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EDEN  狂気と裏切りの楽園  作者: スルメ串 クロベ〜
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3-4.既視感

納得いくまで直し続けると永遠に投稿できない…

「ん…んあ?」


彼…龍之介さんが、気の抜けた声と共にベッドから起き上がる。

無事だった安心感と嬉しさがあり、すぐさま声をかけようとした。

しかし、近くにいた神代さんの視線に気が付き、わたしは恐る恐る彼に声をかける。


「りゅ、龍之介さん?」

「?ああ舞か、おはよう。…ここどこだ?」

「大丈夫ですか?!何かおかしなところはありませんか?!」

「ちょ、ちょっ!なんだなんだ!?」

「雪原さん少し落ち着きなさい。」


質問攻めするわたしを、なにが何やら分からないと言った様子で見つめる彼。

一息つき、先走る気持ちを落ち着けようとすると、


「……」

「な、なんだ?そんなじっと見ていててっ!ななんだ?!」

「黙ってなさい。」


神代さんが彼の瞼を強引に開いてライトを当て観察し始めた。

真剣な様子の彼女に、騒いでいた龍之介さんも押し黙るしかないようで無抵抗だ。


「…大丈夫…ですよね?」

「ええ、今は大丈夫そうよ。残念なことに。」

「残念ってなんだよ!?後、そこの奴は誰?!」

「元気になってよかったですね~。」


神代さんの嫌味に驚く彼を見て、いつもの様子に戻ったのだと確信する。

そして、状況が呑み込めていない彼に説明をした。


彼の様子がおかしくなってしまい、神代さんとどう対処するか揉めてしまったこと。

そしてその場に現れたのが、ここにいる春野 桃花 (はるの ももか)さんだった。

無表情で、かなり緩い口調で話す人。すごくマイペースな人だ。


彼女は暴れる龍之介さんを静めるために、薬を投与して意識を奪った。

…彼女が使った薬は、以前わたしが雫さんに使ったものと同じだったようで、龍之介さんはすぐに動けなくなっていた。


そして動けなくなった彼を連れて、安全な場所で彼が目を覚ますのを待っていた。

この安全な場所は、春野さんが案内してくれた。マンションの一室で、2階だから損傷しているところもなかった。


「…また、迷惑をかけたみたいだな。」

「気にしないでください。こうして無事だったんですから。」

「その事なんだが、どうして俺は無事なんだ?おかしくなって暴れただけでなく、怪物になりそうだったんだろ?」

「それは彼女にお礼を言いなさい。」


そう言って神代さんは、春野さんを見る。その手元には中身が空になった注射器が握られている。

彼女の言う通り、彼が無事目を覚ましたのは春野さんのおかげだ。

彼女が持っていた薬…抑制剤のおかげだ。


「変異症状が出た人の症状を一時的に静める薬だそうです。」

「マジか!そんなすげえ薬を使ってくれたのか…本当にありがとう!」

「いえいえ~無事でよかったですね~。ね?結先輩。」

「………はぁ…」

「全然思ってなさそうなんだが!?」


そのやり取りを苦笑いしながら見つめる。

けど、神代さんの気持ちも分からなくもない。なぜなら…


「それではありがたくもらいますね~。」

「…ええ。」

「そ、そんなに持ち歩けるんですか?」


わたし達が持っていた物をほとんど持っていかれてしまったからだ。

ほくほくとした顔で、わたし達の鞄の中から中身を抜いていく。

龍之介さんも何か言おうとしているが、薬と交換したと言われると何も言えなくなっていた。


結局持ってきた食料や、武器、雑貨に至るまでほとんどを持っていかれてしまった。

最低限使う分だけは返してくれたのは、彼女なりの善意なのだろうか。

…いや、これだけ容赦なく持っていかれているのだから善意なのだろうか?…足元を見られているだけな気がしてきた。


そうやって持って行ったものを手早く整理すると、こちらを向き直って話し始めた。


「さて先輩、少し頼みたいことがあるんですよ~。」

「その前に聞きたいことがあるのだけれどいいかしら。」

「?なんですか~?」

「このフロアで、今までどんなことがあったかを教えてほしいのよ。私達は今日来たばかりで、状況がつかめてないから。」

「あ~…それはかまわないんですけど…出来れば私の頼みを先に聞いてほしいですね~ちょっと急がないといけないので。」


神代さんの言葉に困ったように毛先をいじる。

あまり焦っているようには見えないが、感じ取れる感情は明らかに焦っているように思う。


「急ぎ…ですか?」

「そうなんですよ~。その…ちょっと仲間とはぐれてしまいまして…探すの手伝ってほしいんですよ~。」

「それは確かに大変ですね…すぐに見つけないと。」


窓の外を見ると少しオレンジがかっている気がする。日が落ちるまでもうあまり時間がない。


「それもあるんですけど~もう一つ急ぐ理由があるんです。」

「時間がないから早く言って。」

「…私の仲間の一人なんですけど、ある力を持ってまして~…もしかしたら、そちらの人にも必要になるかもしれません。」

「力?」

「人が怪物に変わる現象…それを抑える力をもってるんですよ~。」








「私が先行するので~後を付いて来てください~。」


そう言って歩き出す春野さんを、わたし達は見失わないように追いかける。

筒浦さんはセーフルームに残ってもらった。少し心配だが、連れまわすよりもあそこにいた方が安全だという神代さんの言葉を信じることにした。

外はすでに夕方。暗がりができるので助かるが、夜になるまであまり時間は残されていない。

目的地は彼女が仲間とはぐれた場所。ある事情でそこにいる確率が高いそうだ。


「そういえば、Gフォンで連絡が取れましたよね?繋がらなかったんですか?」

「あ~…実は逃げてる途中で落としたみたいでして~持ってないんですよ~。」

「それは大変…それならGフォンも一緒に探しましょうか。」

「ん~多分大丈夫だと思います~。仲間の一人が拾ってくれているのは知ってますから。」


誰かが拾ってくれているのなら一安心だ。Gフォンは連絡を取る以外にもいろいろな場面で必要になる。

そういえば、このフロアでもセーフルームを開けるときにGフォンを使っていた。

突然春野さんに貸してくれと言われたが、あれはそういう理由だったのか。


「連絡できないのなら、入れ違いになるかもしれませんね。」

「そうなったら仕方ないですね~。あきらめて明日まで待ちましょうか~。」

「…相変わらずのんきね。もしかしたらすでに死んでるかもしれないわよ?」

「あ~…ないとは言えないですね~。あの人弱いですし。」

「えっと…と、とにかく急いだほうがいいですね。」

「すみませんが、そうしていただくと助かります~。」


そう言って進む道を変えた。先ほどまでは、死角の多い路地裏を通って安全に進んでいたが、どうやら大通りの方へ向かっているようだ。

また誰かがこちらを狙ってくる可能性はあるが、時間がない今は仕方がない。

それに今は前よりもスムーズに行動できている。重たい荷物が無くなったおかげだ。

何が必要になるか分からなかったからいろいろな物を詰めていたが、動きにくくなるほど持ってきたのは失敗だった。

…神代さんは平気そうな顔でいつも通りの動きをしていたのを考えると、単に自分が非力だっただけなのかもしれないが。


そうこう考えている内に大通りを超えていく。

十字に伸びる道路。車線が複数あり見通しがすごくいい。そのため、誰かに狙われないか警戒しながら急いで駆け抜ける。

こんな大きな道路なのに、車が一台も通っていない事には違和感を覚えてしまう。

それにしても、道路を横切るなんて状況、いつもだと絶対にないため、悪いことをしているようで少しドキドキする。

でもそれだけじゃない。この景色…どこか見覚えが…


「きゃっ!」


考えながら歩いていたため足元を見ていなかった。何かに足を取られ転びそうになるが、寸前のところで神代さんに助けられる。

彼女に手を借りながら立ち上がる。ひっかけた足も特に痛みはなく一安心だ。

何に躓いたのかと思い地面を見ると、大きな割れ目ができていた。

周囲が少し暗くなってきているからか気づかなかった。けれどこの割れ目…というよりも、何かがひっかいたような跡が気になる。


「それを付けた奴は夜になると現れますから、出くわす前に急いだほうがいいですよ~?」

「付けた…という事は、怪物がこれを?」

「直接見たわけではないんですけどね~。それを付けてそうな怪物がいるのは知ってます~。確か」

「急がないと遭遇するなら話は後よ。わざわざ現れるのを待つ必要もないし、先を急ぐわよ。」

「あっ…そうですね…」


そう言って先を急ぐ神代さん達を追った。

確かに日ももうずいぶん傾いている。今は先を急ぐべきだ。春野さんの仲間を見つけた後、セーフルームまで戻らないといけないのだから。


「………」


けれど、 どうしてもさっきの地面が気にかかる。

…あの地面の傷跡、前にどこかで見た気がする。いったいどこで…


「舞…あの傷跡に見覚えがないか?前にどっかで見た気がするんだけど…」

「わたしもです。でもどこで…」


走っていることもあって考えがまとまらない。

ひとまず傷跡の事は考えないようにしよう。


あの、大きな獣が付けたような傷跡は。




大通りを超えた先は、商業施設が多く並んでいるエリア。

先ほどまでは住宅街が多かったが、こちらの方面は飲食店や服屋、カラオケやゲームセンターなど建物が多く立ち並んでいる。

いままでずっとショッピングモールにいたせいか、こんな状況でなければゆっくりと見て回りたいと思ってしまう。

…それにしてもこの景色…なんだろうか、すごく既視感がある。


春野さんはともかく、続く神代さんも迷うことなく進んでいる。まるでここを知っているかのように。

でもそれはわたしも同じだ。この道…ゲームセンタの裏道を抜けると、小さな畑が見える。

その先にはコンビニがあって…


「か、神代さん…ここって…ひょっとして…!」

「ええ…まさかと思っていたけれど、どうやらここは地上とほぼ同じ景色になっているわ。」

「…は?ちょ、ちょっと待てよ。それって…街一つコピーしたってことか?!」

「外見だけならそこまで驚くことじゃないわ。問題は、建物の内部まで複製されているってことよ。」

「!」


そう言われて思い出す。さっきまでわたし達がいたセーフルーム、妙に生活感があった。

まるで、その部屋に誰かが住んでいるかのような…

それに道中にあったお店も、時折内部が見えることがあった。荒れてはいたが、棚に商品があるように見えた。


「つまりなにか…ここは地上の俺達の街を完全に複製してるってことか?」

「そういう認識で間違いないわ。おかげで地理を調べる手間が省けたわ。」

「そんな感想でいいんですか…」


あまりにもあっけらかんというものだから、深く考えるのが馬鹿らしくなってしまう。

それにしても、どうして地下にこんな街を作ったのだろう…


「考えるのは後よ。それよりも春野、そろそろ目的地よね?」

「そうですね~。お二人…あ~全員知ってますね~。」

「?わたし達も知ってるところ…ですか?」

「ええ。場所は、私達が通っていた高校…上聖高校よ。」

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