0-3.少女の後悔
今回は神代結視点です。(主人公ではないです)
本編前の話になります。
私の人生は間違いに満ちている。
神代結。神様の代わりに結び付ける。それが私のなさなければいけない事。
けれど、私は方法を間違えた。そのことに気づいた時にはすべてが手遅れ。
助けていたはずの人達には疎まれ、都合のいい存在として使われた。
けれど、それでいいと思っていた。
私が不幸でも、誰かが幸福になってくれるならそれでいい。そう思っていた。
だから私は、二人しかいない友人の一人が病気にかかった時、自分を犠牲にしてでもそれを治そうとした。
姉さんが開発していた機械を無断で使用し、足りない知識と経験を脳に刻み込んだ。その結果感情が消失してしまったが些細な問題だ。
全ての時間を、治療法の開発に使った。文字通りすべての時間を。
周りはそれを疎ましく思っていたろう。けれど、感情が消えた私は気づかなかった。
それに、そういった人はいつの間にかいなくなっていた。
結果として、私はその友人を救う事には成功した。
けれど。そのせいで私は…大切な友達を傷つけ、追い詰めた。
私は他人を救う事ばかりに固執し、自分をないがしろにした。
…その代償を、他人に…残された親友に押し付けているとも気づかずに。
そのことに気づいた時には、全てが手遅れだった。
「か、神代さん。来週の文化祭の件なんだけど…」
放課後。窓からは夕暮れ時のやわらかい光が差し込んでいる。
廊下からは、文化祭の準備をしている学生達の楽しそうな話し声が聞こえてくる。
そこに加わることもなく、帰り支度をしている私に話しかけてくるクラスメイト。
全く関りがないからだろうか、こちらに視線を合わせようとしない。
「ごめんなさい。少し用事があるの。明日でも構わないかしら?」
「ご、ごめん。そうだよね、研究忙しいよね。」
「いえ、それもあるのだけれど…」
私は空席になっている席を見つめる。
その視線に気づいたのか、クラスメイトは少し気まずそうにしている。
「…雨宮さんが来なくなってから、もう1週間は経つね。」
「……そうね。」
愛想笑いを浮かべながらそう言う彼女。…少し不愉快だ。
態度に出ていたのか、そのことに気づいた彼女が慌て始めた。
「あっごめん!私無神経に…」
「もういいかしら。私は彼女を探しに行きたいのだけれど。」
「そ、そうなんだ…えっと…うん。頑張ってね。」
俯いて話さなくなった彼女を捨て置き、私は鞄を掴むと、足早に教室を立ち去った。
これ以上彼女と話しているのは時間の無駄だ。今は1秒でも時間が惜しい。
廊下では、生徒たちが談笑しながら作業をしていた。至る所から聞こえてくる笑い声…今の私にとって、それはただ不快なだけ。
私は彼らに目もくれず、学校から立ち去った。
本当なら学校も休んで探しに行きたい。けれど、目撃情報が全くない。
なので、学校の生徒が彼女を見た可能性に賭け、登校している。
…だけど結果は芳しくない。生徒達も、彼女を見た人は誰もいない。
1年前からだっただろうか。私が住んでいる地域…いや、通っている学校の生徒。それも、私と同学年の人が行方不明になる事件が何度も起こっているのは。
警察が何度調査しても、犯人を特定できない。
複数犯なのか、それとも単独犯なのか。それ以前に、犯人の年齢、性別なども全く分かっていない。
迷惑なことに、一部では私が犯人だという噂が流れている。
なんでも、人体実験するために連れ去った。
研究費用を得るために、売り飛ばした。等、散々な言われようだ。
…だけど。
私は、その噂が真実なのかもしれないと思い始めていた。
理由は色々ある。
私は治療薬を作成するために試行錯誤したはず。だというのに、その記憶が抜け落ちていた。
最初に思い出せる記憶が2か月ほど前。それ以前の、約1年間の記憶がない。
おそらく、知識を無理やり脳に刻み込んだ影響だろう。
気づいた時には、臨床も終わり、後は安定化をさせるだけの段階だった。
そして、もう一つの理由が完成までの異常な速度だ。
今まで治療法がなかった病気なのに、たった1年で完成させている。はっきり言ってこれは異常だ。
薬を開発するためには多くのデータが必要になる。
たとえ、どれだけ早く薬ができても、その安全性を証明するために膨大な時間が必要だ。
早くても9年。場合によっては、何十年と掛かる。
にも関わらず、私が作った薬はたった1年ほどで承認された。
…これは異常だ。
未だ安全性に疑問が残っている。使用法を間違えると、使用者を変質させる危険性があるのだ。
そんな危険な物にも関わらず、作成過程のデータを見ると、なんと人間に投与したデータまであった。
それも…調合を始めて、1ヵ月程で。
一体どうやって許可を得たのか。そもそも、その人間はどこから連れてきたのか。
データにはプロフィールの記載がなく、その人物を特定できない。まるで、誰なのか知られないように隠蔽しているようで気味が悪い。
…本当に被験者に説明し、許可を取ったのか?
正直、まとまな人間なら絶対に協力しない。
薬なんて言っているが、実態は寄生虫を頭の中に入れている。
この方法を本当に私が考えたのか?…正気の沙汰じゃない。狂気の行いだ。
そんな危険な物にも関わらず、治験は行われた。
だからだろう。その人達は、人体実験のためにどこかから攫ってきた。そういう考えが沸き上がってくるのは。
そして、その治験にという名の人体実験に利用されたのが誘拐された人なのではないか?そう思えて仕方がない。
…そして、これが一番の理由。
行方不明なった生徒は、ほぼ全員が私に嫌がらせをしていたらしい。
学校でまともに授業を受けず、ひたすら研究をしていた私は、周りからすれば目障りにに映ったのかもしれない。
私が犯人だという噂が流れているのもそのせいだろう。肝心の私がいじめに関して何も覚えていないのだけど。
けれど、その人たちが行方不明になったことで、私に益があったのは事実だ。
もしかしたら、覚えてないだけで私がやったのかもしれない。あるいは…
…けれど、それを証明するための証拠がなかった。
それに、友達を救うためにも、今は騒ぎになってほしくない。
だから私は、胸の内に渦巻く疑念にそっとふたをした。
…中学の卒業式の日に、彼女…雨宮雫の同級生と担任が行方不明になった後、死亡したことから目をそらしながら。
その後も彼女を探し続けたが見つかることはなかった。
私は研究結果をまとめながら、自分の不甲斐なさに嫌気がさした。
ずっと一緒にいたはずなのに、私は彼女を守れなかった。
それどころか、感情がない私の世話を押し付けていた。
…もしかしたら、そのせいで彼女はいなくなってしまったのかもしれない。
高校生活を、私のために棒に振らせてしまった。
聞けば、クラスの子が彼女を誘っても、私のためにそれを断っていたそうだ。
それだけでなく、休日も常に私のフォローをしてくれていたらしい。
感情がなく、話しかけても返事もしない人間の世話。そんな生活を1年も…きっとすごく辛かったはず。
そうなる事を知っていたら、私は治療法を作ろうなんてしなかったはずだ。
本当にそうだろうか?
……いや、違う。
私は…知っていた。
だって、姉さんの作った機械はまだ未完成で、どんな副作用が出るか分からない。そう説明を受けていた。
脳に影響が出る可能性が高く、記憶の混濁や、感情の抑制なんかが起こるかもしれないと。…そう聞いていた。
だというのに、私はそれを使った。
友達を助けるためだと自分に言い聞かせて、それを使ったんだ。
その結果、周りにどれだけ迷惑が掛かるのか考えもせずに。目の前の事にしか意識を向けずに。
残された親友が、どんな思いをするのかに気づこうともせずに。ただ、自分勝手にそうした。後始末をすべて押し付けて。
…だからこそ、訪れたのはあんな結末だったのだろう。
予定としては、次回 雨宮雫 過去(ネタバレ多くなったら後に回すかも)
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キャラ紹介
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3章といった流れを予定してます。
未道鈴蘭と、筒浦真那の過去はしばらくお預け。
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