10.不穏な影
…どのくらい経っただろう、あたしはその場から動けずにいた。
………あたし何がしたかったんだっけ?…なんでここにいるんだっけ?
なんで……目の前に麻倉君が真っ赤な水まみれで倒れてるんだっけ…。
頭が働かない…。あたし…は………。
「*代!お*!*こ****か!」
さっきから誰かが何かを叫んでる。何をそんなに慌ててるの?
それに麻倉君も地面で寝てたらだめだよ。
「*い、ち***痛**。」
「っ!」
頬に鈍い痛みが走る。何が…って
「石…塚君どうし…てここ…に…。」
「…麻倉が、お前のことが心配だって追いかけて行ったきり戻ってこなかったから…その様子を見にきたんだ…。」
「ああ…そうだったんだ…、麻倉君ならそこにいるよ…ねえ麻倉君…起きて?」
「…………………」
「ねえって…、あごめんね石塚君…彼、ちょっとふざけてるみたいで…。」
「神代…その…麻倉は…。」
どうしたんだろう。…そっか、ああきっと喧嘩して気まずいのかな?大丈夫だよ。
あたしも一緒に謝ってあげるから。だから…はやく…。
「神代。もう麻倉は…****…。」
「え?…ごめん今なんて?上手く聞き取れなくて…もう一回言ってくれる?」
「だから***るんだよ!まだダメか?!麻倉はもう死んで…くぅ、ううううう……。」
「死ん……で…嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だうそだうそだ!!!ねえ!麻倉君!寝てるだけでしょ!起きてよ!!ねぇ!!」
横たわる彼の体を揺さぶる…。何度も何度も何度も何度も何度も……でも起きてくれなかった…。
あたしの手……なんでこんなに赤いんだろう………ああそうか…これは彼の……
「うっ!おぇええええ!!…げほ!…けほ!」
ああ昨日からあまり食べてなくよかった…これ以上あたしのせいで か、彼を汚さなくて済む…。
どうしてこんなことになったんだろう…。彼が死んだのは誰のせい?
…あたしの…せい…?彼が死んだのは…誰のせいだ?それ……は…あたしのせい…だ。
「あ…ああ…あ…ああああ…あああああああ!!!!」
「!おい神代?!大丈夫か!しっかりしろ!」
石塚君の声が…遠の…いて………………
「……………ここは…。」
「起きたか?…はぁ、よかった。」
石塚君?あれあたしさっきまで何して…。
ってなんで寝てたんだっけ?………ああそっか…思い出した…あたしのせいで…。
「石塚君…ごめんね。迷惑かけたよね…。あたし…その…いろいろ一杯一杯で…。」
「ああ…わかってる。僕も混乱していて…。ひとまず何があった説明してもらえるか?」
「うん…。」
あたしは、銃声が聞こえて様子を見に行ったこと。そこで怪物が人間を襲っているのを目撃したこと。
…怪物に見つかってしまい応戦したこと。
その結果、麻倉君があたしを庇って怪物に…。
その後のことはよく覚えていない…。あたしが怪物を殺したらしいけど、全く覚えてない…。
駆けつけた石塚君の話だと、あたしは、首がない怪物の前に立っていたらしい。
手に握っている鉈が血で濡れていたからあたしがやったんだろうとのこと。
「そうか…。」
「…ごめん…あたしがもっとちゃんと考えて行動してればこんなことには…。」
「それは…いや神代が悪いわけじゃ…」
お互いに何も言えず沈黙が流れる…。
「…そういえば…雪原さんは?」
「………それは…。」
「?え…まさか!また怪物が?!」
「いや……彼女は…血まみれの君を見てどこへ走り去ってしまって…。」
「……はは…そうだよね、こんな格好してたら逃げられるよね。」
白いパーカーが血を吸って赤黒い色になっている。スカートも黒く変色して全身から鉄っぽい臭いがする。
後で着替えないと…。流石にこの格好は辛い。
「ならはやく探さないと。まだ怪物がいるかもしれないし。」
「……………そのことなんだが、すまない。君と一緒に行動することはできない。」
…今なんて?一緒にいけない?なんで…
「…え。何を言って…。」
「雪原が君を見て、逃げ出す際のことだが…どうも麻倉を殺したのは君だと思ったらしい…。」
「…………は?え、うそでしょ…。」
「君には悪いが事実なんだ…。だから…君を連れて彼女を探すとまた逃げ出しかねない。それに僕も…いやなんでもない…。」
「………」
……………そっか、それなら仕方ないよね…。
雪原さんが悪いわけじゃない。だって悪いのはあたしなんだから…。
「わかった。雪原さんのことよろしくね。あたしは…1人で大丈夫だから…。」
「…本当にすまない…。彼女には今回のことを伝えておくから。」
「…うんよろしくね。」
「それと…これを受け取ってくれ。麻倉が君から受け取った鞄だ。中に食料、それから拳銃の弾が入っている。」
「それ弾なんて入ってたんだ…。でも石塚君たちの分が…。」
「心配しなくても必要な分だけすでに分けてある。これは君の分だ。それと鞄もこっちを使ったほうがいい、前のは血で汚れているだろう?」
確かにずっと背負ってたから、鞄も血まみれになってる。
「ああそうだ、連絡を取れるようにGフォンの番号を交換しておかないと…。」
「…そんな機能があるのか?なんでもっとはやく言わないんだ…。」
「あたしも忘れてて…。ごめん…。」
そう言って番号を交換する。
…なんだろうさっきから石塚君があたしのことを……いやきっと気のせいだ。
「とにかくこれで連絡が出来るのだろう?なら僕は雪原を追うから何かあれば連絡をしてくれ。」
「うん、わかった。それじゃあ気をつけてね。」
「ああ…。」
そう言って彼と別れた。
…………………また1人になった。
side:石塚
麻倉は本当に怪物に殺されたのだろうか?
彼だって怪物がいることは知っていたはずだ。それなのに不用意な行動をとるだろか?
…もしかしたら彼女が麻倉を…いや考えすぎか…だが…。
怪物を近くで見たがあれと争うには武器が必要だ。神代は銃をもっていたが弾数に限りがある。
そう考えると麻倉が持っていた鉈を奪うために怪物に襲わせたのでは?……わからない…。
だが考えてみれば不自然な点が多い、今日も僕らが言い争っているところに都合よく現れた。
…その後進む方向を決めたのも彼女だ。
Gフォンの機能でもそうだ。最初に会った時説明できたはず、なぜ?
考えれば考えるほど彼女への疑いが強くなっていく…明日もし会うことがあったら注意しなくてはいけない。
それに雪原もそうだ、神代と行動を共にしていた。…アヤシイ、ソウダゼンインアヤシイ。
モシカシタラ彼女達ハサイショカラ僕ヲ殺スツモリダッタンジャナイカ?ソウダ、ソウニ違イナイ。
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