11.ひび割れる心
石塚君と別れた後あたしはまだそこから動くことができなかった。
目の前が歪む…足元がおぼつかない…考えもまとまらない…あたしはどこに行けばいいだろう…
なんであたしは今ここにいるんだろう……ダメだこれ以上考えるのはよそう。これ以上はおかしくなりそう。
…すでになっているのかもしれない。
…ここにいてもしょうがない、ひとまずセーフルームを探そう。いろいろ考えるのは…その後にしよう…
そう思い、顔を叩いて気合いを入れる。
とにかく移動しよう。そう思い通路に目を向けてみると気になるものがあった。
「何か光って…」
最初の血溜まりの中で何か光ってる。あれってGフォン?何か赤いランプが点滅してる。
…もしかして…あたしは麻倉君の遺体に近づく。
「…ごめんね。」
彼に謝罪をして遺体に触れる。…冷たい。ダメ、または吐きそう。今すぐ叫び出してここから逃げ出したい。
けど…今は心を殺そう。何も感じない、ロボットのように目的を果たす。そう自分に言い聞かせる。
彼のGフォンを取り出してみると、同じく赤いランプが点滅してる。やっぱり…
おそらく所有者が死亡すると今のようになるんだと思う。でも一体なんのために…
操作は…ダメだ動かない…。プロフィールの画面で固まっている。
…このままここに置いて…いや持っていこう。これはあたしの罪の証。
あたしのせいで彼は死んでしまったのだから、せめて彼が居たことを証明するためにも持っていこう。
……これ以上ここで出来ることはない。彼の体に上着を被せて立ち去ることにした…
さようなら、麻倉君。
石塚君とは逆方向、元々向かっていた南側に進む。
…戻ってあの2人と会うのは気まずい。雪原さんはまだあたしが麻倉君を殺したと思っているのかな…
きっと大丈夫、石塚君が上手く伝えてくれる。
さて1店舗ずつ調べるのもいいけど一度奥まで行こう、もしかしたら出口も…あると思いたい…ないとは思うけど…
ああでもその前に服屋に寄っておかないと。シャツも真っ赤になってる。
…誰かにみられる前に着替えないと…
「うがぁあああぁぁ!!!」
「ひっ!いや!」
遠くから怪物の叫び声が聞こえる…。怖い!怖い!怖い!怖い!!!
ああ…ああ!体が震える!ダメ!これ以上聞いていると動けなくなる…!
あたしは耳を塞いで走り出す。怪物の声はまだ続いている…。
震える足で、躓きながらも進み続ける。視界は涙で滲んで見えない。
「はぁはぁはぁ!…はぁ…はぁ……っ!うううぅ、グス……うう。」
…泣いてちゃだめ。動ける今のうちに行動しないと。
そう思い、ゆっくりとだけど歩き続ける。
!あれって服屋だよね。…ひとまずあそこで着替えよう。
「ふぅ…」
着替えたけど、結局前の服とほとんど同じじゃん…。まあ動きやすそうな服を適当に選んだから仕方ない。
元々着てた服はどうしよう……とりあえず端っこの方に固めておこう。
さて、ここも調べておかないと。
……そういえば今何時だろう………15時26分、うんまだ時間は大丈夫。
…調べるなら従業員室かな。またレジに鍵が入ってるかもしれない。
「って…え?!これって!」
奥に来て驚いた。セーフルームがあった、まさか店の中にあるなんて思ってなかったよ。
でもよかった、これで時間を気にする必要は無くなった…
まだ時間もあるし、もう少し奥まで……やめよう。もう疲れた…
あたしは横の機械にGフォンをかざし、
【ビー!こちらのGフォンは所有者が死亡しているため、使用できません。】
…こっちは麻倉君のだった。
改めて自分のGフォンをかざす。
…………いやもうセーフルームに入っても仕方がないんじゃない?
明日も明後日も明明後日も、今日のようなことが続くかもしれない…そう考えてしまう。
こんな生活がいつまで続くかわからない。いずれは殺される…。
もしかしたら実験動物のように死ぬまでここから出られないのかもしれない。
…いやだ。
ふと右手の拳銃が目に入る。…ああそっか、死ねばここから出られるんだよね。なら、簡単じゃん…
あたしはゆっくりと右手の拳銃をこめかみに当てる。このまま引き金を引けばもう…苦しまなくて済む。
それに、麻倉君もこれで許してくれるよね…ごめんね…
「酷い顔ね。」
「っ!誰!」
振り返りつつ声の主へ拳銃を向ける。
そこにいたのは、
「栄華さん…」
「いきなり銃を向けないでくれる?」
「…ごめんなさい…」
「今朝とは違って随分と憔悴してるわね?」
「それがわかっているなら放っておいてほしいのですが…」
「そうね、けど自殺するなら他所でやってくれるかしら。迷惑よ。」
「…はは、そうですね。あたしは本当に…迷惑ですよね…」
そう言って、歩き出す…。そうだ、拳銃なんて使わなくても飛び降りればいい。
ゆっくりと吹き抜けに向かって歩き出す。
けど、栄華さんに腕を掴まれた。なんだろう、ああそっか食べ物とか勿体無いもんね。
鞄を下ろそうとすると、
「はぁ…本当に世話が焼ける。」
「え…?」
栄華さんがあたしに向かって手を伸ばす。
触れたその瞬間、何かが弾ける音が頭の中に響いた。
…なんだか涼しい…風?
あたしは…なにして……
「う…ここは…っまぶしい。」
目を開けるとそこはどこかの一室。違う…ここ学校の教室?
なんでこんなところに…ああそっかこれ夢だ。
「はは…これが最後の風景か…」
「何言ってんの?え〜大丈夫?酔ってる?」
「ふぇ?!え、誰!」
そこにいたのは、女の子。ただ…首から上がなんか見えないんだけど…
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