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「これより祝福を捧げます」




 聖女のねねが手に持った聖遺物である雷光の杖をゆっくりと天に掲げる。

 蒼白く淡い光が杖から発せられ、その光が細かい霧のようになり、空に舞い散り王都中に降り注ぐ。


 光に触れた瞬間、俺の体が暖かくなってくるのがわかる。観衆のあちこちからから驚きの声が上がる。跪いて涙を流す人もいる。

 奇跡によって輝く聖女のその光景は、まさに物語の主人公だ。


 これで初期症状の患者は治癒に向かう。そういう手はずだった。



 そんな中、隣でフェリがモゾモゾしながら訴えてきた。


「なんかいやなかんじ。ぴりぴりする」

 ぴりぴり?フェリを俺の影に移動させて光を遮る。少し楽になったようだ。


 魔物としての鋭い感覚がそう感じさせるのか。痛みではなく痺れる程度でそこまで苦ではないようだが、いやな感じ、というのが少し気になる。



 俺の指輪が微妙に振動している。杖の光に共鳴しているのだろうか。

 

「俺には嫌な感じはわからないけど、聞こえない音波とか振動波みたいな感じなのかな。金属が震えているんだよ。電磁波とかに近いのかも」


「電磁波って言ったら電子レンジみたいなやつ?危ないんじゃないのっ?」


 電子レンジはマイクロ波だったっけか。レントゲンも電磁波だったはず。

 電波でも電磁波でも強ければ危険なのだろうけど、この程度ならば人体に問題はないんじゃないかな。

 

 だけどもしあの杖が、音波や電波を操れるアイテムだとしたら、この魔法やスキルが先行する世界で、そんな最先端テクノロジーが発達するものだろうか。


 そんな話をしている間も、杖の光は輝きを増し続けている。


 何かがおかしい。ねねのいるテラスは、光が眩しくて直視が出来ない状態だ。

 事前のねねの説明だと、光の霧が人々に降り注いで終わりだったはずだ。


 周辺に一段と強く光が広がりきったその瞬間、ピシッという音とともに光が弾けた。


「まぶしっ!!えっ、トモっ上見てっ!!!結界がっ!!」


 会場を囲っていた結界がパラパラと砕けて消えていく。

 杖から出る光は、魔力でも攻撃でも無かったはず。

 杖の光が結界に干渉した?それとも別の何かに攻撃されて結界が消えた!?


 まずいっ!集まっていた人達もこの異変に気が付き、会場はパニック状態になりかけている。



「静まれぇぇ!!王都の結界は健在である。何も問題はないっ!」



 周辺の憲兵達が聴衆を落ち着かせるために声を上げる。

 王都全体の結界には問題はないようだ。ただこの会場を覆っていた結界は破壊された。


 辺りは騒然として、大半の人が憲兵の指示に従っているが、会場から逃げ出す者も出始めている。

 そんな中、至るところでいくつもの同じ内容の声が上がる。



「聖女様がっ!!」「ああっ!聖女様っ!」


 

 王城のテラスで護衛の兵士が慌てている。

 そこにねねの姿はなく、杖だけが残されていた。




「‥‥うん。ねねは、この中にいるようね」



 王都は、「聖女が消えた」と大騒ぎになってしまった。

 おかげでお披露目や式典は中止に。王と大臣が事後の処理に追われている。


 祝福によって、会場に集められていたウイルスの初期症状患者は治癒されていた。王都全体にも広がったようだった。

 

 そして、予想された協会の妨害は行われなかった。

 強硬派であるヒゲの一団の捜索は継続して行われている。



 俺たちが王宮の一室でセシルバンクルから聞かされたのは、ねねが杖の中に取り込まれているという、意味不明な話だった。

 ねねの魔力反応があるらしい。


 聞いて安心はしたが、これを無事と呼んでいいものなのかどうかだ。


「えっ?ねねちゃん、小さくなっちゃったのっ?」


 唯がこれまた意味不明なことを言う。杖に向かって話しかけているが、物理的に入っているんじゃ無いと思うよ。

 

「杖を介して別の場所に飛ばされているってことしゃないのかな。

 もしくは、杖の魔法みたいなものに囚われているっていう感じか」


 セシルバンクルが頷く。

「‥‥おそらく、何かの条件下で発生するイレギュラー」


 検証中には起きなかったことらしい。ねねも事前に初期症状患者を治療しているらしい。


「聖女が使ったら消えちゃうとかかなっ?」


 唯が思いついた推測を口に出したのだが、聖女だけへの罠みたいな武器。聖遺物だっけか。作った神様は聖女コレクターかなにかかな。


 いきなり、セシルバンクルから蒼白い光が発せられる。

 杖を掲げていた。霧の光が部屋中に立ち込める。


「‥‥何もならないわね」


 賢者様、先に言ってからやってね。ビックリするし、フェリはゾワゾワするって言ってるし、賢者様も消えちゃったらどうしていいかわからんよ。


 賢者様は昔、聖女だった事があるそうだ。なんか自慢気な顔で嬉しそうだね、賢者様。

 

「元じゃダメか〜っ!」


 こら、唯っ!元じゃとか言わないの。ほら、賢者様、落ち込んじゃったじゃないか。

 

 俺も杖を持ってみた。そんなに重いものではない。同じように杖を掲げてみた。悲しいことに光らない。


「‥‥魔力の使い方がヘタね」


 うーん。俺の手品スキルはあまり魔力を意識したことが無いんだよな。



「ちょっとアタシにも貸してっ!魔力ってさ、スキルを使ったと


 カラン、と杖が床に落ち、話途中で唯も消えてしまった。


「ママっ!?」


 あっけに取られる俺と賢者様。唯にはあって、賢者様には無いもの。なんかのクイズみたいだが。

 


「若さか?」


 

 ついうっかり心の声が言葉に出てしまったようだ。



 危なっ!!飛んでくる杖をキャッチした。

 賢者様、杖を投げないでくださいよ。

 

「‥‥魔力の発動って、いまいちわからないものだなぁ」


 

 俺は、人の気配が全くない、しかし見覚えのある建物内にたたずんでいた。

 


 

「ここって、日本にいたときに通院していた病院だよな〜」

 



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