2-47.善意は擦り切れ悪へと堕ちる
久しぶりの神代結視点です。
「……」
早く死にたかった。
鎖につながれ、動くこともままならない。
体を何度も切り裂かれ、再生され…今自分を形作っている物が、本当に自分なのかも分からなくなっていた。
心は冷え切り、壊れてしまった。
時折誰かが来て、あたしに何かをしていたようだったがどうでもよかった。
深い海の底。深海に投げ捨てられたように、ただその場に存在しているだけ。
希望はない。絶望は感じない。期待なんて持てない。怒りの出し方は思い出せない。
そこにいるのは神代結の見た目をしたただの人形。呼吸をして、どれだけ傷ついても再生する。それだけの違い。
もはや、自分が人間だったことすら分からなくなってきている。
「ーーーーーー、ーーーーーー!」
…声がした。すごく聞き覚えのある声。
誰の声だろう。…どうでもいいか、あたしには関係ない。
「ーー?ーーー。」
だが向こうはそうではないらしい。
反応を示さないあたしに、話しかけ続けている。
顔を上げる。地面以外のものを見たのはいつぶりだろう。
声の主を確かめる。…ああ、そうか。どうりで聞き覚えがあった。
「無様な姿だね~あたし。」
そこにいたのは…あたし。神代結…いや何かの姿をした者だった。
薬を使ってからは出てくることはなかったが、どうやら効果が切れたようだ。
目を細め、見下したような笑みを向けてくる。
「それにしても、どうして忠告を無視するかな~。せっかく教えたのに、全部無駄じゃん。」
そういえば何か言われた。でも思い出せない。
きっと、必要じゃないから忘れたのだろう。…どうでもいい、どうせ何も変わらないのだから。
「あたしが言ったことをちゃんと覚えてれば、こんな目に合ってないのに。」
………。
「最初からそうだったよね?仲間の振りをして、あたしのことを利用して、使えなくなったら捨てる。その程度の関係じゃん?」
…………。
「だから龍之介も、あたしのことを置いていった。だって、最初から助ける気なんてなかったから。」
……………。
「舞もそう。Gフォンさえ戻ってこれば、あたしなんて用済み。それどころか妹の仇なんだから、死んでほしいと思ってるよ。」
………………。
「それに雨宮って名乗ってるあいつ…ってねえ、いつまでそうやって絶望したふりしてるの?」
「…ふりじゃない。もういいでしょ、どうせあたしはここから出られない。永遠に…」
「へ~あきらめるんだ。」
「あきらめなかったら何とかなるの?…それに、助かったからと言って、この先に待ってるものに希望なんて…」
「そうだね~希望はないかな。でもさぁ…もっと面白いものが待ってるよね?そうだ!今なら邪魔も入らないし、見せてあげるよ!」
「…面白いもの?邪魔がって…!が…頭がっ!」
頭を割られたような痛み。あまりの痛みで、目の前がちかちかと光って見える。
あたしの姿をした何かは、その様子を見て愉快そうに笑っている。
でも、鎖につながれているあたしには何もできない。痛む頭を触ることすらできず、獣のように暴れることしかできない。
そうやって痛みに耐えていると、何かが見えてくる。
「ほら、思い出して?まず最初…中学3年、卒業式の後。あたしは何をした?」
「…あたしは…」
彼女の質問に呼応するように、その場面が見えてくる。
あたしは…知ってる。中学校卒業式の後だ。
その記憶を辿るように、自然と口から言葉が漏れ出る。
「…あたしをいじめていた主犯と、教師。ふたりを待ち伏せして、橋から突き落とした…」
「おっ!正解!父親の職場から薬を盗みだし、それを使ってー、動けなくなったところを…ドン!って突き落としたんだよね~。いやー、あの時は土砂降りで助かった。」
「…その後、下流で遺体が見つかった。警察が取り調べしたけど、何もわからず事故として処理された。」
「そうだね~。注射器を使わず、空気中に散布して使ったのがよかったよね!でも、その時はまだ何とも思わなかったんだよねぇ。じゃあ、次!2回目は?」
再び、頭の中を記憶の波が駆け巡る。また頭を締め付けるような痛みが襲ってくる。
脳細胞が焼かれているように熱い。…けれどこの残酷なクイズは止まってくれない。
「…高校1年の秋…結ちゃんをいじめていた奴を…」
「奴を?」
「…そいつの友人のスマホを盗み出して連絡し、人気のないのを確認して…頭をたたき割った。」
「そうそう!あれはすごかったよねー!事前に鉈を用意していたおかげで、一撃必殺!って感じだったよ。でもまだ、何も感じてなかった。じゃあ次!」
「…もうやめて…」
「なんで?」
「なんでって…わかるでしょ!?」
今まで思い出したものは全部あたしの記憶だ。…人を突き飛ばした時や、頭を割った時に伝わってきた感触、悲鳴、臭いなどすべてを鮮明に思い出せる。
今までのようにごまかせない。思い出せば出すほど、あたしの罪への意識が重くなってのしかかってくる。
一つ、また一つと自分の罪状が積み重なり、未来に待っているのが絶望だと再認識させられる。
…でも、なにかがおかしい。止めたいはずなのに、怒りの感情がわいてこない。…むしろ別の感情がこみあげてきている。
「んーでもさ、本当にやめていいの?」
「当たり前っ…」
「そんなに楽しそうな顔してるのに?」
「…え?はは…!…え、いまあたし、なんで笑って…っ!」
地面に残っているあたしの血。真っ赤なそれに映っているあたしの顔…そこに映っていたのは、醜くゆがんが笑みを浮かべている自分。
そうか、今あたしは楽しんでいるんだ。もっと自分がしてきたことを、自慢したいと思って――――
…違う。こんなのはあたしじゃない。
あたしは人を殺して喜んだりしない。 本当に?
誰かを傷つけるは悲しい。 どうして?
人が死ぬのなんて嫌だ! こんなに、楽しいのに?
二律背反の感情が、あたしのなかでそれぞれの考えを述べている。
…どっちが本当のあたしなの?あたしが本当に求めてるものは何?
「ほらほら~続けてよ。そうすれば、答えが分かるからさ!」
「っ!いやっ!」
その後も、自分のやってきたことを見せられた。
ある時は薬を使って誘拐し、ある時は眠らせて焼き殺し、ある時は監禁して拷問した。
それを思い出すたび、嫌なはずなのに口角が上がっていくのが分かる。
…ああ、そっか。これがあたしなんだ。ずっと探し求めていた本当の自分。…そしてこれが、あたしのしたい事。
「次で最後だね。えーっと」
「なに?覚えてないの~?一番面白かったのにさ!」
もう隠す必要がなくなった。目の前の自分と同じように、下品な笑みを浮かべ自分の功績を話している。
「ちょっとド忘れしただけじゃん!ふふ…じゃあ教えてよ。その一番をさ。」
一番の功績。…ああ、覚えてる。
「文化祭の日、まずお父さんを殺したよね。」
だってここにいる連中が、施設に連れてこられた日。
「それで、寄生虫の入った容器を奪って学校に行った。何日も休んでたから、みんな驚いてたよね。それで~。」
人生で一番大勢の人を殺した日。そして
「…ふふ…その薬をバラまいて、逃げようとするクラスメイトを何人も殺した。」
怪物が生まれる原因を作った日なんだから。
自分の口から、やってきたことを話し終えると自然と心が軽くなる。というよりも、余分なものがすべて抜け落ちた。
…本当に、あの時のことは今思い出しても笑える。
何日も行方不明になっていたあたしが、突然学校に現れたと思ったら虐殺を始め化け物の素を撒き始めた。
叫び、悲鳴、絶叫。抵抗できない虫けらどもを、ぷちっと潰すように持ってきたナイフで刻んだ。
肉を切る感触、あれは一生忘れない。
首をねじ切った感触、とても愉快だった。
内臓をえぐりだした感触、食後だったから臭いがきつかった。
そして、生き残った奴に寄生虫を注射していった。適応できない奴は異形の姿へと変異し、クラスメイトを喰らい始めたのは見ていて痛快だった。
全部があたしにとって、とても愉快で、面白くて、大切な思い出だ。むしろ他のことなんてどうでもいい。
人を殺しているときだけが、あたしのとって何よりも生きている実感をくれる。他人が絶望して死んでいく姿こそが、あたしに生きる活力をくれる。
だから、結ちゃんが人助けをしてる時は本当に虫唾が走った。あたしが散々助けてやったのに、なんでそんな無駄のことをするのか理解できなかった。
…そういえば、この施設であたしが人助けしてる時もなんか馬鹿らしいと思っていた。
記憶はなくても、本能的に分かってたんだ。人助けなんて行為は無駄でしかないと。
「さ!これでもまだ、死にたいと思ってる?」
「んー…思ってるかもよ?ふふ…どう見える?」
「全然思ってないでしょ~、今あたしが思ってること当ててあげるよ。あたしは今ね…」
「「人を殺したくて仕方ない!!!ふふ…あはははははははは!!!!」」
ここから出たら、今までよりも大勢の人を殺そう。
知り合いも、家族も、友人も、仲間も…この世に存在するすべての人を殺して回ろう。
記憶を思い出す前の思考から反転し、今すぐにでも外に出たい。
「ああーはやくこの施設から出たい!きっと、すごく楽しいことがあたしを待ってる!」
でも、もっと楽しむためには力がいる。
より深く、絶望を刻み込むためにはもっと、もっと…あたしは運がいい。
「ねえ、聞こえてるのかしら?あなたの仲間に呼び出されたから行ってくるわね?ふふ…大丈夫よ、すぐに私達の仲間にしてあげっいやああ!!はな、放しなさい!いぎぃ!ああああああああ!!!」
その手段をすでに持っている。
すごく簡単なことだ。…食べればいい。今みたいに。だから目の前の奴からもそうさせてもらった。
不用心に人の頬を撫でていたから、喰いちぎらせてもらった。
くちゃくちゃ、ゴリバリっと、音を経てながら咀嚼する。血の味が口の中を満たしてくれる。
「ふふ…あははははは!!!はははははははは!!!!」
「あっえ…な、なに…なんなの!なんなのよ!!」
喰われた奴の表情はとても愉快だった。
あたしを捕らえた奴は、無様な姿をさらしながら逃げて行った。…あたしに薬を盛るのを忘れて。
まあ、たとえ盛ったとしても今のあたしには関係ない。だって、あたしにもできるのだから。
さて、もう少ししたらあいつはここから出ていく。…その後、パーティーを始めよう。
嬉しいことに、ここには獲物がたくさんいる。きっとすごく楽しいことになる。
数十分が経ち、あの女がよこしたであろう奴らが、わらわらと部屋に入ってくる。
男が3の女が1か。どいつもこいつも、弱そうで落胆した。…まあいい。
手には各々武器を持っている。おーこわ!やられちゃうよ~。
「…貴様…何がおかしい!」
そう言って、手に持っているバッドであたしの頭を殴る。
額が割れ、血液が体をつあって流れ出る。視界の端に映る血の色を見て、まだ赤いのかと笑ってしまった。
「こいつ…!まだお仕置きが足りないのか!」
「おい落ち着け!殺すなって言われてるだろ。狙うなら頭じゃなく、他のところにしろ。」
「あ、ああそうだったな。へっ丁度むしゃくしゃしてたんだ…今日は変異者が多く出やがって、処理が面倒なんだよ!!」
ストレスを解消するため、サンドバッグ代わりにあたしを打ち据える。
殴られるたび体が浮き上がる。…どうやら、手加減をする気はないようだ。
体を殴るのに飽きたら、腕を殴り骨を折ってきた。何をされても、すぐに元の形へと戻っていく。
その次は足。何度も、何度も、殴り続ける。でもあたしは笑うのをやめなかった。
そのせいだろうか。気味が悪いものを見るように、他の奴らが後ずさりし始めた。
「はぁ…はぁ…クッソが!」
「お、おい…そのくらいにしとけ。」
「…ッチ!わーったよ!これで、お前に殺された奴らも少しは気が晴れただろ!」
満足げにそう吐き捨てると、背を向け出て行ことする。
…何逃げようとしてるの?せっかくここまで痛めつけてくれたんだからさ…
ため息をつきながら、くだらない遊びを終わらせることにした。
「死んだ奴の気が晴れるわけないじゃん。」
「えっ!?…ぶ」
「さんざんあたしで楽しんだんだから、少しぐらいお返しさせてよ。」
あたしは鎖を引きちぎった。
それをそのまま、鞭のようにしならせ近くにいた奴を薙ぐ。風切り音がし、相手の首を刈り取った。
首のないやつは、数歩歩くと倒れこんで動かなくなった。
「ひっ…!」
「う、うあああああ!!!」
「な、なんだ!」
突然の出来事に冷静な判断ができないのだろう。
悲鳴を上げ、あたしから逃げることしかできない。
でも逃がさない。こいつらはパーティーの前菜。しっかりと味合わないともったいない。
「よっと!ほい2つ目!」
おろおろしている男の間を抜け、震えている女の顔を殴りつける。
殴られた顔は、体に繋がっていることができずボールのように飛んでいく。体はまだ、頭がなくなったことに気づいていないのか立っている。
…あっけない。もう少し手ごたえが欲しい。これじゃあつまらない。
「い、いやだああああああ!!!」
「お、おい!待てよ!」
「…はぁ、つまらないなぁ。」
残った2人は、こちらに背を向けて逃げ出す。それが悪手だという事に気づいていない。
あたしは両手の鎖をそれぞれの腕を狙って振り下ろした。
首を切り落とした時のように、2人の腕が落ちる。
「ぎゃあああああ!!!」
「あっああああああああ!!!痛い!あああ!!!」
「うっさいな~」
これ以上このおもちゃでは遊べない。そう判断して、2人の首を引きちぎった。
断面から鮮血が吹き上がる。それは、雨のように降り注いで部屋全体を赤くしていく。
「…もっとマシなのいなかったの。」
つまらない。抵抗する奴もいなければ、逃げることしかできない腰抜けしかいなかった。
これじゃあ足りない。あたしが欲しいのはもっと、濃密な絶望。
まあいい、これからが本番だ。少しぐらいはいるだろう。
でもその前に、ここの片づけをしておこう。
結構長く居たし、立つ鳥跡を濁さずと言ったところだ。
…でもせっかくだし、飾りつけしていこうかな。
綺麗に飾りつけを終え、人いるとこへ向かう。その途中で、自分が服を着ていないことを思い出し、適当な店で服を着る。
正直着れれば何でもいい。だって、どうせすぐに汚れて真っ黒になるのだから。
着替えを終え店から出ると、何人かの男があたしに銃を向けている。
どうやら、さっきの連中の悲鳴で目が覚めてしまったようだ。…本当にあたしは幸運だ。
眠っている奴を殺しても何も面白くない。死んでいく時の顔を見るのが楽しいのだから。
「お前は…!どうしてここにいる!」
「そっちのボスが連れてきたからだけど?」
「そんなわけないだろ!真白さんが、仲間の仇を生かしておくわけない!」
どうやら、あたしがここにいることを全員が知っているわけではないようだ。
まあ仲間の仇がいるって知ったら、殺しに来る奴がいると思ったのだろう。それに監禁している理由が食べ物にしていると知られたくなかったのかもしれない。
「そっちの事情なんてあたしにはどうでもいいし。それより、もっと仲間を呼んでこないの?」
「口を開くな!お前はここでし」
怒鳴りながら近寄ってきたやつの頭を刎ねた。
切り離され、回転しながら空中に舞っていた首を手に取る。
何をされたのか理解できていないのか、怒りの表情で固まっている。
違う。あたしが見たいのはこれじゃない。
手に持っているはずれを、集まっている奴らに投げつけた。
あっけにとられ動けなくなっていた為、避けることもできず命中した。
パンっと水風声が爆ぜるような音がして、頭と体がはじけ飛んだ。
それが始まりの合図となった。
誰かが絶叫する。それにつられ、恐怖が伝染する。
理解を超えた出来事に勝機を保てず、錯乱し銃を乱射する奴。
泣き叫び、その場にうずくまって許しを請い始める奴。
何もせずただ茫然と立っている奴。そいつらの中に飛び込んで、殺戮を始めた。
1,2,3…ハンティングゲームをするように、戦果を数える。
けれど、どいつもこいつも想定以下の雑魚だった。
あたしが集団に飛び込んだせいもあってか銃を撃たない。仲間を撃たないように狙っている奴は、撃つ前に首がなくなるか、体がなくなる。
切りかかってくる奴は、遅すぎて武器ごと腕をねじ切った。
結果物の数分で、20人ほどが死体に変わった。そのどれもが、恐怖と苦痛でゆがんだ表情をしている。
けれどあたしは不満だった。殺せること自体はいいが、簡単すぎてつまらない。
死体が折り重なった山の上に座り、不満を漏らす。
「せめて当てるぐらいはしてほしかったな~。君もそう思うでしょ?」
「あっ…あっ…ああ…」
「ねえ聞いてる?まだ足をちぎっただけだよ?話せるよね?」
「うぁ…ああ…」
「はぁ~根性ないな…。そうだ!別の遊びをしてみようっと。」
「うがぁ!?」
地面に転がっているゴミに近づき、口をこじ開け指を突っ込む。
そして、手に入れた能力を試してみる。
「ん~ダウン系の薬でいけるかな。」
「んー!んー!!」
「あ―噛まない噛まない。もう少しだからね~。」
「んー!んが?!あがっ!」
「おっ!上手く行ったかな~。そーれ怪物になれ~!」
あたしの応援を受け、ゴミだったものの姿が変わっていく。
記憶の中にあった、怪物になる要因。それを意図的に発生させた。
恐怖や不安で満たされた脳に、さらに鬱になる作用の薬品を大量に飲ませ症状を悪化させる。
するとどうだろう。あたしの想像通り、限界を迎え、変異が始まった。
消化不良だったあたしは、まだ息のあるやつに手当たり次第同じことをした。
体が欠け、死を待つだけのゴミが、見事人を殺せる怪物へと変わっていく。
興奮した。生き物を作り変える行いが、まるで神様にでもなったようで言い知れない高揚感がある。
気づけば怪物の集団が出来上がっていた。…けれど、どの怪物もあたしを襲ってこない。
後ずさり、逃げ去っていく。その様子を見てあたしは飽きてしまった。
仕方なく、下の階へと降り生き残りを始末していく。
そうやって怪物以外がいなくなった時だ。
突然入り口が吹き飛んで塞がれた。すぐに上の階からも大きな音が響き、崩れるような音が聞こえてきた。
その出来事に…笑みがこぼれる。
ここの連中がしたことじゃない。つまり、外にまだ生き残りがいる。
誰がいるのかは想像がついていた。仲間だと言ってすり寄ってきた連中だろう。…手間が省けた。
上階へ行くと、2階の入り口が開いておりそこから、怪物が外へと流れていた。
どの怪物も、あたしを見ると集団に交じって外へと逃げていく。おそらく、人間だったの時の恐怖が残っているのだろう。
外からは銃声、怪物の断末魔が聞こえてくる。集団に交じって出ていくのは危険だろう。
相判断し、3階へと昇る。やはり、入り口が瓦礫でふさがっている。
…どかすのが面倒だ。そう思ったとき、外れた防火扉が目に入った。
本当に今日はツイている。
自分の幸運をかみしめながら、防火扉を瓦礫に立てかけ…蹴った。
先ほどの爆発音と同等の音と共に、瓦礫が吹き飛ぶ。
砂埃を払いのけ外に出る。真っ暗なのを見ると、今は夜。
ゆっくりと外へと歩み出る。吹き飛ばした瓦礫が反対側まで飛んだようで、砂埃を上げている。
下からはまだ怪物の断末魔が続いている。誰かいる?そう思い、のぞき込む。
…いた。あたしの親友で、この世で最も大切…だった人がそこで怪物を殺している。
すぐに飛び降りて、彼女を殺してもよかった。…でも、もっと苦しめる方法を思いついた。
他人を救おうとする彼女の前で、そいつらを殺してあげよう。
この場にいるのは3人。あと2人足りない。おそらく、蔓木を足止めしているのだろう。
となればまずはそっちからだ。あたしは基地へ向けて歩き出した。
道中で1人見つけた。見つけた時はうれしくて笑いそうになった。
けど、近くにいる人物を見て笑みが消えた。雪原舞は蔓木と話している。
…どうして?そいつはあたしを傷つけたやつだよ?なんで平気な顔で雑談できるの?
そこでようやくあたしは悟った。ああ…やっぱりあたしは利用されていたんだ。
けど、ラッキーだったよ。殺す前にそのことを知れて。
近くにあった手すりを握りつぶして、投げつける。
投げ出したそれは、風切り音を立てながら銃弾より早く飛んでいく。
遠目からでも、当たった人物が倒れるのが分かった。本当は吹き飛ばしてやりたかったが、まだ用がある。
ゆっくりと歩み寄る。
近づいてはっきりと顔が見えてくる。雪原舞はとてもいい表情をしていた。
そのお礼に、普段通り接してあげた。どうせすぐに死ぬのだから、これで十分だろう。
あたしは倒れている奴へとは小声で話しかける。
「さっきぶりだね。どう?家畜に殺される気分は。」
「う…」
「あらら、もうしゃべれもしないのね。あっそうだ。死ぬ前にいいこと教えてあげる。」
「っ…?」
「お前の大事な大事な場所は、もうないよ?」
「っ!」
…ああ、こいつが死ぬ前でよかった。その顔、それが見たかった。
「人も、者も、場所も、全部ぐちゃぐちゃにしておいてあげたよ。ねえ、今どんな気持ち?悲しい?憎い?あたしを殺したい?」
「……。」
「全部だよね。でもさ、よく考えてみてよ。これってさ…あたしを捕まえて、生かしておいたお前のせいだよね?」
「っ……。」
「お前のせいでみんな死んだんだよ?何十人も…悲しいよね?復讐したいよね?でも残念、お前はもう死ぬから出来ないね。ふふ…」
そういって微笑んであげた。それを見て口惜しそうに、涙をこぼしていた。
それを最後に、瞳から生気が消えた。それを見届けた後、処分した。
…さて、残るはお前らだけだ。
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