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第3話 異世界の旅も大変だぜっ!! 3

 初めての異世界に胸躍らせて外に出たチー太郎だが、思っていたものとは全然違う風景に若干拍子抜けしていた。


「うわ~、何もないじゃんか」


 チー太郎の目の前にあるのは見渡す限りの草原にところどころ木がぽつんぽつんと立っているだけだった。生前にテレビ番組などで見たことがある、いわゆるサバンナというものだろう。見る人が見ればその雄大な風景に人生観が変わったりするんだろうが、チー太郎は変わるほどの人生経験も積んでいないからただただつまらなかった。


「異世界って言ってもやっぱりチーターじゃあこんな場所で暮らすしかないのか」


 せっかく異世界転生したのにこのままじゃただの野生動物としての生活が待っていると思うとがっかりだ。チート能力を使って大冒険をするのが夢だったのに猫のチーターではそれも叶いそうにない。


「はあ、どうにかならないかなぁ……。 そういえば母ちゃんは父ちゃんが旅に出たって言ってたけどチーターが旅ってなんだ? 異世界だからチーターの生態も違うのかな?」


 悩んでいたチー太郎は母親の言葉を思い出し父親のチーターらしからぬ行動を疑問に思う。もともとチーターについて詳しいわけではないが考えてみると違和感を感じる。


 自分がいま暮らしている巣も盛った土に横穴を開けたものだが、そんなもの生前にチーターを扱ったテレビ番組などでは見たことはない。母親も博士や大臣などチーターとは無縁そうな言葉を知っていた。


 自分の知っているチーターと異世界のチーターの違いを考えていると近くの茂みが揺れる。


「なんだ? なにかいるのか?」


 考えるのをいったん止めて茂みを見る。すると揺れが大きくなり動物が飛び出してきた。


「うわっ! てっ、なんだウサギか? 驚かすなよ~」


 飛び出してきたのはウサギだった。ウサギといっても子供のチー太郎と比べるとかなりの大きさだ。人間だったころなら片手で掴みあげられそうだが今のチー太郎より一回りは大きい。


 ウサギはチー太郎を見るがすぐにそっぽを向いて草を食べだす。チーターといっても自分より小さな子供なんて敵ではないといった様子だ。


「なあ! 俺はチー太郎! お前はなんていうんだ!」


 チー太郎は異世界で初めて家族以外の動物に出会って少々興奮気味に話しかける。しかし、ウサギは何の反応もなく草を食べ続ける。


「おーい! 聞こえてるんだろ! 返事しろよ!」


 ウサギの態度にイラつき若干声を荒げるチー太郎だが、それでもウサギは何の反応もしない。


「ちぇっ、会話ができるのはおんなじ動物だけかよ」


 母親との流暢な会話からアニメのように動物同士なら自由に会話できるかと思ったがそうでもないようだ。


 何もかも期待通りにならない異世界にチー太郎もがっかりする。何の収穫もないがそろそろ帰ろうかと思ったときウサギの耳がピンっと立つときょろきょろと周囲を見始める。


「おい、どうしたんだ? てっ、うわっ!」


 ウサギの態度の変化が気になり話しかけるが、ウサギは返事をせず無視し続けると突然チー太郎に向かって走り始める。


 チー太郎は驚き頭を抱えて縮こまるがウサギはチー太郎のことは眼中になく飛び越えて走り去っていく。


「驚いた~、なんだよいきなり」


 突然のウサギの行動に驚きチー太郎は走り去っていくウサギを眺め続ける事しかできない。


 しばらくそのまま呆然としているとチー太郎に後ろから影がかかる。今度は何だと振り向くとそこには1頭の動物がチー太郎を見下ろしていた。


 チー太郎は少し驚くが自分を見下ろしてくる動物を観察する。その動物は成獣のチーターよりもやや大きいくらいの体躯で犬とも猫ともつかない顔立ち、そして体毛にはチーターよりも薄いがまだら模様がある。どんな動物かいまいち思い出せないがさっきのウサギより自分に近い動物なら話が通じるかもしれない。チー太郎は今度こそはと話しかける。


「なあおじさん! いや、おばさん? まあどっちでもいいや。俺チー太郎ていうんだ。よろしくな。」


 チー太郎が元気よく話しかけるとウサギとは違いその動物はこちらをまじまじと見つめてくる。明らかにこちらを意識している。


 チー太郎が返事を待っているとその動物が口を開く。やっと会話ができると少しうれしくなるが言葉は発さず口を開けたまま顔をこちらに近づけてくる。


 何をしているんだろうと不思議に思っているチー太郎だが、その動物の顔が目の前に来たとき頭の中が一瞬で恐怖に埋め尽くされる。


「うっ、うわっ!!」


 チー太郎は恐怖でその場を飛び退くと直後にがちんっと硬いものがぶつかり合う音がする。見るとさっきまでチー太郎がいた位置でその動物が口を閉じている。


 チー太郎は目の前の動物の行動も自分が感じた恐怖もうまく理解できず混乱しているとその動物は顔を上げイラついたような表情でまた見下ろしてくる。そして口元からはぽたぽたとよだれを垂らしている。


「こいつ……、俺を食べようとしている。」


 チー太郎は恐怖の正体に気付くとこの動物の名前も思い出す。それは生前に見たテレビ番組でチーターが狩った獲物を横取りしたり、チーターの親子を襲ったりしていた。


「こいつハイエナじゃん!」


 ハイエナは慌てるチー太郎を見下ろしながらゆっくりと近づいてくる。


「うっ、うわー!!」


 チー太郎はせっかく転生したニ度目の命の危機に転がるように逃げだした。

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