2-40.異変
雪原舞視点です。
作戦は深夜。それまでの間、ひたすら拳銃を構え撃つ練習をした。
最初、前に使ったマシンガンを使おうかと思ったけれど、結さんを運ぶためにどこかに置いてきてしまって手元にない。
それに使ってみて分かった。どれだけ良い銃でも、まともに使えなかったら意味はない。
マシンガンは確かに強力な銃だと思うけれど、撃った時に腕が飛び跳ねてまともに当たらなかった。
そんな銃を大事な場面で使うのは、失敗の元。だから、通常の拳銃を使うことにした。
「しっかり狙いを定めて…腰を落として、重心を安定させて撃つ…」
壁に向かって何度も練習する。外に出て練習するべきかもしれないが、1人で怪物を倒せる自信がない。
それに、出て行こうとしたら雨宮さんに止められた。…その後、小言をたくさん言われたが、拳銃の正しい構えと撃ち方を教わった。
「撃つ…ふぅ…」
練習しているだけですごく疲れる。本番では、出来るだけ早く蔓木さんを止めないと体力が持たない。
その後、外に向かって何発か撃った。やっぱり実際に撃つと違う。撃つたびに衝撃が体を駆け抜け、大きな発砲音で腰が抜けそうになる。
それに少し撃っただけで、腕が痺れて銃をしっかり握れなくなっている。2、3発ったら少し休まないと拳銃が飛んでいきそうだ。
けど少しずつコツが掴めてきた。雨宮さんに言われた通りの構えなら、ひとまず撃つことができそう。
そうやって練習を続けていると、
「待たせたわね。」
「!雨宮さん。」
「頼まれていたものよ。使い方は、中にメモを入れておいたから読んでおきなさい。」
そう言って袋を渡してくる。中には道具とメモ、Gフォン。そして腰につけるポーチが一緒に入っている。
…そういえば、持ち運ぶことを考えてなかった。それにわたしのGフォン。どうやら、筒裏さんが持っていたそうだ。
「…その、ありがとう…ございます。」
「……あなたには色々、謝らないといけない。けれど今は、あの子のことを頼みたい。…お願い。」
「…あなたはどうして…いえ、わかりました。でも、終わったら全部話していください。」
「分かったわ。…それと、これも渡しておく。」
「!これって…!」
そう言って、手渡されたものには見覚えがあった。
銀色の髪飾り。結さんがつけていたものと同じ物。
「結にあったら、その髪飾りに入っている薬を打ち込みなさい。」
「?これに薬なんて入っているんですか?」
「ええ。これをこうすると針が出てくる。後は心臓に突き立てればいいわ。」
「…ちなみに、薬ってどんな物ですか?」
「変異を抑制して、正気に戻す物よ。それ一つしかないから、無くさないで。」
「…ちゃんと、後で全部説明してくださいね?」
「分かってるわ。それより、あなたは作戦まで休んでいなさい。」
わたしは頷き、言われた通り休むことにした。仮眠室があったので、ベッドで眠ることができるのはよかった。…ソファーで眠ると、また同じ夢を見そうで怖かったから。
…起きたらいよいよ本番だ。ライブの前夜も、緊張して眠れないことがあったけれど、それとは比にならないほど緊張している。
目を閉じれば、高鳴った心臓の鼓動が聞こえる。そのせいで頭が冴えてなかなか寝付けない。…時計の針の音が、やけに大きく聞こえる。
…大丈夫、絶対に大丈夫。必ず結さんを助け出せる。そう自分に言い聞かせ続ける。
1分、10分、1時間…自分を奮い立たせる呪文を言い聞かせ続けていると、いつの間にか眠っていた。
…部屋の外が少し騒がしい。
眠い目をこすりながら、体を起こし確認する。
龍之介さんと未道さんが何か話しているようだ。
「数が多い。昨日まではこんなこと…って悪い、起こしたか。」
「いえ、大丈夫です。何かあったんですか?」
「怪物の数が増えています、それも急激に。今も外に4体いました。」
「えっ!?」
最悪のタイミングだ。怪物がいたら作戦を実行できない。
「増えたのが狼型なのを考えると、人が変異した確率が高いです。」
「…どこからだと思う?」
「十中八九蔓木のところでしょうね。気になるのは、どうして今になって起こったかですね。偶然なら良いのですが…」
「何か気になることがあるんですか?」
「…いえ、憶測の域を出ませんので。それより、まだ時間があります。雪原さんは休んでいてください。」
「でも、怪物は…」
言い終わる前に、突然シャッターが開いた。
その場にいた全員が、すぐに銃を取り出し向け警戒する。
けれど、開いた隙間から見える人物を見て安堵した。
「少し手間取ったわ。」
そう言って、気だるそうにソファーに座り込んだ。
彼女が着ている白衣は、返り血でところどころが赤く染まっている。
「お疲れ様です、タオルをどうぞ。」
「ありがとう。数が多くて時間がかかったわ。」
「どのくらいいたんですか?」
「18ね。幸い何体かは同士討ちをしていたから、わたしが殺したのは実質半分ほどかしら。」
「…どう思います?」
「怪物が現れた方向からして、蔓木のところで間違いないわ。それよりも気になっていることがある。現れた怪物のことよ。」
「どうゆうことですか?」
「凶暴になっていた、味方と殺し合うほどに。以前なら、そんなことありえなかった。動物になり下がっても、仲間意識のようなものがあったから。…おそらく原因は…」
「その前に着替えてきた方がいいですよ?」
彼女の言葉を遮り、未道さんがそう言う。確かに返り血のついた服なんて着ていたくない。
?どうして2人してわたしを見ているのだろう。
「まあ、何が原因にしろ全て殺したからいいわ。」
「ですね。それじゃあ僕らは、基地にぶきを取りに行ってきます。お二人は休んでいてください。」
そう言って龍之介さんを連れて出て行った。
…何か気になる。怪物が凶暴になった原因、おそらく雨宮さんは知っているのに何で話さなかったんだろう。
「あなたは休んでなさい。」
「あっ…はい。あの、怪物が凶暴になったのって…」
「そんなのはどうでもいいわ。今は少しでも、体を万全の状態にしておくのが先よ。」
「うぅ…わかりました。」
どうやら話してくれる気はないようだ。それに彼女の言うことも一理ある。
仕方なく、言われた通り休むことにした。
「…人の姿を保っているのなら、まだ間に合うはず。もし間に合わなかったら、その時は…」
背後で雨宮さんが何か言っていたが、小さな声を聞き取ることができなかった。
そろそろ、2章も終わります。
後もうちょっとなので、10月中に終われればいいなぁ…
それと、息抜きも兼ねてラブコメを描き始めました。
よければそちらもどうぞ。
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