2-51.望む未来を目指して
部屋を出た後わたしは、ロビーのソファーに座り壁にもたれかかり放心していた。
他の人は、これからする作戦について話している。わたしはそれを遠目から見ている。まるで映画でも見ているような気分で。
視線を手元に落とす。小さなわたしの手が小刻みに震えていた。その手は酷く…汚れているように見えてくる。
…目をつぶる。
引き金を引いた時の衝撃。
放たれた弾丸が、無抵抗の人間の頭を貫き、死体へと変わっていく。
後に残る火薬の臭いと静寂。…たった数分の出来事なのに、脳裏に焼き付いて消えない。
…きっとこれから、死ぬまで消えることはない。
わたしは自分の目的のために、自分の意思で…人を殺した。
これは消えることがない罪。きっと、普通の人がそれを知ればわたしを非難するだろう。
…でも、それでもわたしは選んだ。自分で選んだんだ。
たとえ誰から蔑まれても、ひどい言葉を投げかけられても、わたしが選んだことだ。
だから今は、前をむこう。うつむてい、泣くのはもうなしだ。…人を殺してでも、やらなくちゃいけないことがあるんだから。
手の震えはまだ止まらない。…でも、止まるまで立ち止まっていることはできない。
決意を固めわたしは、会話に混ざりに行く。失敗できないのだからちゃんと話を聞かないと。
「それで武器は…雪原舞。まだ休んでいてもいいわよ?」
「いえ、わたしも聞きます。大事なことですから。」
「…そう。なら、あなたも理解できるように、もう一度説明するわ。」
「お願いします。」
神代さんだけでなく、他の2人もわたしの事を心配そうな目で見ていた。けど、はっきりと受け答えする様子を見てなのか何も言わなかった。
そして、彼女が話し始めた。
「すでに向こうには、取引に応じると伝えてある。それで、あいつらがここに来るのが20時。あと、10時間後ね。」
「結構余裕があるのはうれしいが、なんですぐに送ってこないんだろうな?」
「準備があるんでしょ、それはこちらも同じ。まずは時間までにこちらの装備を整えないといけない。」
「ええ。ですから、僕と真壁さんで装備をかき集めます。蔓木のシェルターに行けば、すぐに集められると思います。」
「頼むわ。私はその間、傷を治しながら使えそうな薬品を調合しておく。」
「薬品…ですか?」
「ええ。傷薬や、医療用の道具。それに蔓木のように、相手に投げつけて傷を負わすものをいくつか。それに、あなたの道具も補充しておかないといけない。」
「あっ!」
言われて気づいた。今わたしは碌な装備を持ってない。
あるのはせいぜい、弾切れ間近の銃と、ナイフだけ。これじゃあ怪物に遭遇しただけで、やられてしまう。
「うぅ…すみません、わたしが無駄遣いしたせいで…」
「いえ、あなたは自分の役目をしっかり果たしてくれたのだから、気にすることはないわ。…あなたはよくやってる。もっと、自分を誇りなさい。」
「あ、ありがとうございます。道具の事、よろしくお願いします。」
まさか褒められるとは思ってなかった。…少し照れ臭い。
「えっと、わたしは何をすればいいんでしょうか。」
「あなたには、この場所で使えそうなものを集めてほしい。頼める?」
「はい!任せてください!…でも、わたしこの基地の事あまり知らないのですが…」
「そこは大丈夫です。大葉君が手伝ってくれますので。」
「よろしくねー。」
「あっはい。よろしくお願いします。」
聞こえていたのか、遠くから話に混ざってきた。彼は先に始めているようだった。
「全員、18時には戻ってくるように。そこで、どうやって戦うのかを話し合うから。それじゃあ、解散。」
神代さんの合図と同時に、全員が言われた通り行動する。
わたしも頑張らないと。すぐに大葉さんの元へ行き、彼と共に道具集めを始めた。
18時。時間通り、全員がロビーに集まった。
みんな緊張しているのか、すこし空気がピリピリしている。
…1人を除いて。
「…装備は十分ね。」
「まあな。向こうの基地、装備がほぼ手付かずだったから集めるのは簡単だったぜ。」
「…だからってでかい銃を4丁も持ってくるなんて馬鹿なの?少しは運ぶことも考えたらどうなのかしら。」
机の上には、両手で抱えてやっと持てる大きさの銃が置かれている。
前に龍之介さんが使っていた、グレネードランチャー?…それよりもたくさん弾が入るせいか、それよりも大きい。
こんな大きいのどうやって持ち運べば…それに重そうだし。
「べ、別にいいだろ!この後使って、ここに置いて行けばいいんだし!」
「…誰が使うのよ。」
「そんなの俺と………未道?それにあんただって…」
「いらないわよこんなの。私は接近して戦うから、こんなの渡されても邪魔なだけ。」
「僕もちょっと遠慮したいです。…多分これ改造品ですから、暴発が怖いですし。」
「…そんな事しらなかったし…」
「いや、それでも4丁はいらないですよ…なんで全員分持ってきたんですか?」
「…………俺が使うからいい。」
それだけ言って、膝を抱え始めてしまった。どうやら、やる気だけが空回りしたようだ。
…それでもこれはないと思う。
「馬鹿は放っておいて、雪原さんの方は?」
「人数分のカバンに、食料と飲み物、それに着替え。それから懐中電灯やロープなど、使えそうな物をいくつか入れておきました。入れるものに関しては未道さんにも確認してもらっていますので、不要なものはないかと。」
「上出来できね、どこかの馬鹿と違って。」
「そろそろ泣くぞ!?」
「あはは…それで、この後どうするんですか?」
「向こうは、上階ヘ上がるためのエレベーターでここに来るわ。それを待ち伏せて、殲滅する。」
「エレベーターって、最北端にある扉の向こうですよね?向こう側で待つんですか?」
「いえ、相手がこのフロアに入ってくるのを待つわ。その後は、私があいつらに襲い掛かって未道がかく乱する。その後乱戦になるから、あなた達二人は後方から援護して。」
「分かりました。」「はい。」
「あんたはほかの銃で戦いなさい。その銃は、私が使っていいというまで使わないで。分かったわね?」
「…分かったよ。」
むすーっとしながらも返事は返す龍之介さん。神代さんも、確認してあげているのを見ると、結構優しい人なのかもしれない。
けど、遠くからの援護。わたしにできるだろうか…
「雪原さん。あなたは戦況を見て、何か危険があれば私に教えてほしい。」
「…分かりました。」
ほっとしたが、遠回しに戦力外と言われているようで少しもやっとする。
でも、わたしがそう思うのもお見通しだったようで、
「できないことを無理にやろうとする必要はないわ。危機が前もって分かるあなただから頼みたい、お願いできる?」
「わかりました。任せてください!」
「…後は…」
そう言って神代さんは2人を見る。大葉さんと…筒浦さんだ。
筒浦さんを見るのは分かるけれど、なぜ大葉さんも?
「あなた…考えは変わらないの?」
「…うん、僕はここに残るよ。」
「え!?」
彼の言葉にわたしと龍之介さんは、驚きを隠せなかった。
でも、未道さんと神代さんは驚ていない。もしかして知っていた?
「僕は戦えないし、一緒に行っても足手まといになるだけだから。」
「それはわたしもそうですよ。あっ残るって、この後の戦いが終わるまでってことですか?」
「ううん。僕は、君たちとはいっしょに行けない。上階に上がらず、ここに残るよ。」
「どうしてですか…!」
彼とはあまり話したことはない。でも、わたしが落ち込んで引きこもっているときに何度か気にかけてくれたことがあった。
それに道具を集めているときも、こちらを気にかけてくれて、すごく気づかいができるいい人だと思っている。
そんな人がここに残る理由が分からなかった。…でもそれはすぐに分かった。
「僕はね…諦めちゃった人なんだ。」
「…え?」
「戦う覚悟もなければ、生きたいという意思もない。だから君たちのように先に進むこともできない。僕にできるのは、ただ立ち止まって終わりを待っているだけ。」
「…そんなのあんまりです。大葉さんはずっと、ここの人たちの世話をしていたじゃないですか。」
「彼らも僕と同じさ。いざという時のための保険、鈴蘭と一緒に上階に上がる人が現れた時のためのね。」
「!…それは本当ですか。」
「本当です。…実際必要だったでしょう?」
「だからって!」
「喧嘩は後でしなさい。雪原さん、あなたが何を言っても彼の考えは変わらないわ。無理に連れて行っても、彼が死ぬところを見るだけよ。」
「っ……わかり…ました。」
その後も話し合いは続いていたけれど、頭に入らなかった。
大葉さんのこともそうだけど、未道さんの考えがどうしても理解できなかった。
…だって彼の考えは、人間を家畜のように扱っているようで嫌悪感があった。
もっと、生き残っている人たちに寄り添ってあげれば、彼らも考えを変えてかもしれないのに…
「…さん、雪原さん?」
「っえ、なんです…あれ?ほかの人は?」
「みんな1階に行ったよ?」
いつの間にか皆いなくなっている。
どうやら考え事をに没頭しすぎて、周りが見えていなかったようだ。
その考えも、結局落としどころが見つからなかったけれど。
「すみません、わたしも行きますね。」
「雪原さん…ありがとう。僕のことを気にしてくれて。」
「っ…そんなの当然じゃないですか…短い時間とはいえ、お世話になりましたし。」
「君は優しいね。こんな状況でも僕みたいなのを機にかけてくれている。それはとても尊くて、素晴らしいものだと思う。」
「…だって、せっかく仲良くなれたのに、見捨てるなんてできないじゃないですか。」
「本当に優しいね。…でも、だからこそ気を付けて。その優しさは自分を傷つける。それに、そこに付け込もうとするやつがいるかもしれない。だから十分に気を付けるんだよ?」
「…大葉さんはそういった目にあったんですか?」
「…どうだろうね。僕が馬鹿だっただけかもしれない。それにこんな状況だ、相手を責めることもできないよ。」
そう言って困ったように笑う彼を見て、これはきっと…経験からの助言だと分かった。
彼とわたしは、どことなく似た雰囲気を感じていた。
だからだろうか。何かが違っていれば、わたしも同じように諦めていたのかもしれないと思えるのは。
「君が僕のようにあきらめないことを祈ってるよ。」
「…ありがとうございます。」
彼にお礼を言い、1階へと向かう。
…階段を下りている途中。背後で銃声が聞こえた気がしたが、わたしは振り返らなかった…
この先、彼と同じ選択をしようとするかもしれない。
心が折れ、立ち止まってしまうかもしれない。
でもわたしは……わたしはあきらめない。…絶対に。彼女がそうだったように。
準備を終えたわたし達は、神代さんの作戦通り敵を迎え撃つ準備をしていた。
上階へと続く扉の前には神代さんが。手には拳銃と、大きな鉈。…本当に接近して戦うようだ。
その少し後ろに、未道さんが隠れている。
…彼とは、作戦前に話そうとしたけれど、何を言えばいいか分からなかった。
そんなわたしに彼はそっと近づいてきてこう言った。
「真那の事を、頼みます。」
「え…」
そしてそれだけ言って、配置について行った。
すれ違いざまの一言。表情は分からなったけれど、落ち着いたいつもの彼の声だった。
どうしてわたしに頼むのかを聞きたかったが、そんな時間はもうなさそうだ。
気になるが後にしよう。作戦が終わったら聞いてみよう。それに、彼がやったことに関しても聞いてみたい。
わたしはずっと、わたしが嫌だからとその考え押し付けていた。
もしかしたら何か事情があったかもしれないのに。
落ち着いて話せば、きっと理解できると思う。わだかまりを残したままにしたくない。
わたしと龍之介さんはさらに後方で待機。戦闘が始まったら加勢する手はずだ。
龍之介さんは、スコープのついた銃で狙いをつけている。わたしは下手に撃つと、味方に当てかねないので手を出さない。
けれど、少しでも異変があればすぐに知らせられるように全体を見る。そのためにGフォンは常に通話状態にしてある。
筒浦さんは近くの店に、見つからないように寝かせてある。基地にいるよりはこちらの方がまだいい。…あそこにはもう何もない。
これからまた、殺し合いが始まる。それを意識すると、どうしても手が震えてしまう。
何度か深呼吸をして心を落ち着かせようとするけど、効果はあまりない。きっと慣れる事この先もないだろう。
…そして、その時が来た。
扉が開き、8人ほどが入ってくる。その全員が、重々しい格好をしているのが遠目からでも分かった。
昔テレビで見た、兵隊の方が来ているような服装。大きな銃。あれは前にも見たことがある。
アサルトライフル。威力があって連射が効く銃。それを8人全員が持っている。
彼らがフロアに入り終わると、背後の扉が閉まった。…どうやら、これで全員のようだ。
リーダーであろうスキンヘッドの男が、目の前にいる神代さんに話しかける。
「初めまして。俺は」
「自己紹介はいらないわ。手短に話しましょう。」
「…その歳で、随分と肝が据わっている。俺たちが怖くないのか?」
「どうでもいいわ。それよりも、取引についていくつか聞きたいことがあるんだけど。」
そう言って神代さんは近づいていく。
あまりにも無防備に近づいていくからか、向こうも警戒をしていない。それどころかニヤニヤと、嫌な視線を彼女に向けている。
しかし、先ほど彼女としゃべっていた男は警戒しているのか、険しい顔をしている。
それは彼の気配からも分かる。彼だけが、常に警戒をし続けている。
そんな事お構いなしに近づいていく。
手を伸ばせば触れる距離まで近づいた時、神代さんが鉈を振りかぶって襲い掛かった。
相手は警戒していたが、銃構えておらず神代さんの方が先に当たるように思えた。
けれど、相手に当たらなかった。相手が躱したわけではない、そもそも相手に当たる前に神代さんが腕を止めたのだ。
なぜなら、
「…っ」
彼女はお腹から血を流し、その場に倒れてしまったからだ。
手に持っていた武器が地面に落ち、大きな音を立てる。
1発の銃声。そこから放たれた銃弾が、彼女を貫いたのは明白だ。
…そして、後方から見ていたわたしには、その銃弾を誰が撃ったのか見えていた。
相手は誰一人として銃を撃っていない。構えてすらいない。
だというのに、神代さんは撃たれた。…後ろから。
「すみません、神代さん。やっぱり僕はこの作戦に乗れません。」
「っ!み、未道…鈴蘭っ。」
そう。撃ったのは彼、わたし達の仲間であるはずの未道鈴蘭だ。
まさか神代さんも、後ろから撃たれるとは思っていなかったのだろう。避けることができなかった。
地面に倒れ伏し、傷口を抑えているが手の隙間から血が漏れ出ている。
「野郎っ!」
激高した龍之介さんが特攻しようと立ち上がる。
わたしもそれに合わせて動こうとするが、相手はそれを許してくれない。
「動かないでください!少しでも動けば、神代さんの頭を打ち抜きます。」
「っ!龍之介さん!」
「分かってるっ。」
わたし達は物陰に隠れ、様子を窺う。
さっきまでニヤついているだけで動かなかった奴も、今は銃を構えこちらを警戒している。
神代さんはうつ伏せに倒れており、リーダーの男と未道さんが銃を向けている。
数十メートル離れたこの距離では、銃弾は届くかもしれないが、相手を倒す前に神代さんが死んでしまう。
かといって、近づいて行けばどうにかなるとも思えない。ハチの巣になるのがオチだろう。
…完全に八方塞がりだ。
未道さんは、わたし達が何もできないと分かると、こちらを無視して彼らと話し始める。
「お願いがあります。僕をあなた達と同行させてもらえませんか?」
「…俺は裏切りが嫌いだ。そこの女は、お前の仲間じゃないのか?」
「いえ?違います。僕は彼女に脅されて同行しただけですから。それで、どうでしょうか?」
「…いいだろう。その代わり、そこの女を」
彼が言い終わる前に、未道さんは足元にいた神代さんを撃った。
見向きもせず、まるで虫でも潰すかのように。
撃たれた彼女は一瞬体を跳ねあがらせるが、そのまま地面に倒れこんで動かくなった。
倒れている彼女からは、大量の血が流れ出ている。…本当に当てたようだ。
「これでいいですか?」
「…あそこの2人はどうする。」
「彼らは放っておいて問題ありません。所詮、何もできない雑魚ですし、弾の無駄ですよ。そうですよね!お二人さん!」
「好き放題言いやがって…!」
「……」
その様子を見て、他の人たちも愉快そうに笑っている。
そして、わたし達が何もできないと分かると、未道さんと共にフロアから去っていく。
未道さんは、見下したようにこちらを一瞥すると、それに続いて去っていった。
わたしは扉が閉まるのを確認し、神代さんに駆け寄った。
彼女の安否が気にある。そして…確認したいことがあったからだ。
「神代さん!」
「……」
「おい!まだ何もできてないだ!これで終わりはないだろう!?」
うつ伏せで倒れている彼女をそっと抱き起す。ゆすっても、声をかけても反応はない。
血色も悪く、呼吸も浅い。かろうじて生きているような状態だ。
それに腹部からの出血がひどく、誰が見てもとても危険な状態に見える。すぐに手当てしないとどうなるか分からない。
龍之介さんもそれは分かっているのか、カバンからタオルを取り出し傷口に当て止血している。
「くそっ血が止まらない!なあ舞どうする!?」
「……」
失敗した。その言葉が頭をよぎる。
仲間に裏切られ、神代さんがやられた。どう考えても失敗だ。
…だというのに、なぜかわたしは別のことが気になっていた。
それは、
「?舞?」
「…神代さん、起きてますよね。」
「!」
どうして未道さんと神代さんは、あんな芝居をしていたのかが気になっていた。
普通なら、彼が裏切って神代さんを殺そうとしたように思えるだろう。
でもわたしには違う物が見えていた。彼らの感情の動きだ。
先ほどのやり取りの間、二人とも終始冷静だった。まるで、元からそうすると決めていたかのように。
そして、その考えはどうやら間違っていなかったようだ。
「二人とも、そのまま聞きなさい。絶対に声を上げないように。」
彼女が目をつぶったまま、静かに話し始めたのだ。
わたし達は、思わず声を上げそうになるのを必死に抑えた。
「どういう事なんですか?わたしには、お二人が争っているふりをしているように見えたのですが。」
「…すごいわね。まさかそこまで分かるなんて。」
「ど、どういうことだ?」
「彼女の言った通りよ。これは、相手を欺くための芝居。こうでもしないとこの先も狙われ続けれでしょう?」
確かにそうだ。この場で相手を退けることができても、上階でまた狙われてしまう。
取引に応じてついて行っても碌な結果にならない。つまり、どちらを選んでも待っているのは破滅だ。
それを避けるための芝居。これはどちらも選ばない第三の選択。…だからこんな無謀な作戦を実行したのだろう。
「でも未道さんは…」
「彼には相手の動向を探ってもらうため、あえて相手についてもらったわ。」
「それってすごく危ないじゃないんですか?」
「それをやってもらう代わりに、わたしは彼の望みをかなえる取引よ。…筒浦さんをね。」
「!それで…」
彼が言った、筒浦さんの事を頼む。あれは、こうなることが分かっていたからこその言葉だったのだろう。
自分はそばにいられないから、わたし達に託したんだ。
「だったら最初からそう言ってくれよ…」
「…言ったらぼろが出るでしょう?特にアホのあなたは。」
「ぐ…」
「上手く行ってよかったわ。これであいつらはしばらくこちらを警戒しない。上階に上がっても自由に行動できるでしょうね。」
「そうですね。神代さん、ありがとうございます。」
「礼は不要よ。だって、これからが大変だから。」
「…はい。お二人の行動を無駄にしないためにも、必ず雫さんを助けましょう!」
そうだ。これで終わりじゃない。ここから始まりだ。
今までと違う。彼女の後ろをついて回るわけじゃない。わたし自身が、前に出て戦う。
…まだ、恐怖はある。この先への不安は消えない。もしかしたら、この事すら相手に読まれているかもしれない。
けど、そんなことは関係ない。わたしにはやらなくちゃいけない事がある。
今まで守ってもらった分を彼女に返すために、不安や恐怖を踏み越えて先に進む。
その先にきっと、みんなが幸せになれる。そんな未来が待っているはずだから。
「二人とも、行くわよ。」
だからわたしは…諦めず、立ち向かい続ける。
望む未来を目指して…
「はい!」「おう!」
これで二章は終わりになります。
次回から三章…の前に、キャラ紹介と閑話を少し入れてから三章を書き始める予定です。
続きが気になる方も、仕方ないから読んでやるという方も読んでいただけると嬉しいです。
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