表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EDEN  狂気と裏切りの楽園  作者: スルメ串 クロベ〜
105/126

2-41.緊張

「…大丈夫…できる…絶対できる…」


そう自分に言い聞かせ、装備のチェックをする。これで6回目だ。

刻一刻と作戦の時間が迫っている。もう1時間もない。

それを意識するたびに心臓の鼓動が早くなる。装備を確認するのはそれを誤魔化すためでしかない。

けれど、確認している自分の手が小刻みに震えているのをみると、あまり効果はなさそうだと思えてくる。

それもそのはず、確認なんてとっくにやっているからだ。


数時間前には起きて、各種装備の確認と、銃や道具の扱い、装備をつけたまま動けるかの確認などをしておいた。

正直完璧からは程遠いけれど、随分マシになったと思う。

そのおかげで多少自信がついたと思っていたのに、いざ本番が迫ると体は正直だ。

深呼吸をなん度も繰り返し、無理やり落ち着こうとしてもむせて咳き込んでしまう。

…本当に大丈夫なんだろうか。その言葉がずっと頭の中に響いている。


「…できる…絶対にできる…大丈夫…」


その度に、激励の言葉を出して誤魔化す。

…大丈夫じゃないかもしれない。成功できる自信なんてほとんどない。

でも、絶対に成功させなければいけない。結さんのために。そして、みんなでここから生きて出るために。


「雪原さん、そろそろ行きますよ。」

「…はい。」


なけなしの勇気を振り絞って、わたしは…わたしにできることをやる。








筒裏さんを残し、わたし達はシェルターへと戻ってきた。

ここと、鶴木さんのいる場所以外からしか上下階へ移動できないためだ。

皆が緊張の面持ちの中、ついに最終確認が始まる。


「みなさんにお伝えした通り、すでに向こうに連絡はしてあります。30分後に3階のフードコートで。予定通り事前に雪原さんに行っていただきます。」

「はい。…がんばります。」

「おそらく他に何人か連れてくるでしょう。そこで、真壁さんにはその人たちを動けないようにしていただきたい。」

「ああ、任せてくれ。」

「その後僕と合流して、向こうの基地を襲撃します。雪原さんはその間、鶴木が戻れないように足止めをお願いします。」

「…やってみます。」

「雨宮さんは、怪物が出た際にその対処を。それなら問題ないですよね?」

「ええ、人じゃなければ。」

「…では、行きましょう。」

「…はい!」「おう!」「ええ。」


未道さんの合図と共にシャッターが開く。時間は真夜中、前と同じく暗闇で支配されている。

未道さんと雨宮さんは、すぐに出て行った。後はわたし達2人だけ。

震える体を押さえつけて、暗闇へと1歩踏み出す。…大丈夫。

しっかり休んだおかげで体調は悪くない。装備も万全。…後は気持ちだけ。


「…大丈夫…大丈うみゅ!」


うわ言のように自分に言い聞かせていると、誰かに頭を触られた。

見上げて確認すると、龍之介さんだった。


「あんまり気負うなよ。…ってそれは無理か。」

「…はい。絶対に失敗できません。」

「…悪いな、変わってやりたいが…俺じゃあ…」

「大丈夫です、わかってますから。…絶対にわたしが成功させて見せます…」

「…なあ、言っておきたいことがあるんだけどよ。」


大事な場面の前に、言っておきたいことがある?前に何かで見た気がする。確か…


「あの…それって死亡フラグっていうものなんじゃ…」

「ちょっ!おま…なんつーこと言うんだよ!?そんなたいそうなこと言わねーよ!」

「じゃあなんですか?」


そうわたしが聞くと、彼は少し間を置いてから答えた。


「…俺さ………年下の女子高生に告白して、振られたことがあるんだ。」


突然すぎる言葉に、わたしはフリーズした。

少し経ってようやく言葉の意味が理解でき始めると、ますます困惑する。


「は?…え…は?…どう……え?すみません、なんでそれを今言ったんですか?」

「……俺にも、わかんねぇ…なんで今言ったんだ?」

「知りっ…知りませんよ!わたしに聞かないでください!」


思わず大声が出そうになるのを抑え、なんとか小声で訴える。


「え?本当になんでわたしに言ったんですか?」

「いやー、なんとなく。」

「なんとなくでそんな事言わないでください!」

「…しかもよ、その時教育実習中だったんだぜ?」

「もっと混乱させるようなこと言うのやめてください!」


…ちょっと待って。教育実習中に、女子高生に告白した?それってつまり…

何かに気づきそうになったが、深く考えないようにした。

いらない情報のせいで頭が混乱する。何が目的でこんなことを…


「少しは落ち着いたか?」


優しい声で言われてハッとした。

さっきまでは、緊張で全身に力が入っていたせいでガチガチだった。

けれど今は、いらない力が抜けてリラックスできている。

それに、ずっと感じていた不安や緊張も強く感じない。止めようとしても止まらなかった、体の震えも止まっている。

どうやら、わたしの安心させるために冗談を言ったようだ。


「…そういうことですか。ええ、おかげで落ち着きました。」

「ならよかった。俺も少しは役に立っただろ?」

「はい、ありがとうございます。…これなら本当に大丈夫な気がしてきます。」

「なーに、お前なら元から大丈夫だよ。前にでかい犬の怪物から助けてくれたろ?」

「そんなこともありましたね。でもあの時は、無我夢中で…」

「じゃあい大丈夫だ。無我夢中でもそんなことができるんだし、落ち着いてる今なら簡単だろ?」

「…ふふ、簡単に言ってくれますね。わかりました、あなたの言うことを信じてやってみます。」

「ああ。失敗したら、俺のせいにしたらいい。…頑張れよ。」

「はい!」


これは彼なりの激励なのだろう。おかげで心も万全だ。

…後は、自分を信じてできる事をするだけだ。

大丈夫、絶対に上手くいく。今ならそう確信できる。

一度深呼吸をする。

全身が軽い。拳銃を構え直して、暗闇の中歩みを進める。


「それにしても、変なことを突然言わないでほしいです。それじゃあさっきの話は、全部作り話なんですよね?」

「…………………………まあ…おいおい、言うわ。」

「え?…いや、嘘ですよね?…えぇ…」


焦るわたしの言葉に彼は最後まで答えてくれなかった。

モチベーションになりますので、感想コメント、いいね、評価お待ちしております。

下の星もお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ