3-3.兆候
スマブラにはまってました…
大通りを進むことはやめ、住宅街の路地を進んでいく。
見通しはよくないが、遠くから狙われる危険性は低い。仮に狙われたとしても、距離が近い分対処しやすいということのようだ。
神代さんを先頭に進んでいくが、周りを警戒しながら進む分さっきまでよりも足取りは重い。
それに、
「はぁ…はぁ…」
「大丈夫ですか、龍之介さん。」
「っ…あ、ああ…」
後ろについてきている龍之介さんの様子がおかしい。
筒浦さんは神代さんが背負っているし、荷物も減った分負担は減ったはずなのに、明らかに調子が悪そうだ。
そこまで移動していないのにも関わらず息が粗く、冷や汗が滝のように流れている。
それに…目がおかしい。
血走ったように充血しており、虹彩の部分が赤くなっているように見える。
時折そうなるのは見たことがあるが、今は常にそうなっている。
今の彼は獣のようにしか見えない…急いでどこか休める場所を探した方がいい。
というよりも、これだけ家があるのなら適当な家に入ればいいのではないか?
そう思い、前を行く彼女に声をかける。
「神代さ」
「分かってるわ。けど、この辺りで休むのは危険みたいよ。」
そう言って立ち止まり、近くの家を指さす。
一見綺麗に見えるが、その家が休むのに向いていないのはすぐに分かった。
玄関部分に、大穴が開いているからだ。よく見れば屋根の一部が盛り上がっており、天井にも穴が開いているのが分かる。
周辺の建物も似たような状態で、まともな状態の家はないようだ。
「誰かがこっちを狙っている以上、あんな場所で休むのが正解とは言えないわ。」
「でも…」
「彼が限界ならそのあたりに入るけど、どうする?」
「だ、大丈夫だ…」
俯いて、辛いのを耐えている彼はどう考えても大丈夫ではない。
「まだ…このフロアの事何もわかってない…だろ?俺の事よりも…誰かを探して少しでも情報を集める方が先だ…」
「だそうよ。私もその意見には賛成よ。」
「けど!」
「…このフロアにも外出禁止時間があると思うわ。太陽の位置もさっきまでより西に傾いてきている、今は先を急ぐべきよ。」
「あ、ああ…そうだな…そのほうが…いい。」
二人に押し切られ、そのまま先に進もうとした時。
進路の先を誰かが通り抜けていくのが見えた。一瞬だったので人相はわからなかったが、ようやく人を見つけられた。
神代さんに伝えようと思ったが、既に追いかけ始めている。せめて声をとは思うが、直ぐに追わないと見失ってしまうかもしれない。
龍之介さんへの心配を胸に仕舞い、すぐにその後を追った。
走るたび、鞄のひもが肩に食い込んで痛む。必要な物を厳選して詰めてきたが、持ち歩くのは控えた方がいいのかもしれない。
…それにしても、どうして神代さんは人一人背負い、荷物まで持っているのにあんなに早く動けるのだろう。
うらやましいと考えつつ、何とか見失くことなく彼らの後を追っていく。
すると、少し開けた場所へたどり着いた。
建物を建てている途中なのか、鉄筋などの資材と重機が置かれている。
その建設途中の建物の下に人影が3つ見える。背格好からして、男性が2人と女性が1人のようだ。
なんとか話をと思い近づこうとしたが、神代さんが腕を出して静止してきた。
「?神代さ」
次の瞬間、女性の叫び声がこだました。
すぐに声のした方を向くと、2人の男性が倒れている女性に何かしているのが見えた。
遠くて最初は何をしているのか分からなかったが、何か良くないことをしているのはすぐに分かった。
腕を振り上げては下ろす。その度に上がる悲鳴。よく見れば、手に何かを持っている。
30㎝ほどのそれは、棒状で鋭利な形…そこまで考えて、ようやくそれが何か思い当たった。
急いで止めようと走り出すと同時に、男性の一人の頭がはじけた。
突然の事で、踏み出した足が止まってしまう。それは相手も同じようで、何が起こったのか分からず、倒れた仲間を見つめている。
…隣にいるこの人は、警告など一切なく、躊躇すらせずに頭を打ち抜いた。今は仲間なのだとしても、その容赦のなさには恐怖を覚える。
そのまま彼女は、動けずにいるわたしとは違い、直ぐに残った男に近づいていく。
それを見た男は逃げ出そうとするが、それを読んでいたのかのように2発の銃弾が両太ももに当たり、地面に転がった。
痛みでのたうち回る暇もなく、顔面を蹴り上げそのまま動かなくなった。
あまりの手際の良さに呆気にとられ、思わず乾いた笑いが漏れる。
そのまま倒れている女性の容体を見始めた。そこでハッとして、彼女の側へと
「雪原舞!後ろ!」
そう叫ぶ彼女。振り返ろうとしたが、その前に頭に衝撃が走った。
何が起こったのか理解する暇もなく、地面に倒れこむ。
痛みと衝撃で上手く頭が動かない…けれど、ここまでの経験からか無意識に体が動く。
横に転がり、うつぶせの状態から仰向けになりつつ拳銃を構えた。
最初に見えたのは血のような赤。それが人間の瞳なのだと理解した時にはもう、そいつの手がわたしの首を握り新ていた。
「あがっ…!…は、はなし…」
「フゥー…ウゥー…」
目の間の彼は、わたしの言葉が理解できていないように思える。
それはその姿からも分かる。全身の至る所が、爬虫類のような状態になっているからだ。
わたしの首を掴む手も、長く伸びた爪が食い込んで痛む。
ギリギリ…と籠められる力が強くなってきている気がする。
…まだ頭がくらくらして考えがまとまらないが、このままだと殺されるという事は本能的に理解させられた。
なんとか腕を振りほどこうとするが、込められた力が強すぎてびくともしない。
それに銃を持っているせいで、片腕でしか腕を掴めない。今は振りほどくのを優先して、銃を…
…撃てばいいじゃないか。
眼前に迫る相手の頭、側頭部に拳銃を突きつけ、引き金を引いた。
酸欠の為か驚くほど静かで、銃弾が出たのか分からない。
けれど、相手の口元から血液がこぼれ出たのをみて、ああ…ちゃんと出た。そう静かに思った。
首元の締め付けが緩くなると同時に、そいつを突き飛ばす。
すぐに溜まった二酸化炭素を吐き出し、空っぽだった肺を空気で満たしていく。
何度かせき込みつつ、呼吸を整えていく。鈍った思考も治りつつあるようで、状況を把握するべく周囲を見渡す。
さっき襲ってきた人は、わたしの足元で頭から血を流して動かない。…多分死んでいる。
所々怪物に変わってはいるが、人間の部分も多く残っており、殺してしまったことへの罪悪感がのしかかってくる。
こみ上げる吐き気を飲み込んで、静かに、胸の内で謝罪をする。
…この謝罪は相手の為じゃない。きっと、わたしが楽になるための謝罪なのだと理解しつつも謝った。
神代さんの方を見ると、さっきまでなかった異形の姿の怪物が2体地面に転がっている。
その代わりに、怪我をしていた女性と残った男性がいない。
多分あの二人が怪物に変異したのだろう。それを一人で倒す彼女はすごいと思う。
右腕をさすっているが、目立った外傷はないように見える。少し痛めたのだろうか。
そういえば龍之介さんは?
わたしが襲われている時、なにもしてくれなかった。…これは少し酷いと思う。
助けてくれてもいいのに。そう思いながら彼の方を見る。
「っ!龍之介さん!」
そうできなかった理由がそこにはあった。
頭を抱え、地面にうずくまっている。固い地面など気にする余裕がないのか、地面で腕をひっかいても気づいていない。
わたしが声をかけても、返ってくるのは苦しみに耐えるようなうめき声。
どうしたらいいのか分からず、神代さんに助けを求める。
彼女なら…そう思いながら声をかけようと彼女を見ると、あろうことか、拳銃を龍之介さんに向けていた。
「な、なにをして」
「黙ってなさい。…真壁龍之介。私の声がきこえるかしら?」
その言葉に返事はない。
だが、うつむいていた顔を上げ、ようやくわたし達を認識した。
正気に戻った?そう思い近づこうとするのを神代さんは許さない。銃口を逸らすことなく、淡々と言葉を続ける。
「このまま…私の言葉に答えないようなら、悪いけどこの場で始末させてもらうわ。」
「な、なにを言ってるんですか…?」
「雪原さん。あなたには悪いけど、彼は今怪物に変わる瀬戸際にいるの。このまま見て見ぬふりはできない。」
「で、でも治せるんです…よね…?」
「……」
…彼女が言葉に詰まっているのが答えだろう。
今の龍之介さんが怪物になったら、治すすべはない。
だから、怪物に変わってしまう前に、彼を殺すつもりなのだろう。
けれど…彼女は今、最後のチャンスを龍之介さんに与えている。
まだ、わずかでも正気に戻れるのなら、神代さんも踏みとどまってくれるはず。
「な、なんだ…お前たち…お前らは…誰なんだ…?」
「…ダメね。わたし達を認識できてない。」
「ま、待ってください!龍之介さん!わたしです!雪原舞です!分かりますよ!?」
「ち、近づくんじゃねえ!あ、あいつラをどこにヤった!?」
「残念だけど、ここまでね。」
引き金を引こうとする彼女。このままだと、龍之介さんが殺されてしまう。
「…そこをどきなさい。」
「…嫌です。」
気が付いた時には、龍之介さんを守るように前に踏み出していた。
「分かっていないようだから言うけど、そうなった人間はどのみち長くないわ。今死ぬか、数時間後か、明日か、明後日か…」
「じゃあ今じゃなくてもいいじゃないですか!」
「そうね。でも、それがいつなのかは分からない。これから行動を共にするにはあまりにも危険すぎる。」
「そ、それは…じゃ、じゃあわたしがちゃんと見ておきます!それなら」
「あなたは24時間起き続けられるの?気を張り続けられる?いつ寝首を書かれるのか分からないのよ?」
「…やります。それで、友達が殺されずに済むなら。」
「いや~思ったより、しっかりしてる人だったんだね~。」
争うわたし達とは対照的な、気の抜けたような声がわたし達の会話を遮った。
声のした方を見ると、そこにいたのはけだるそうな女性。
あいさつ代わりなのか、ひらひらと手を振りながら近づいてくる。
…あの人は、
「「春野?」」
「およ?そっちの人はなんで私の名前をしてるのかな?神代先輩は久しぶり~。」
この場の空気など知らないとでも言わんばかりに、ゆるゆるな態度。
わたし達に近づいたかと思えば、そのまま龍之介さんへと近づいていく。
その手には、見覚えのある物が握られている。
「…っ!そ、それ!あの時の!」
それは以前、わたしが雫さんに使った物。
使った相手を昏倒させる薬が入った注射器だ。
「先輩一つかしだから~。」
「だ、ダメです!」
わたしが止める間もなく、彼女は注射器を龍之介さんに突き立てた。
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