ…あの…け、ケンカは…。」
「お前は黙ってろ!」
「きゃっ!…うう…。」
それを見て、考えるよりも先に体が動いていた。
突き飛ばされた女の子に駆け寄り、手を差し出す。
突然現れたあたしに、喧嘩していた二人も言い合いをやめ、警戒心を向けてくる。
…ここは落ち着いて対応しよう。
「ああ?なんだお前?」
「あたしは神代 結。よろしく。ねえ大丈夫?立てる?」
「あ…ありがとう…ございます…。」
手短に自己紹介をして女の子を起こす。
涙目になってはいるが、見たところ怪我はないようだ。…よかった。
警戒している彼らを無視して、女の子を起こしたからか、あたしに敵意がないと判断されたようだ。
男子達は、ばつの悪そうにしながら話しかけてくる。
「名前なんか聞いて……はあ…もういい。なんか萎えちまったぜ。」
「それなら、自己紹介してもらってもいい?」
「チッ…俺は麻倉 鋼一だ。」
「僕は石塚 良平よろしく。」
「わ、わたしは雪原 舞…です。その…よろしく…お願いします…。」
「麻倉君に石塚君それと雪原さんね、よろしく。…それで?何をそんなに揉めてるの?」
ひとまず、さっきまでのギスギスとした空気はなくなったようだ。
麻倉君は灰色の短髪でピアスをした目つきの悪い男子。ガラの悪そうな感じがして、あまりいい印象はない。
後、大きな鉈みたいなのを持ってるけど、どこで拾ったのだろう。
石塚君はメガネをかけた落ち着いた雰囲気のある男子。
話し方や態度、どれを見ても真面目そうな印象を受ける。
確かにこの二人だと、喧嘩になっても仕方がない。相性が悪い。
最後に雪原さん。黒髪で腰まであるロングヘアの女の子。
すごく怯えてるようだけど…この状況だ。仕方ない。
…というか、容姿がすごく整っている。同性であるあたしでも、思わず見てしまうほどだ。
「俺は、さっさとここから出て行きてぇから1階に行こうって言っただけだ。建物なんだから1階に出入り口があるだろ?なら1階に行くべきだって言ってるのにこいつが!」
「何もわからない状況で、考えなしに移動するのは危険だって言ってるんだ!映像でも実験体とかいうのがうろついているって言っていた、ここは慎重になったほうがいい!」
「結局何もしねえってことじゃねえか!」
「そうは言ってないだろう!」
ひとまず話を聞こうとしたが、目を離した短い時間でまた言い合いを始めていた。
このまま言い合いをさせていても、らちが明かない。
とにかく落ち着かせないと。
「はいはいそこまで。そんな大き声でケンカしないでよ。」
「ああ!?いきなり現れて仕切ろうとするんじゃねえよ!」
「はあ…そんなに興奮しないでよ…。別にあなたの意見間違ってるとは思わないから。」
「えっ…お、おうそうか…やっぱりそうだよな!なら1階に」
「ストップ!石塚君の考えも間違ってない。いきなり1階に行くのは危ないから。」
「やはりそうだろう?ならこの辺りを調べて」
「はいはい、とりあえずあたしの話聞いてくれる?そうすれば2人とも納得すると思うから。」
どうにか、1階への特攻は防げた。危なかった。
…ふと思った。
麻倉君が、1階へ行くと簡単に決めれるのは、どんな危険があるのか知らないからではないか?
どんな危険があるかしれば、もっと落ち着いて考えられるはずだ。
3人に昨日この施設で見たものとかを話した。
怪物…実験体?のことや……あたしが人を撃ったことは言わなかった。というより言えなかった。
最初、怪物のことを話しても半信半疑だった為、吹き抜けから1、2階を見せてみた。
ちょうど1階に緑の怪物がおり、それを見て青い顔をしながら納得してくれた。
「これでわかったよね?この施設にはあんな怪物がうろついてるから、ある程度準備はしておかないと最悪…。」
「死ぬってことかよ…。クソッ!なんなんだよ!」
「ところで3人に聞きたいことがあるんだけど…」
「なんだ?僕たちよりも君の方が色々と知っていると思うが?」
「あ~この施設のことじゃなくて、目が覚めた時のことが聞きたくて。どんな感じだったの?」
「そのことか。説明したいけど、悪いが後にしてもいいか?少し移動した方がいい。それに…」
きゅるるるる…。
どこからか、可愛らしい音がした。…もしかして、お腹の音?
雪原さんの方をみると、顔を真っ赤にしてお腹を抑えている。…なんだこの可愛い生き物は。
「雪原さん、お腹空いたの?」
「うぅ…」
「…実は昨日から何も食べていなくてな。なんでもいい、食べ物を持っていないか?」
「それなら…えっと…あった。これ食べていいよ。」
あたしは、カバンから携帯食料を取り出して渡す。
1パックに2個ずつ入ってる。それを4人で分け合った。
これで最後か…また見つけないと。空腹だといざという時に動けない。
昨日のように鞄を探さないと。
携帯食料を名残惜しそうに食べる彼らを見て、なおさらそう思うのだった。
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