2-44.蠖シ螂ウ縺?縺」縺溘b縺ョ縺ッはそこにいた
今回は真壁龍之介視点です。
side:真壁龍之介
「任せたぞ、舞。」
俺はそう言って通話を切る。
蔓木に連れがいないと分かった以上、すぐに未道と合流して結を助けないといけない。
…舞一人に蔓木の相手をさせるのは、正直言って心配だ。
決して信用していないわけではない。けれど、そう思ってしまうのは、舞が一人で戦ったことがないというのが大きい。
俺が知っている限りでは、彼女が一人で怪物を倒したり、誰かを殺した場面を見たことがない。
戦う時は常に誰かが…いや、結が一緒にいた。
それなのに、蔓木の相手を一人でする…誰に聞いても無謀と言うだろう。
だから俺は、舞の援護をするつもりだった。
蔓木の意識が舞に向いた瞬間を見計らって、足打ち抜く。そうすれば舞が危険な目にあうことはない。
それが一番確実で、誰かが傷つく確率が低いと思った。だから舞と別れてすぐ、準備をしていた。
幸い俺には、暗闇は関係ない。変異…覚醒者になったことで能力が身についていた。
能力は視力の強化といったところ。遠くがはっきりと見えるし、今みたいな暗闇でも問題なく見える。
この能力には、舞と合流した後の移動中に気づいた。やけにはっきりものが見えたからだ。
その後、少し外に出てすこしずつ感覚を覚えた。集中すれば、数百メートル先の砂粒すら見れる気がする。
これならどんな場所でも、見落とすことはないし外さない。
…けれど、俺の考えは甘かった。
結果から言えば、俺が考えた作戦は実行すらできなかった。
蔓木の姿を見た瞬間、頭にもやがかかったように思考が曇っていく。
自分を痛めつけて正気に戻っても、彼女を見るたびまた霧が立ち込める。
そんな状態でまともに狙えるわけがない。…いや、たとえ狙えたとしても当てることができない。
なぜなら、引き金が引けないからだ。まるで何かに体を乗っ取られたように、指が固まって動かない。
…おそらくだが、未道はこのことを知っていたのだろう。そして蔓木も。
誰を連れることもなく、一人で買い物にでも来たかのように優雅に歩いていく。そんなことができるのも、こうなると知っていたからか?
実際どうなのか、今確かめることは出来ない。俺がこの場でできることは、もう何もない。
俺は小さく舌打ちをした。…歯がゆい、肝心なところで何もできない自分に腹が立つ。
『この子が大事なら努力しなさい。今のあなたはただの木偶の棒よ。言葉じゃなく行動で示しなさい。』
ふと、前にもう一人の結に言われたことを思い出す。
こうやって自分を責めているだけだと、またあいつに役立たずの木偶の棒呼ばわりされるな。
しっかりしろ。今は自分を責めている場合じゃない。与えられた役割をしっかりこなすことだ。
それに、今の舞なら大丈夫だ。
誰かに言われたのか、それとも自分で考えたのか、あいつなりにしっかりと準備していた。
それに以前見た時よりも、今の状況に立ち向かおうとしている。出会ったときからは考えられないほど、あいつは成長している。
…俺も負けていられない。舞が足止めしている間に、1秒でも早く結を助け出す。
俺は足音に気を付けつつ、未道のところへと向かった。
…そういえば、
このフロアに来てから、もう一人の結を見ていない。
…そもそも、あいつはどうして別の人格なんて…前にあった時はそんな事…
浮かんだ疑問を振り払い、その場を去った。
未道と合流した時には、準備はすべて終わっていた。
今いる3階。シェルターの入り口のところに何かを張り付けている未道。
「悪い、待たせたな。」
「真壁さん。大丈夫ですよ、見張りがいなかったので楽に設置できました。」
「?見張りがいなかった?」
…おかしい。俺がいたときには、必ず各階に1人ずつ見張りがいた。
だから今回、爆破する前に見張りを2人で素早く片付ける手筈だった。
作戦が漏れた…いや、それならなおさらいないとおかしい。どういうことなんだ?
「もしかしたら、全員死んでいるのかもしれませんね。」
「…は?」
「いえ、その可能性もあるなと思いまして。ここから大量の変異者が出たなら、中にいる人たちも無事じゃすまないでしょう?」
「まあ…そうだな。」
「もしそうだったら、手間が省けるので歓迎なんですが。…まあ、蔓木が雪原さんのところへ向かったのを考えると、その可能性はないか。」
「…おまえって結構冷たいやつなんだな。たとえ敵でも、死んでいてほしいなんて俺は思わない。」
「!はは…それ、姉さんにも言われました。効率を求めすぎて、人の心が理解できていないって。」
「…もし悩みでもあるなら、あとで聞いてやるぞ?」
「えっ…あはは…機会があればお願いします。それよりも今は…」
「そうだな、手早く済まそう。」
そういえば、未道とはあまり話したことがなかった。これが終わったら、話してみるといいかもしれない。…こいつ俺より、優秀そうだし。
気を取り直して、作戦を開始する。
「後1分で爆発しますので、用意をしてください。」
「分かった。そういえば、どうやって起爆するんだ?」
「雨宮さんが遠隔で起爆してくれます。怪物が出てきた時のために、1階で待機してもらってます。」
中央の吹き抜けからのぞき込むと、雨宮の姿が見えた。
あいつは一人で大丈夫なのだろうか?そう思っていると、視線に気づいたのか俺の方を見た。…なんか、すげー睨んでる怖っ。
「真壁さん、爆破来ますよ!」
「ああ!」
数秒後、仕掛けられた2つの爆薬が作動した。
予定通り天井が崩れ、1,3階の入り口を塞いでいく。残った2階部分も大きく崩れ、大きく開かれた。
入り口前の通路が崩れ落ちたため、中から人が出てきても瓦礫を下って1階にしか行けなくなっている。
ここまでは予定通り。後は中から出てくる奴らを鎮圧して、結を助け出すだけだ。
…。
……。
………?なんで誰も出てこないんだ?
「…油断しないでください。こちらを警戒して、出てこないだけかもしれません。」
「ああ。……?なにか聞こえないか?」
「え?いえ、僕には…っ!来ます!」
その言葉を皮切りに、中から怪物の群れが現れた。狼が多数だが、中には前に見た人型が混じっている。
…だが、様子がおかしい。なんで…
「なんでどの怪物も傷だらけなんだ!」
「そのことは後で!今は対処が先です!」
出てきた怪物はどれも怪我をしていた。いや、怪我なんて生易しいものじゃない。ほとんど致命傷だ。
片腕がなかったり、腹から血を流して倒れこんだり、頭が半分無くなっている奴もいた。
…一体何なんだ?中で何があったんだ?
銃で手負いの怪物に対処しつつ観察する。
まともに動ける怪物がほとんどいないため、対処は楽だった。
以前見たような俊敏性もなく、ふらふらと歩いてくるだけ。まるでゾンビのようだ。
人型の怪物だけは、再生しながら向かってきていたが、雨宮が即座に首を落として核をつぶしていた。…あいつ本当に人間か?
そんな消化試合のような戦い。観察しながらでも対処できる。
そうやって、出てくる怪物を見ているとあることに気づいた。
最初、怪物同士で潰しあったのかと思っていた。…だが、それは違った。
どの怪我も、傷口が粗い。まるで無理やり引きちぎったような傷跡ばかりだ。
爪をもっている怪物がやったのなら、こんな風にはならない。
人型がやった可能性もなくはない。が、それも違うと分かる。
出てくる怪物にはほかにも共通点があった。…恐怖だ。
どの怪物も、俺たちに対して敵意を向けていない。近くにいる雨宮にもだ。
出てくる怪物はどれもまるで…中にいる何かから逃げているように見えてくる。
「みど―――」
そのことを未道に伝えようとした時だ。
突然すさまじい轟音と共に、3階の瓦礫がはじけ飛んだ。
「はっ」
眼前に迫る破片。気づいた時には遅かった。
はじけ飛んだ場所に気を取られ、飛んでくる瓦礫をかわす暇なんてなかった。
散弾銃のようにコンクリートの塊が近づいている。
…ああ、これ死ん…!
間一髪のところで、未道が俺に体当たりをして地面に倒してくれた。
俺たちの頭上を通り過ぎた破片は、背後の店を粉砕し瓦礫へと変えていく。
「だ、大丈夫ですか?!」
「あっああ、助かった。いったい何が…」
「分かりません。突然中からはじけ飛んだようで…」
「ひょっとして、向こうも爆弾を使ったのか?」
「いえ、火は上がっていなかったので違うと思います。…なにかが、瓦礫を薙ぎ払ったのだと思います。」
彼の言葉に、俺は納得できなかった。
2mほど積みあがった瓦礫を、まるでごみを払うように吹き飛ばすなんて真似ができるのか?
今まであった怪物でもどかすぐらいはできるかもしれない。
けれど、何十キロ…何百キロもある瓦礫を、銃弾のように吹き飛ばすなんてことが出来るものか?
…待て、なにか忘れてる気がする。それにはじけ飛んだ瞬間、なにか…
「!未道!3階のところに何かいないか!」
「…ダメです。土煙がひどくてよく見えません。」
「頼むから違っててくれよ…」
銃を構え、煙が晴れるのを待つ。
………何もいない。怪物の1体もいない、生きているものは。
「…どうなってんだこれ。」
「…分かりません。とにかく中に入って、結さんを助けましょう。」
「そうだな…」
開かれた3階。外から見えたものは…赤。
床、壁、天井。あらゆるところに、血が飛び散って真っ赤な空間へと染め上げている。
その赤は、まだできたばかりなのだろう。ポタポタと、雨漏れのように天井から血が落ちてくる。
そして、素材となった物がそこらに転がっている。…もはや原型をとどめていない。
異形の形をした手足、肋骨が腹を貫いた四肢のない人間の胴体、壁にトマトを投げつけたようにつぶれた人間だったものが付着している。
…気分が悪い。至る所に肉片が転がっているこの空間は、まるで怪物の体内にいるようで言い表せない恐怖が体にしみ込んでくる。
奥へ進む行為が、まるで怪物の口の中へ飛び込む行為に思えて足が震える。
必死に正気を保ち、恐怖と戦いながら歩を進め、ようやく目的の場所が見えてきた。
…結が捕まっていた場所。この角を曲がれば扉が見えてくる。だというのに、足取りは重い。
…なぜだろう。ここから先へ進んではいけない気がする。
もし進んでしまったら、俺は知ってはいけないことを知ってしまう気がする。
それは、後ろをついてきている未道も感じているようだ。
「ゆ、結…た、助けにきたぞ…」
返事はない。そういえば最後に見たときも、まともにしゃべれない様子だった。
…そうだ。あの時、俺は結を置いてきてしまった。だから今度こそ助けないと。
そう自分に言い聞かせ、動かない足を殴り奮い立たせる。
恐怖で足が上がらないため、すり足で少しずつ前へと進む。
どれくらいかけて進んだか分からない。何か月もかけて、わずかな距離を移動したように感じる。
そして、通路の曲がり角へとたどり着く。のぞき込もうと角に手をのせると、何かが手についた。
ゆっくりと、触れたものを確認する。…見たことがある。
どこだったか、見覚えがある。毎朝鏡で…いや、そうでなくても振り返ればすぐに見ることができる。
半分つぶれたそれは、白い球体に黒のレンズのようなものがついている。まるでそれは…人間の眼球のよう…
「うわぁあああああああああああああああ!!!」
「お、落ち着いてください!」
「無理に決まってんだろ!!なんなんだよ…なんなんだよ!!なあ結!いるんだろ!?返事してくれよ!」
目の前の恐怖から逃げるように、彼女が捕まっていた部屋へと入る。
…誰もいない。彼女をとらえていた鎖だけが残っている。それくらいしか、残っていないのだ。
「…なんなんだよこれ。」
「…。」
鎖は引きちぎられたのだろう。前に見たときの半分ほどしかない。
どうやってそんなことをしたのか、そもそも彼女はどこに行ったのか。そんな疑問をかき消す光景が目の前に広がっている。
薄暗い部屋。天井の小さな明かりが照らすその部屋は、ここに来るまでに何度も目に焼き付けられた赤に染まっていた。
けれど、そんなものは些細なことでしかない。なぜなら、赤に塗るために使われた素材がそこにはあったからだ。…異常な状態で。
人間の死体。そのどれもが、四肢をもがれた状態で転がっている。
いや、転がっているのではない。並べられている。それぞれの部位を、まるで片付けでもしたかのように。
足、腕、体がそれぞれ綺麗に積み上げられている。…そして、頭が机の上に等間隔で陳列されていた。
6個の人間の頭が、俺たちを見ている。そのどれもが、苦痛の表情をしており凄惨さを思い知らせてくれる。
そのうちにの一体と目が合った。生気を失い、光をなくした瞳に、俺の姿が映っている。…顔がオレヲミテイル。
「うっ!うげぇええええええ!!!ぐぅ…おえ…」
「惨い…」
「…惨いだって…この光景を見てそれだけか?!おかしいだろ?!なんなんだよこれ!なんで、人間をパズルみたいにバラして並べてるんだ?!なあっ!教えてくれよ!?意味わかんねーよ!!てめーも俺をみてんじゃねえ!!」
俺を見ていた頭を銃を吹き飛ばした。まき散らされたそれは、元々あった赤に混ざり消えていく。
「……出ましょう。もうここによ用はありません。」
「は?…え、おい待てよ!」
足早に立ち去る未道を追いかける。むせかえるほどの血の臭いを浴びつつ、赤い空間を戻っていく。
俺は必死に、今の状況を飲み込み、理解しようとしていた。…だが、そんなのは不可能だった。
…分からない。何がどうなっているんだ。
蔓木のシェルターは、この世の地獄みたいな状態。助けるべき相手は、既にいない。
そもそも、シェルターは怪物で溢れかえって人がいない。…いや、少し前までは居たのかもしれない。
…なんなんだ…なにがここで起こったんだ…?
理解できない。自分の考えられる範囲を逸脱している。まるで、別世界のものを見せられている気分だ。
でも、ひとつだけ分かったことがある。…俺はまた失敗したらしい。
失意の中、ふいにポケットの中で何かが震えた。
スイカゲーム面白いですね。ようやく3000点を超えれるようになりました。
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