0-2.それぞれの日常2
今回は雪原舞視点です。
時系列的には前話後、本編前になります。
「雪原さんまた明日~。」
「はい、また明日。」
クラスメイトとあいさつを交わし、教室を後にする。
彼女は、仕事であまり学校に来れないわたしに話しかけてくれる。友人関係が構築できていないわたしにとって、すごくありがたい存在だ。
別に仕事が嫌なわけではない。むしろ楽しいくらいだ。
確かに最初は、妹の治療費を稼ぐ名目で始めた。
けれど、妹にその必要がないと言われ、続けるかどうか考えた時。わたしはやめる気はなかった。
確かに、多忙なせいで友人はできないし、学校もあまり通えない。
けれどそれ以上に、わたしを応援してくれる人の期待に応えられる嬉しさが勝っていた。
それに入院している妹に元気をあげられる。それだけで、続けるには十分だ。
…そんな妹とは最近会えてない。
6か月前に、一度妹の容体が悪化した。
その時は心臓が止まってしまい、命も危ういほどの状態だった。
わたしはそれを見て気を失ってしまったようで、気づいた時にはすべてが終わっていた。
幸い妹は一命をとりとめたが、治療のため海外へと移送されることになった。
何度か面会を求めたが、予断を許されないためかそれも叶わない。
連絡は、たまにくるメールだけだ。
でも今はそれでいい。
妹が生きていてくれるだけで十分だ。きっとすぐに会えると信じてる。
それにわたしにもできる事がある。
わたしはアイドルだ。テレビや雑誌、インターネットなどいろいろな媒体で勇気を与えられる立場だ。
入院している妹にそれを見てもらい、少しでも元気づけてあげたい。
だから今はもっと頑張らないと。そうじゃないとあの時みたいにまた妹の心臓が止まって…
「…っ!」
ずきりと頭が痛む。
それと同時に一瞬、脳裏にノイズがかかった何かが流れる。
…まただ。あの事があった後から、時々頭が痛む。
お医者様にもかかったけれど、原因は分からなかった。
おそらく、ストレスからくるものじゃないかと言われた。マネージャーもそれに同意していた。
確かに最近は仕事も増えて、忙しい毎日。お休みもあまりとれないし、取れたとしてもレッスンに費やしている。
けど絶対に違うと思う。自分でも理由は分からないけれど、なにか確信のようなものがあった。
それにこの頭痛にはおかしな点がある。
妹の事を考えると、頭が痛くなることが多いからだ。
6か月前まではそんなことはなかった。…でも理由はやっぱりわからない。
なにか大切なことを忘れている…そんな曖昧な感覚が、ずっと胸の内で渦巻いている気がする。
…きっと気のせいだ。きっとほかの人の言う通り疲れているだけだ。
そう思うことにし、わたしはレッスンのためスタジオへと向かった。
…でも、胸のわだかまりが消えることはなかった。
「ふぅ…」
「お疲れ様。はいこれ。」
レッスンを終え一息ついていると、マネージャーが飲み物をくれた。
わたしはお礼を言いそれを受けとる。
体が冷えないように汗をぬぐいながら、飲み物を飲む。疲れた体に、水分が染みわたっていく。
「そういえば雪原さん。君の学校、そろそろ文化祭の時期じゃなかった?」
「はい、そうなんです!私すごく楽しみで!」
わたしの学校は秋に文化祭がある。
入学する前に、企画で行ったことがあるが、すごく楽しかったのを覚えている。
学校でも準備が進んでいて、みんなどこか浮かれているのが見て取れるほどだ。…わたしも含めて。
「はは…君の学校、行事にかなり力が入っているからね。外部の人間も入れるんだよね?僕も行こうかな。」
「ぜひ来てください!先輩方にも声をかけないと。」
今から楽しみで、ドキドキしている。
…でも、少し気になっていることがある。
「…わたし、あまり作業に参加できてなくて。ほかの人達は時間を削って準備しているのに…。それってなんだか、楽しいところだけ横取りしているようで少し気が引けるんです。」
「そうなの?クラスのみんなも、君が忙しいことは理解していると思うけど。」
「そうでしょうか…」
少し不安だ。クラスの人達とは、できるだけ話そうと心掛けているけれど、まだどこか壁がある気がする。
正直、わたしにも原因がある。半年前までは、ずっと仕事の事ばかりで、休み時間も周りと関わろうとしなかった。
放課後はすぐに帰ってしまって、ろくにコミュニケーションを取ろうとしなかった。
少しずつ関係を築こうとしているけれど、あまり進展していない。
「大丈夫だよ。きっと周りのみんなも、君の事事情を理解してくれている。それに。」
「それに?」
「アイドルである君が参加するだけで、周りはきっと喜んでくれるから心配しなくていいよ。」
「…ふふ、なんですかそれ。」
「日程に合わせて休みを調整したんだ。当日は楽しみないともったいない。あっサインは書きすぎないように注意してね?」
「書くなとは言わないんですね。」
「…だって君、頼まれたら断れないでしょ?」
「うっ…気を付けます。」
以前の企画で学校に行った時だ。生徒に頼まれてサインを書いていたら、いつの間にか2クラス分書いていて、マネージャーに止められたことがある。
最初は5人くらいの予定だったのに、わたしが断らなかったせいで大幅に時間を押してしまって他の人に迷惑をかけてしまった。
期待された目で頼まれると、どうしても断りづらい。でも、今後はちゃんと断らないといけないと反省した。あまり実行できていないけれど。
「…でも、もしかしたら中止になるかもしれないね。文化祭。」
「…そうですね。」
わたし達はテレビで流れているニュースを見てそうつぶやいた。
『行方不明者、今年に入って5人目。地域に不安広がる。』
わたしの住んでいる地域…いや、学校の生徒が行方不明になる事件が続いている。
そのせいか、警察の方が学校に来て調査することもあった。そのせいでネットでは、犯人は学生だという噂が流れてしまうほどだ。
被害者はみんなわたしの1つ上の先輩。その為、2年の先輩はみんなどこか怯えた様子の人が多い。
そのこともあってか、学校側でも授業を中止し、オンラインに切り替えようという話が出るほどだ。
親御さんや、一部の生徒はそれに賛成しているが、結局実行されることはなかった。
設備が準備できないなどの理由もあって、実現できないそうだ。
一部では、権力者が圧力をかけた為、あえてやらないなんて噂も流れている。
「いつになったら捕まるのか…。君の事はできるだけ僕が送迎するから、一人にならないように気を付けてね。」
「はい…」
「…大丈夫さ!悪いやつは捕まるのが世の定め。それに、こんなにも頑張っているんだ。きっと雪原さんのためにも開催されるはずさ。」
「そう…ですか?うーん、危険があるなら中止した方がいいと思いますけど…」
「はは…本当に雪原さんはいい子だなぁ~。」
「あう…」
正直、他の人が危険な目に合うくらいなら中止にした方がいいと思う。
…でも、できるなら開催してほしい。
昔行った時の楽しい思い出。それをまた経験してみたい。
それに今回は企画じゃないので、自由に行動できる。前は時間もなかったため、あまり回れなかったし。
今度は、写真もたくさん撮って妹に送ってあげたい。
そしていつかきっと、元気になった妹と一緒に文化祭を回れたら…きっと…
「っ!」
痛みと共に脳裏に流れるなにか。
ノイズ交じりに流れるそれは、誰かが会話しているようにも見える。
けれど、すぐに消えてしまう。まるで、何か知られたくないことを消すように。
思い出さなくちゃいけない。そんなわたしの声が聞こえた気がした。
…大丈夫。きっと気のせいだ。多分何かのドラマの内容が、それっぽく流れているだけ。
今は、この先に待っている楽しい事に目を向けよう。妹のためにも、少しでも写真を撮ってあげないと。
未来。元気になったら、絶対にお姉ちゃんが迎えに行くから。
後日。
テレビに、あるニュースが流れている。
見出しは…
『集団失踪、文化祭で起こった悲劇。生存者は未だ見つけられず。』
…そうなる事を、この時のわたしはまだ知らない。
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