2-42.わたしのやるべきこと
10000PVありがとうございます!
わたしは一人、フードコートの入り口を見張っていた。龍之介さんとは途中で別れた。
彼は隠れて、蔓木さん以外の人が来ないようする役目がある。今もGフォンで通話して、状況を教えてくれる。
ほかの人にもやるべきことがある。だからわたしも、自分のやるべきことをこなすだけだ。
…不思議な気分。恐怖、不安、緊張、それらは確かに感じているはずなのに、どこか落ち着いている。
吹っ切れたというよりも、ようやく覚悟が決まったという方が正しい。
彼の冗談は、思ったよりもわたしにとって良い効果があったようだ。
ほほが緩みそうになるが抑える。
これからわたしがすることは遊びじゃない。…殺し合いだ。
わたしは人を殺したくなんかない。でも、相手は違う。目的のためにわたしを殺すかもしれない。
そもそも今回、わたし達は相手をだまして呼び出している。その時点で相手にとっては、不愉快な思いをさせている。
それに、蔓木さんは異常なことを平気でやっている。そんな相手に、殺さないでほしいと言っても聞いてくれるか分からない。
今からわたしがやるのは殺し合い。このことを絶対に忘れてはいけない。
『舞、来たぞ。…見た限りだと連れはいない。』
「…ありがとうございます。」
目を閉じて気配を探る。
…ひと際目立つ、悪意の気配が1つだけ見える。
彼の言った通りひとりのようだ。
「…うん、おそらくひとりです。龍之介さんは、未道さんの方へ行ってください。」
『本当に…いや、分かった。任せたぞ舞。』
通話が切れる。
わたしは不要になったGフォンを近くの店の中へ置く。ポーチに入れておくと邪魔になる。
失敗すれば死ぬ。この施設ではいつものことだけれど、いつもと違うことがある。
わたしが失敗すれば、ほかの人達も…結さんも死ぬ。
「あれ~?どうしてあなたがいるのかしら?雪原舞。」
だから、必ずわたしがこの人を止めてみせる。
懐中電灯の明かりが、わたしの視界を遮っている。
ライトのまぶしさで相手の顔が見えない。でも、わたしには位置が分かる。距離にして10mほどの位置にいる。
そして気配から、彼女が今どんな感情をわたしに向けているのかが伝わってくる。…怒りだ。
「私は鈴蘭君に呼ばれてきたのだけれど、どうして彼じゃなくてあなたなのかしら?」
「…さあ?どうしてだと思いますか?」
わたしの言葉で、怒り感情が増す。炎に薪をくべるように大きくなっている。
多分、わたしなら素直に話すと思われていたのだろう。
「はぁ…ひどいわぁ、私はあなた達を助けるために来たのに、まさかだまされるなんて。」
「ひどい?あなたも同じことをしているじゃないですか。人をだまして、利用する。得意なんですよね?」
「…さっきから随分強気ね。あなたは彼女の後ろについて回る、金魚の糞のような存在だと思っていたわ。ふふ…」
「そうですか。そう思われていたのなら、あなたには人を見る目がないってことですね。本当に教師だったんですか?」
「っ!…小娘のくせに…」
…よし、怒っている。ここまでは作戦通りだ。
相手が冷静な状態で正面から戦っても、わたしには勝ち目がない。
だから必ず、相手を煽って怒らせる。そうすれば、判断力が鈍りこちらが有利になる。
それだけじゃない。こうする利点はまだある。
「…はぁ、あなたなんかにかまっている余裕はないの。悪いけど帰らせてもらうわ。」
「ふふ…臆病なんですね。それに短気。」
「…なんですって?」
「だってそうですよね。わたしが代わりに来たのかもしれないのに、騙したと決めつけている。そうやって勝手に罠だと決めつけて逃げるなんて、臆病者ですよ?それにすこし煽られただけで、そんなに怒るなんて…短気ですよね?」
「黙りなさい!」
「あれ?図星ですか?ごめんなさい!本当のことを言ってしまって!」
怒りが炎のように燃え上がっている。完全にわたしを敵だと認識させられた。
これで蔓木さんがここから離れることはない。
そう、これこそが狙い。判断力を鈍らせ、そしてわたしへの怒りを増大させる。
そうすることで、彼女をここにくぎ付けにできる。…後は、
「クソガキっ、死になさい!」
その言葉とともに銃弾が飛んでくる。
でもわたしには分かっていた。彼女の感情が目に見えてわかる。
だからわたしは、彼女が銃を構えた時点で近くの机の下に隠れた。
乾いた破裂音が響き渡る。さっきまでわたしがいたところを、鉄の塊が通り抜けていく。
…大丈夫、ここまで想定通り。栄華さんに教えてもらったことをちゃんとやればわたしにだって。
「かくれんぼのつもり?…いいわ、何を考えているか知らないけれど、あなたはここで殺してあげる!」
叫びながら、手当たり次第に銃を乱射しているようで、眼前の床に偶然着弾したときは、心臓が止まりそうだった。
この場には薄暗い明かりしかないため、そうそう見つかることはない。それに正確な狙いをつけるのも難しいだろう。
このまま隠れていれば時間は稼げるが、場合によっては最悪の事態になりかねない。
隠れているだけじゃダメ。せめて、相手を動けなくしないと。
「あははは!誰かの助けを待っているのかしら?でも残念!あなたの仲間の男は私に近づけない!さあ、どうするのかしら?」
「っく!」
気配のする方へ数発撃ってみるが、狙いとは違うところに当たる。…だめ、照準が全く合っていない。
やっぱり、わたしに銃の才能はない。何度撃っても同じ結果になるだけだ。
「どこを狙っているのかしら?拳銃はこうやって撃つのよ!」
「きゃっ!」
頭上の机に命中したようで、大きな音と共に破片が落ちてくる。
…足音が近づいてくる。
このままだと、距離を詰められて…殺される。
…やっぱりだめだ。わたしには無理だったんだ…
「ふふ…そこにいるのは分かってるわよ?もうあなたにできることはないわね~。」
「…そうですか。【本当にそうですか?】」
今までのわたしなら、できない…そう決めつけていたに違ない。
でも、今は違う。
「え?…っ何これ!げほッげほ!煙玉?!」
わたしだって戦える!
結さんや、龍之介さん。それに雨宮さんのように、ヒーローのような戦い方はできない。
そのせいでわたしは、戦いでは足手まといにしかならないと思っていた。
でもそれは間違いだった。
そもそも、一緒の戦い方をする必要なんてなかった。
拳銃が当たらないなら、当たる距離まで近づいて撃てばいい。
もっと強力な武器が必要なら、確実に当てられるように場所を整えればいい。
煙玉を使えば、その場にいる人達は状況が分からなくなる。…わたし以外は。
見える。不用意に近づいて、大量の煙でせき込んでいる蔓木さんが!
「当たって…!」
「うぐ!っ…よくも!」
3発撃って、1発が左肩を貫いた。
ここで油断してはいけない。わたしはすぐに距離をとって隠れる。
心臓の鼓動が早い。人を撃ってしまったという後悔と、自分の作戦がうまくいった高揚感からだろう。
よし、相手は完全にわたしを見失っている。これを続けていれば、わたしにも勝機が…
「ふざけるんじゃないわよ!!」
「っ!」
彼女から聞いたことのない怒号が聞こえ、思わず体が竦んでしまった。
それと同時に、広範囲に危険な気配を感じた。
気配と気配の間にある、安全な場所に滑るこむように身を屈める。
ガラスが割れる音。そして、なにかを焼いているような音と変な匂い。
そっと、音のする方を見てみると。そこら中の机が、煙を立てながらが溶け、見る無残な姿に変わっていた。
…瞬間脳裏に、当たった時の自分が思い浮かぶ。
ドロドロに溶けていく体、苦痛で叫び声をあげながら、のたうち回って死ぬ自分の姿が見えた。
思わず体中を触り、自分が正常な状態なのかを確認せずにいられなかった。
…大丈夫、なんともない。さっき見えたのは、恐怖から生まれたただの幻だ。
恐怖を振り払うように、頭を振り切り替える。
落ち着いて…栄華さんが教えてくれた戦い方は通用している。
あとは、わたしはそれを実行して彼女を止めるだけだ。
わたしはポーチから煙玉を取り出し、自分を覆い隠すように床に叩きつけた。
モチベーションになりますので、感想コメント、いいね、評価お待ちしております。
下の星もお願いします。