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第4話 ブコの森の中で

 ラントリールでの惨劇の翌日


「ラルフ、もう行くのね」


「うん、僕行ってくるよ」


「無事に帰ってくるのよ。母さん達待っているから」


 そう言って母さんは僕を強く抱きしめてくれた。

心の中にあった小さな不安が優しく消えていった。

家を出た後、僕は出発する前にアレン兄さんの家でもある武器屋に行くことにした。


「ジャックおじさんおはよう」


「あぁラルフおはよう。アレンならもうそろそろ準備が終わるはずだ」


「うん、わかった。それまでの間武器を見させてもらってもいいかな? 僕はアレン兄さんやロザリーさんみたいに特別なことは出来ないけど、せめて自分の身は守りたくて。あまり高いものは買えないけどね……」


「もちろんさ、好きなだけ見ていくと良い…… といっても昨日強い武器や金になりそうな武器はほとんど盗まれてしまったから良い武器どころか安い武器も何も無いんだが…… あっ! そういえばあれがあったか!」


 そう言っておじさんはカウンターの後ろに置いてある宝箱を鍵で開け、中から綺麗な短剣を取り出した。


「この武器は『護りの短剣』と呼ばれているものでな、俺の爺さんのそのまた爺さんだかが腕利きの鍛冶屋で、ドワーフ族の誰だかから教わった方法を参考に自分の護身用に作ったものなんだ。この宝箱だけは俺の持っている鍵でないと開けることは出来ないから、あいつらも手出しできなかったんだろう」


「そんな大事なものを僕がもらっていいの?」


「ああもちろんだ。 このサイズならラルフでも簡単に扱うことが出来るだろうし、この短剣は元々護身用として作られたものだから、きっとお前さんの役に立てるはずだ。特別な力は無いかもしれないが、丈夫な品であることは武器屋の俺が保証する」


「ありがとう。とても心強いよ!」


 ジャックおじさんから貰った護りの短剣を手にとってみると、不思議なくらい手に馴染んだ。


「ところでお前さんとこの親父さんと妹はどうした?  昨日の集まりにも顔を出してなかったみたいだが」


「父さんとアンナは昨日集会場で皆が集まるよりも早い時間に、畑で採れた野菜を遠くの村に届けるために出かけたみたいなんだ」


「おお、そうだったのか。二人が帰ってきたら村のこの状況に驚くだろうな」


「そうだよね……。こんなことになるなんて想像できないよね」


 僕とおじさんが話していると、後ろの方からアレン兄さんが顔を出した。

おじさんに別れを告げ、その後ロザリーさんと合流し三人で村の入り口までやってくると、村の皆が見送りに集まってきてくれた。


「ではアレン、ロザリー、ラルフよ。お主らには大変な役割を任せる形になってしまって申し訳ない。お主らが帰ってくるまでの間、村を元通りにするため怪我をしたものの手当と荒らされた家や集会場の片付けをわしらで勧めておくからのぉ…… あぁそうじゃラルフ、お主にこれを渡しておこう」


 村長から手招きされ近くに行くと、僕の首にコウイチが放り投げたペンダントがかけられた。


「村長、これって?」


「実はこのペンダントはわしとブンちゃんがかつて一緒に冒険した時、旅先で手に入れた思い出の品なんじゃ。見た目は古臭いかもしれんが、これを身に着けていればきっとブンちゃんがお前さんを守ってくれるはずじゃ。もちろんわしの気持ちもたくさん込めておいたからのぉ」


「そんな大事なものを……。村長ありがとう」


 村の皆と朝の鳥の鳴き声に見送られながら、僕達はブコの村に向けて出発した。



 ブコの村に行くには村を出てすぐのところにある、ブコの森を抜けていくのが一番近かった。

この森はいつも草木が生い茂っているものの、村に行くまでの道のりは適度に整備されていて、空気が澄んでいて、穏やかだった。それは魔族の中でも自然とともに暮らすことに長けているゴブリン族の皆が生活の一部としている森だからこその光景だった。アレン兄さんを先頭に森を進んでいくと、進行方向の先に二つの人影が見えた。僕たちが恐る恐る近づいていくと、そこには見知った人物がいた。


「リン! 無事だったんだね!」


「……!? ラルフ? ラルフなの!? よかっ……た……」


 そこには体調が悪いと聞いていたリンがいた。僕が話しかけると返事はしたもののすぐにその場に倒れ込んでしまった。そんなリンを隣りにいた人が支えてくれた。


「友達に会えて安心したから一気に疲れが来たのかな? 体調が悪いのに無理させちゃったね」


「あなたは?」


「僕の名前はサクリだよ。君がリンが言っていたラルフだね? ということは他の二人もラントリールの村の人かな? リンを寝かせるからそしたら僕から事情を話すね」


 リンを近くの木陰にそっと寝かせた後、サクリさんが僕らの前にやってきた。

サクリさんの顔は僕ら人間の女性と同じで、背中には大きな翼が生えていた。

リンの体はところどころ傷ついていたので、ロザリーさんに治療をしてもらうことにした。


「改めまして、僕の名前はサクリ。見ての通りハーピィ族なんだけど、どうしてゴブリン族のリンと一緒にいたのか気になるよね?」


 サクリさんはここまでの経緯を話してくれた。彼女は各地を旅する中、休憩も兼ねてブコの村に滞在していたらしい。そこで勇者を名乗る三人組の襲撃にあい、なんとか逃げてきたということだった。僕らの村を襲ったコウイチたちがあの後すぐにブコの村にも行き、村を襲撃していた事実が僕にはとても恐ろしかった。


「まさか君たちの村も同じ目にあっていたなんて……。しかもそこにいたブコの村の人たちを殺すなんて……。村が襲われた時、僕も必死に抵抗したんだけど全く歯が立たなくて、リンのお父さんが最後の力を振り絞って僕に、リンを頼むって行ったんだよね。僕は飛ぶことが出来るし、リンくらいの子なら乗せて飛ぶことも出来るからここまで逃げてきたんだけど、逃げる途中で負った傷からどんどん痛みが広がって飛べなくなっていたから、君たちが来てくれなかったら本当に危なかったよ」


 サクリさんはロザリーさんの持ってきた薬草で傷口を抑えながら話してくれた。


「まさかこんなに早く私の薬草が役に立つなんてねぇ。リンの傷口にも薬草を塗ったし、特製の傷薬も飲ませたからもう安心だよ。あんたらだけでも生き残ってくれて本当に良かったよ」


 僕たちはリンが目を覚ました後、二人にこれからの予定を話した。二人はこれから行く宛も無いので僕らに同行すると言ってくれたので、森を抜け王都へ向かうことにした。


「ねぇラルフ。あたいブコの村最後の生き残りになっちゃった」


「うん……」


「ブコの皆はちゃんと天国に行けたかな?」


「もちろんだよ! 皆とってもいい人たちだったんだから間違いなく天国に行けたはずだよ!」


「そうだよね、皆天国で笑っているはずだよね」


「きっとリンのこと見守ってくれているはずだよ! あっそうだこれ、ブンさんとセンジュ村長の思い出のペンダントなんだって、村を出るときに村長から貰ったんだけど、リンにあげるよ」


「あたいはいいよ、ラルフが貰ったんだからラルフが持っていて……。でも一度だけ触らせてくれない?」


「もちろんいいよ」


「なんだか不思議だね、これに触れているとブン村長の優しい声が聞こえてくる気がするよ。村長達の話、最後に聞きたかったなぁ……」


「僕じゃ物足りないかもしれないけど、村長達の話を代わりに聞かせてあげるよ」


「ありがとう、ラルフ」


 僕たちはペンダントを握りしめ、思いっきり空を見上げた。

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