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EDEN  狂気と裏切りの楽園  作者: スルメ串 クロベ〜
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1.目覚め

誰かの声がする。すごく聞きなれた声だ。

…だというのに、声の主がどうしてもわからない。

誰の声かと確認しようにも、周りは霧がかかったように見えない。

ただその声は必死になって何かを訴えている。一体何を必死になっているのだろう?


とても必死で、悲痛な叫び。聞いているだけで胸が締め付けられる。

誰の声か分からない。目を開けようにも、石になってしまったように開かない。

ただその声は、あたしを呼んでいる気がする。


大丈夫。あたしはここにいる。

そう伝えようと、見えない誰かへと手を伸ばした。


…そこで目が覚めた。



「う、うぅ…。」


頭が重い。夜更かしをした時のように、頭が熱を持っている。

昨日何時に寝たっけ?…思い出せない。

今日は確か…あれなんだっけ?何も思い出せない。どこかへと行かないといけなかった気がする。

他にも、何か大切なことがあったはずなのに…どうしてか思い出すことができない。まるで、霧がかかったのようにおぼろげだ。それに、


「…あれ、ここどこ?」


知らない部屋だ。

コンクリートでできた質素な部屋。簡素なベッドとソファー、長机、壁には大きめのモニターがついている。

他には扉がふたつあり、片方の扉近くには何かの機械が取り付けてある。

部屋のところどころに埃が積もっており、長い間使われていないように感じる。


ここはどこだろ?そんな、当たり前の疑問に答えてくれる人はいない。自分を含めて。

ここに来る前のことが思い出せない。いや、それだけじゃない。

…それ以前も、思い出すことができない。


「あれわたしは誰だっけ?うぇ!?えっ!何も思い出せないんだけど?!」


あまりの状況に、独り言を言いながら困惑する。


「お、落ち着こう!こう言うときは落ち着いて一つずつ整理していこうってどこかで聞いた気がする!多分!」


深呼吸をし、火照った頭と心を落ち着ける。

そして、霧がかかった頭の中へと意識を向ける。

まず名前。名前…名前…名前……………。


「か…かみ…かみし…そうだ!あたしの名前は神代かみしろ ゆい

そうそうそんな名前だった気がする!」


思いのほか簡単に名前を思い出すことができほっとする。

それと同時に、この非現実的な状況が少しずつ楽しくなってきている。

それはきっと、無意識に感じている恐怖をごまかすためだったのかもしれない。


「うんうん!意外と思い出せるじゃない!よ〜し!この調子で他のことも思い出していこう。きっと楽勝でしょ!ふふん!」


そう明るいテンションで、霧が立ち込める記憶へと踏み込んでいく。

…が、


「ダメだ〜…名前以外思い出せない…。なんなの…。」


名前以外、何も思い出せないということしか分からなかった。

そもそも、思い出そうとしても手掛かりが名前しかない。

自分が、どこに住んでいたのか、何をしている人なのか全くわからない。

年齢や、職業といった当たり前の事すら分からないのに、漠然と思い出そうとしても無理なのかもしれない。色や形が分からないパズルをしている気分だ。


「うん、諦めよう。とりあえず名前はわかったから1歩前進したって思おう。そうなると次は…今の状況の確認かな、ほんとここ何処だろ…?」


思い出せないのなら仕方がないと切り替える。意外とすんなり受け入れられるところを考えると、あたしはあまり深く考えない人だったのかもしれない。

自分自身の考察を進めつつ、部屋を観察する。


灰色のコンクリートに囲まれた部屋。設置してある家具も、シンプルなものばかりだ。

固いベッドにソファー。ベッドは床で寝るよりはマシな程度の物で、あまりいいものじゃないとすぐに分かる。

ソファーも同じで、座るとギシギシと音を立て今にも壊れそうだ。まるで、部屋という体裁を取るために、とりあえず置いたような物ばかり。この部屋に、どういう意図があるのか全く分からない。


「ん?」


ソファーの座り心地に不満を感じているときだ。机の上に目が行き、それを見つけた。

そこにあるのは、この部屋には不釣り合いな箱。

丁寧にラッピングされた箱。正方形の白い箱に、赤いリボンでラッピングしてある。まるで、クリスマスにもらうプレゼントのようだ。今日が何月なのかは分からないけれど。


箱に手を伸ばし、持ち上げる。…結構重い。

中に入っているものは傾けると、すべるように動く。箱の側面にすぐに当たるのを見ると、あまり大きなものではなさそうだ。一度机の上に箱を戻す。


「…どうしよう。…んー、とりあえず開けてみようかな。」


少し悩んだが、開けることにした。

この時のあたしは、罠などの可能性を一切考慮していなかった。この状況を楽しんでいるせいで、警戒心がなかったせいだろう。


けれど、他にできる事もなかった。

部屋の扉は開かないし、今できる事は箱を開けることぐらいしかなかった。

箱を手に取る。


「プレゼントを開ける気分ってこうなのかな?ワクワクしてきた…!」


そんなのんきな言葉が、無意識に口から出ていた。完全に今の状況を楽しんでいる。


「クリスマス~、クッリスマス~。ふんふふ~ん♪」


ふざけた態度をとりながら、リボンの端を手に取り、引っ張る。

しゅるり…と、リボンがほどけ箱だけが残る。後はふたを持ち上げれば、中の物を確認できる。

好奇心に身を任せ、ふたを持ち上げる。


瞬間、凍り付いた。


さっきまでの、楽観的な気分は、中を見た途端に吹き飛んだ。


「え…、な、何これ…。え、本物?そ、そんなわけないよね…。」


薄暗い部屋の明かりに照らされ、鈍く光る物体。

知識の中にあるそれをあたしは知っている。

映画や、漫画。それに外国では普通に流通している物。


誰かを傷つけるもの。…いや、殺すための物。

引き金を引くだけで、簡単に命を奪える武器。…拳銃だった。





「…えっ、え!?、え……。いやいや何かの冗談だよね?ほらきっと玩具でしょ?…うんうん、きっとそう!ほら持ってみればわかるって重!いや重!?え本物!?いやいや!モデル…なんとかだって!」


あまりにも予想外の物が出てきたせいで、おかしなテンションで拳銃を持って慌てることしかできない。

それもそのはず、箱を開けるまではおもちゃでも出てくると思っていた。

しかし、そのおかげで一気に現実へと引き戻された。心臓が張り裂けそうなほど、脈打っているのが伝わってくる。


未だ混乱から抜け出せずにいるが、床に落とした箱に目が行った。

まだ何か入っている。震える手で箱を取り、それを確認する。


「スマホと紙…後…カード?」


黒い板。形やスイッチ、ケーブルを差し込むための穴などから、スマートフォンだと判断した。

後は四つ折りの紙と、プラスチックでできたカード。Mカードと書かれている。中に何か埋め込まれているのか、少し膨らんでいる部分がある。…何に使うのだろう。

とりあえず紙から確認することに。


「えーっと、なになに~銃の取扱説明書?字が細かい…。それから…Gフォンの使い方、このスマホのことかな?最後に、Mカードについて…このカードのことだよね?」


一通り目を通して分かったことが3つ。

1.拳銃の使い方

取説には一通り使い方が書かれていたけれど、恐らく…いや絶対に初めて触ったからか苦労した。

拳銃って引き金を引けば弾が出るそれが私の知識の全てだ。

それが何?撃ち方?安全装置?スライド?リロード?…自分の知らない事ばかりで、理解するのは大変だった。

誤って引き金を引いたときは本当に驚いた。音もそうだけど、ものすごい衝撃で拳銃が手から吹き飛んだ。

…まあそのおかげか、やっと状況を受け入れることができた。


「モニターに跡ついてるよ…こっわ…。」


2.Gフォンの使い方

最初ただのスマホかと思ったのだけど違った。

まず起動時にあたしの名前が出てきた。どうやら思い出した名前は間違っていなかったようだ。

けどそれだけだった。紙に書いてあることも起動方法しか載っていなかった。仕方なく放置。

というよりも、次のMカードの説明を読んだ瞬間どうでも良くなった。


「Mカードの使い方。なになに…えっ、使用者の記憶を復元!?」


そう、使えば記憶が戻る。名前しか思い出せないあたしにとっては一番重要だ

ただすぐに使える訳じゃない。どうも専用の場所があるらしく、そこでMカードを使うとのことらしい。


部屋の中かと思い、機械のついていない方の扉を開けてみたが、シャワーとトイレだった。

機械がついている方は開くことすらできなかった。


「…あれ。これ詰んでない?」


…しばらくして。

扉近くの機械に【Gフォンをかざしてください】って表示されていたことに気づいた。

部屋を調べているときには気づかなかった。どうやら内心では焦っていたらしい。


「こんなわかりやすく書いてあるのを見落とすなんて間抜けかな?ははは…はは…」


自分のふがいなさに笑いがこみあげてくる。

…けどこれで、ここから出られる。


「すぅー……ふぅー…。」


大きく深呼吸をする。乱れた心と頭が、少しずつクリアになっていくのが分かる。

目が覚めてから、とにかくわからないことだらけだ。正直、今もまだ混乱してる。

これからどうすれば良いかなんてわからない。ここで待つこともできると思う。

けどそれで何かが変わる気が全くしない。


多分だけど、わたしは誘拐されて事件か何かに巻き込まれているんだと思う。

そうでもなければ、本物の拳銃を渡したりなんてしない。


ここで待つか、それとも進むか…答えはすぐに出た。

考えててもしょうがないし行ってみようと。本当に楽観的だ。

けれど、そっちの方がわたしらしかった気がする。


「よし行こう!記憶を取り戻すために!」


そう叫び、目的を再確認。

不安をかき消すために笑みを張り付け、気持ちを前に向ける。

怖がって縮こまるよりも、こうしていた方がきっと上手く行く。

大丈夫、何とかなる。そう自分に言い聞かせ一歩踏み出すのだった。





……このあまりにも短絡的で、脳天気な考えは、扉を出てすぐに…後悔することになる。


あたしはまだ、何も知らない。

この先に待っているものを。

これから、何をさせられるのかを。


…自分が何者なにかすらも。

それが…知らなければよかったことだという事も。

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