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第2話 冒険の始まりだぜっ!! 3

 戦いの凄惨な決着に広場は静まり返っていた。


「ハハハッ! 私に楯突くからこうなるのだ。 私の邪魔をするものは皆死ねばいい!」


 まるで自身を鼓舞するようにブラックレイヴンは叫ぶと、チー太郎達がいる影人形の群れを指差し村人達に語りかける。


「お前達の負けだ。 あのゴリラ女も死んだ。 次はお前達の番だ」


 それを聞き村人達は戦慄する。カリファが奮戦していたときはこの状況の脱出を期待できた。しかし、今はそのカリファは影人形の群れに囲まれ、先程まで響いていた痛ましい暴力の音がその末路を確信させる。


「待ってくれっ! もう抵抗しない、わしの命ならくれてやるから村人達には手を出さないでくれっ!」


 村長がブラックレイヴンの脚にしがみつき自身の身を挺して村人達を守ろうとする。


「離せジジイッ! てめえの命なんかいるかよ」


 ブラックレイヴンは村長を蹴り飛ばすと村人達に向き直る。


「私が欲しいのは猫神の巫女、そして私を怒らせた見せしめとして村人の命をいただく。お前はそこで指を咥えて見ておけ。」


 もはや村長は涙を流し蹲ることしかできず、村人達は抵抗するが影人形達に押し込まれる。その光景を見てブラックレイヴンは満足したように大きく息を吐くと大きな声で笑うように叫ぶ。


「影人形共、村人を殺せっ!」


 全て影人形達が村人達に向き、攻撃しようと歩き始める。村人達も最後の抵抗をと女子供を奥に隠し男達が前に出る。両者が衝突しようとしたその時、チー太郎達を取り囲んでいた影人形達が突然光に包まれた。





 突然光が発生し影人形達が飲み込まれていく。


「なんだ、あの光はっ!?」


 ブラックレイヴンはあまりの眩しさに仮面の上から顔を手で覆う。村人達も光を直視できない。光に飲み込まれていない影人形達も動きを止めている。


 光は数十体の影人形を飲み込むと消滅させ収束する。その中心には1頭のチーター立っていた。


「俺っ! 復活だぜっ!!」


 そこには影人形に地面に叩き付けられ瀕死になり、その後の攻撃で確実に死んだであろうチー太郎の姿があった。その場の人間が事態を理解できず呆然と眺めているとチー太郎がブラックレイヴンを見つけ、驚いた様子で話し始める。


「あーっ! 魔王の手下の仮面野郎っ、お前まだいたのか!? カリファは何やってんだ?」


 チー太郎はカリファを探しあたりを見回すが見つからない。


「なんであのチーターが生きてんだ? 確実に死んでるはずだろ。まさかあの女もっ!?」


 ブラックレイヴンは何故チー太郎が復活したのかも、光の原因もわからなかった。しかし同じように自分を蹴り飛ばし、手こずらせた女も生きてるのではと、ヒヤヒヤしながら見るとその必要がないことがわかり笑いが込み上げてくる。


「おいチーター、どこを探してやがる? ゴリラ女ならそこにいるじゃねぇか」


 ブラックレイヴンはチー太郎の足元を指差す。チー太郎もそれに気付き足元を見る。


 チーターになり視点から低くなってから人を探すときは常に見上げていたから気付かなかった。そこには、血溜まりが広がり中心には人のような何かが転がっていた。


 それはなんとか人間に見えた。その全身は血で真っ赤に染まり、四肢はぐしゃぐしゃに折れ曲がっている。そして顔は腫れたり凹んだりして見る影も無くなっているが、その人間と付き合いの長いチー太郎にはそれが誰なのかわかった。


「カリファ……?」


 生気を感じさせない双眸が見つめてくる。


「あぁ、あああああぁっ!」


 それがカリファだと分かるとチー太郎は悲痛な叫びをあげると涙を流し慟哭する。


「なんで……? なんでだよ。カリファは強いのになんでこんな事に・・・、ああああぁっ!」


 チー太郎が叫んでもカリファはその声に応えない。


「俺・・・、せっかく復活したのに、カリファとなら魔王だって倒せるって、今度こそ俺のかっこいいところ見せてやるって思ってたのに・・・、うっうっうわああぁっ!」


 チー太郎の鳴き声が広場に響きわたると村人達の中からも咽び泣く声が聞こえる。それを見てブラックレイヴンは得意げに語り出す。


「はっはっは! おいチーター、どうやって生き延びたかは知らねえが残念だったな。その女は私を怒らせた当然の報いを受けただけだ。まあ、安心しろよ。すぐにお前もあの世に送ってやるからよ」


 チー太郎はよほど悲しんでいるのか全く反応を示さず泣き続ける。


「おい、聞いてんのかっ! クソチーター……あん?」


 無視されていることに怒りをあらわにしそうになるブラックレイヴンだったが、チー太郎に起こっている変化に気付く。


 チーターの体にある斑点、それがいくつか光っている。その斑点が動き出し、重なり合うと形を変えてある模様を作り出す。


「なんだあれは? あの模様は? いや、あの紋章はまさか!?」


 号泣するチー太郎の体に吸い込まれるように風が吹き、周囲を渦巻いている。ブラックレイヴンはその光景に紋章の正体に気付く。


「あれは猫神の紋章、まさかあのチーターが猫神の加護をっ!?」


 自分と崇拝する魔王の天敵である猫神の加護を受けた眷属を発見したことに焦りつつも、自身のやるべきこと全うするため叫ぶ。


「影人形共っ! 村人なんてどうでもいい、あのチーターを殺せぇっ!」


 主の命令にすべての影人形達は村人達の包囲を解き、チー太郎に向かって歩き出す。村人達もチー太郎に起こっている変化に戸惑いただ見つめんことしかできない。


 影人形達がチー太郎を取り囲むと腕を振り上げ攻撃体制に入る。 未だチー太郎はカリファの傍らで頭を下げ泣いている。


「殺れぇっ!」


 絶好のチャンスにブラックレイヴンは声を張り上げる。それを号令に一斉に腕が振り下ろされる。今度こそトドメを刺せると思ったその瞬間、チー太郎は頭を上げるとその体が一瞬霞み姿が消える。


「なっ!」


 ブラックレイヴンは驚くがチー太郎はまたすぐに姿を現す。目の錯覚かと思ったがその直後に取り囲んでいた影人形達が倒れる。影人形達は腕を切断されているものや、肩を大きく抉られているもの、体をズタズタに切り刻まれているものなど、今までにない損傷を受けている。その中心でチー太郎は血溜まりに沈むカリファの傍らでその仇を睨みつけていた。


チー太郎はカリファの仇に対峙しながらも自分の体に起こっている変化に驚く。周囲に常に風を感じ、その風が力を入れた方向に追い風のよう体を押してくる。立っているだけでまるで体が浮いてしまいそうなほど軽くただでさえ素早いチーターのスピードが目にもとまらぬ速さにまで上昇しているし、風を纏った爪や牙の攻撃は影人形を一撃で倒せるほど強化されている。


 チー太郎の変貌ぶりに驚きを隠せない様子のブラックレイヴンだが、今の状況を確認するかのように問いかける。


「おい、その紋章と力はまさか猫神の加護か?」


「そうだ。お前たちを倒すために猫神がくれたんだ。覚悟しろっ!」


 チー太郎の猫神との会話と与えられて使命を思い出す。


「くそっ、魔王様が復活したように仇なす猫神の加護まで復活しようとは」


 自身の予想が当たってしまいブラックレイヴンは悪態をつく。


「お前がカリファをこんな目に……、絶対に許さないぞ」


 チー太郎は大きく身を沈め戦闘態勢をとる。


「おいおい、最初は私も殺すつもりはなかったんだ。その女が邪魔をするから仕方なく対処したまでだ。そもそも私は……」


「うるさいっ!」


 攻撃を牽制するように語りだすブラックレイヴンだったが、その態度にチー太郎は怒りをあらわに言葉を遮る。


「お前が村を襲わなければこんなことにはならなかったんだ。お前みたいな悪人は俺がぶっ倒してやるっ!」 


 チー太郎が啖呵を切ると、ブラックレイヴンは黙って俯いてしまうがその肩が徐々に震えだす。その震えが体全体に伝播すると顔を上げ、声が上ずるほどに叫ぶ。


「ならっ、やってみろよっ!」


 怒り心頭の様子に対抗するようにチー太郎もさらに怒りを強めるが違和感を感じる。自分の感情とは別の何かが心の中で引っかかっている。


(なんだ? あいつはカリファを殺した悪い奴なのになんでかわいそうに感じるんだ? なんであいつの声が悲しそうなんだ?)


 その違和感は怒りに比べれば遥かに小さいが確かにある感情にモヤモヤする。


 チー太郎が戸惑っているとブラックレイヴンの左腕の腕輪が強く光りだす。その光に呼応するように足下から大量の影人形が湧き出す。その数は今までの比ではなくあっという間に100を超え、なお増え続けている。


「お前が猫神の加護を受けていようがこれだけの数の影人形を倒せるか?」


 その光景に戸惑いを振り払い待ち構える。


「いけっ! 今度こそあのチーターを殺せっ!」


 その命令と共に影人形達が津波のように押し寄せてくる。チー太郎は迎え撃つため地を蹴った。




 戦いは一進一退で続くが徐々にチー太郎は押されていく。向かってくる影人形達の攻撃を躱し、反撃して倒すが敵が増え続けていく以上このままでではジリ貧だ。


「おいおいどうした? 私を倒すんじゃなかったのか? 猫神の加護も大したことないな」


 影人形達の奥に隠れて見えないが優勢な戦局にブラックレイヴンの機嫌の良い声が聞こえる。


「どうすればいいんだ? このままじゃ」


 焦るチー太郎だったが、後ろから声をかけられる。


「チー太郎っ、ヤツの腕輪を狙うんじゃ。あれが影人形を生み出しておる」


「村長っ! まだいたのか」


 すっかり忘れていた村長の助言に影人形を生み出す男の姿を思い出す。確かに左腕の腕輪が光っていた。あれを破壊すれば影人形達を一網打尽に出来るかもしれない。しかし、影人形が邪魔で男の元に辿り着くのは困難だ。どうすればいいか考えていると。


「ジジイッ! 余計なことを言うな、お前らも死ねぇ!」


 男の声が聞こえると影人形の一部が村長と村人達に向かっていく。このままではみんなやられてしまうと村人達の元に先回りして先頭の影人形を倒す。次の敵に目を向けるとチー太郎はあることに気付く。


(もしかして、うまく誘導できれば?)


 チー太郎は思いついた作戦を実行する。


「おいっ! 仮面野郎っ! まだ俺との戦いの最中だろ。ビビってんのか? この臆病者っ!」


 チー太郎は出来る限り挑発すると男の声が聞こえてくる。


「なんだとっ!? 影人形共っ! やはりあのチーターを狙え!」


 その声でまた影人形がチー太郎に向かってくる。作戦通りにことが運び、戦いを再開する。


 しかし、今度は少し戦うとチー太郎はすぐに踵を返して広場の奥まで走る。影人形達も追ってくるとまた男の声が聞こえてくる。


「ハハハッ! 威勢のいいのは口だけか? このままトドメを刺してやる」


 先程までよりも遠い距離から声が聞こえるとその方向を見る。そこには影人形達の隙間から男の姿が見える。


 影人形は命令には従うもののその動きに規則性はなくバラバラに動く、距離が近いと群れが渋滞してすり抜ける隙間はないが距離を取れば密度が下がり隙間が生まれる。


(よし、今だ!)


 チー太郎は全力で地を蹴ると影人形達を躱しながら一瞬で男の前まで駆け抜ける。


「なにっ!?」


 驚愕する男の左腕には腕輪が光っている。チー太郎は腕輪に向かって風を纏った爪を叩きつける。衝撃を受けた腕輪は一瞬強く光ると粉々に砕け散った。


「これで終わりだー!」


 チー太郎はさらに追撃に両脚の爪で男の体を切り裂くと大きな裂傷を負いながら男は吹き飛び地面に転がる。周囲を見ると影人形は溶けるように形を失い消えていく。


 戦いの決着に村人達も集まってくる。


「チー太郎ありがとう、助かったよ。まさかお前が猫神様の加護を受けるとは」


 村長がチー太郎に話しかける。


「村長、俺……」


 しかし、チー太郎も今の状況をうまく説明できず言葉に詰まる。


「今はよい、それよりも今は怪我をしているものの手当が先決じゃ。お前も酷い怪我しておる」


「えっ?」


 村長の言葉に自分の体を見ると確かにボロボロだが痛みは感じない。不思議に思っているといきなり全身から力が抜けて立っていられなくなる。脚を見ると完全に折れてしまっている。


「チー太郎っ、大丈夫か?」


 村長が心配してくるが折れた自分の脚を見て思い出す。


「そうだ、カリファはっ!?」


 カリファが倒れている方を見ると村人達が集まって泣いてる。チー太郎も向かおうした時、大声で呼ばれる。


「おいクソチーターッ!」


 声の方を見ると仮面の男が立ち上がっている。傷口から大量の血を流し、息も絶え絶えな様子だ。


「お前、まだやるかっ」


 チー太郎も立ちあがろうとするが力が入らない。


「お前も限界の様だな、はぁはぁ…… 私をここまで追い詰めるとは許さんぞ。次にあった時は覚悟しておけっ!」


 仮面の男がそう言うと足が影に沈んでいく。


「私こそが魔王様の右腕にして、はぁはぁ…… 闇の公爵『ブラックレイヴン』だ。覚えておけっ!」


 そう吐き捨てると男は完全に影に沈みいなくなった。


 チー太郎はそれを確認すると這ってカリファの元に向かう。さっきと違い痛みが戻っているが気にせず一心不乱に進む。辿り着くとカリファの痛々しい姿に涙が出る。


「カリファ…… 俺、勝ったよ。うぅ……」


 話しかけてもカリファは答えることはない。


「カリファ……、カリファ……」


 チー太郎は耐え切れない痛みと悲しみの中意識を失った。


‐‐‐‐‐‐


 チー太郎は村の民家の一室で目を覚ます。そして窓から差し込む日の光を浴びて大きくあくびと伸びをすると窓から身を乗り出して村の様子を見る。村長の家は再建され、村人たちもいつも通りの日常を取り戻している。


 あの戦いから2か月の時がたった。チー太郎は怪我の療養のために今は村で生活している。


 最近ようやく足も治り歩けるまでには回復した。医者が言うにはあともう3か月程度で怪我は完治するらしい。猫神からの使命を受けた身とはいえ、動けないのでは使命の果たしようがない。そう自分に言い聞かせ歯がゆいながらも惰眠をむさぼる毎日を送っている。


 魔王についてはあれから何の音沙汰もない。魔王の右腕を名乗るブラックレイヴンの襲撃以降、村に魔王からの攻撃はないし、近隣の村や行商人から情報を集めても何の成果も得られていない。魔王を探すにもこんな片田舎では限界がある。


 やはりこちらから探しに旅に出るしかないかと思っていると隣の部屋が少々騒がしくなる。隣人の声が聞こえもう起きているのがわかるとチー太郎は隣の部屋に向かう。今日はいつにも増して騒がしい部屋の間仕切りの布をくぐると声の主がいる。


「あ~お肉おいし~!」


「カリファ、ちゃんと噛んで食べてね」


 ベッドの上で体を起こしたカリファが大きな口を開けて傍らにいる村の娘に食事を口に運んでもらっている。カリファの全身は包帯に巻かれ、特に両腕両足は添え木で固定されて身動きが取れず、村の娘達が毎日交代で甲斐甲斐しく身の回りの世話をしている。男なら天国のような状態だけに村の男達からの嫉妬が増しそうである。


「おはようカリファ、何騒いでんだ?」


「あっ、チー太郎おはよう。今日からお肉食べられるのよ! もうおかゆだけの食事はこりごりだわ」


 しばらくの間、味気ない食事ばかりだったカリファは喜んで食事を続ける。


「へー、もうそんなに回復したのか? すごいな」


 一度死んでから復活したチー太郎が言えた立場ではないが、あの状態から生きているだけでも奇跡のように思える。チー太郎は戦いの数日後に目覚めたが、隣でミイラのように包帯に巻かれているカリファを見つけた時は驚いたし、生きてることを知ったときは号泣して喜んだものだ。


「ええ、お医者様が言うには来週には手足の添え木も外していいそうよ。今まで掛かったことなかったけどお医者さまってすごいわね。私お医者様と結婚しようかしら」


「それは無理だぞ」


 チー太郎は即座に否定する。村の医者は若くて独身ではあるが死んでいて当然の状態でも生きてる上、驚異的な速度で回復していくカリファを物の怪でも見るような目で見ている。本当にカリファはこの村の男とは縁がないようだ。


「えー、なんでよー」


 ブー垂れるが笑ってごまかす。


「まあいいわ。それに先に魔王を倒さないといけないしね」


 カリファは今後のことについて話題を変えるが、チー太郎は眉をひそめる。


「なあカリファ、本当に魔王退治についてくるのか?」


「なに言ってんのよ。私は猫神様の巫女よ! 私には魔王を倒す使命があるの」


 カリファは勇ましく語るが、チー太郎の反応は良くない。


「使命を受けたのは俺だ」


 チー太郎は体にある猫神の紋章を見せる。


「猫神様の加護のこと?」


「ああ、俺はこの力があったから復活できたし魔王の手下も倒せた。でもカリファは……」


 歯切れの悪い答えにカリファは眉間にしわを寄せる。


「何が言いたいのよ?」


 怒気を帯びた声で問い詰める。チー太郎は俯き、目を合わせず答える。


「カリファは特別な力は持ってないじゃないか。確かにカリファは強いし、頑丈だけど。また今回みたいなことになったら次は死んじゃうかもしれない。俺そんなの嫌だよ…… だからカリファは……」


 チー太郎はカリファを心配する一心で同行を断ろうとしていた。使命を受けて復活する前は頼もしく感じていたが復活後に見たカリファの惨状を思い出すと怖くてたまらない。また同じようなことになるかもしれないなら1頭で戦ったほうがましだ。


 そう思い話していると気配を感じ顔をあげる。すると目の前には包帯の塊が頭めがけて振り下ろされる。チー太郎は咄嗟に後ろに飛び退き躱すと自分を攻撃した相手を見る。そこには涙で顔をくしゃくしゃにしたカリファがいた。


「ふざけんじゃないわよっ! 私が死ぬのが怖い? あの時死んだのはあんたじゃない! 私がどれだけ怖かったと思ってるの? どれだけ悲しかったと思ってるの?」


 カリファはベッドから落ちそうな勢いでチー太郎に詰め寄ろうとする。世話をしていた娘も制止しようとするが重傷を負っていてもカリファには力負けするようで諦めて人を呼びに部屋から出ていく。


「あんたを1頭で行かせて、もし死んじゃったらって思うと私だって怖いのよ!」


「カリファ……」


 チー太郎は一瞬呆然とするが、すぐに自分の言葉に後悔する。カリファが傷付くところを見たくないのは本心だ。しかしそれは思いやりよりも嫌なことから逃げようとする自分勝手さから来てると気づく。傷付けないどころか、自分が傷付きたくないあまりに傷付けてしまった。その不甲斐なさに涙が出てくる。


「カリファ……ごめん……ごめんよぉ」


 大粒の涙を流しながら謝るチー太郎の頭をカリファは包帯越しの手で撫でる。


「でもカリファ? 俺やっぱりカリファの傷付くとこ見たくないよ」


 チー太郎はまだ整理のつかない気持ちを伝えるとカリファは少し考えると微笑んで答える。


「じゃああんたが私を守りなさいよ。私もあんたを守るから。それでいいでしょ?」


 それを聞くとチー太郎はたまらなくなりカリファに抱き着く。


「カリファッ! 俺守るよ! 頑張ってカリファを守るよ!」


「ちょっと、痛いわよチー太郎……。ええ、頑張りましょ」


 カリファも涙を浮かべやさしく抱きしめる。そして1頭と1人はわんわんと泣いた。


 そして娘が呼んできた医者にまとめてみっちり怒られたのだった。




 それから3か月が経ち、怪我の治療とリハビリを終えたチー太郎達は魔王退治のための旅立ちの日を迎えた。旅に必要な食糧や物資、お金は村長や村人の協力で準備はできている。村の入り口には見送るために村人たちが集まっていた。


「カリファ、チー太郎、お前たちに世界の命運がかかっておる頑張るんじゃよ」


 村長が代表して激励する。


「まかせてよ、猫神様の巫女として魔王は必ず倒すわ!」


「それは俺のセリフだぜ! 俺も必ず使命を全うして見せる!」


 チー太郎達はみんなの前で意気込むと手を振り村を出る。村人たちも見えなくなるまで手を振って見送った。


「チー太郎、頑張ろうね!」


 カリファは隣を歩くチー太郎に微笑む。


「おうっ!」


 チー太郎は力強く答えると走り出す。


 これからどれほどの困難や危険が待っているかわからない。望んだものとは違う形の転生になってしまったが、悪くないどころか最高のチーター生だ。今はこの世界と人々を守りたいと思える。


 チー太郎は空に飛びあがるように高く跳躍すると大きな声で叫ぶ。


「さあ! 冒険の始まりだぜっ!!」


 チー太郎の異世界を駆け抜ける大冒険の旅が今、始まった。

お読みいただきありがとうございます。

時間がかかってしまいましたがやっと1話書き終わりました。

次話からはもっとスムーズに書いていけるよう頑張っていきたいと思います。

ご意見やご感想などありましたら送ってくださるとうれしいです。

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