第3話 旅立ちは突然に
僕たちは三人に言われたように、村中の人たちを集会場だった場所の前ある広場に集めた。
本当は抵抗して追い出したいところだったけど、奴らの強さを目の当たりにした後だと、誰も反抗する気にはなれなかった。
集会場にいなかった人たちは当然のように抵抗したけど、全員凄い返り討ちにあい、誰も抵抗する人はいなくなってしまった。
皆が広場に集まると、三人が品定めするように一通り僕らを見回し始めた。
「どうだケンジ? お前の気に入りそうなやつはいるのか?」
「全体的に金髪だったりちょっと外国人っぽい娘が多いからとてもいいねぇ。
よし! 僕この娘がいい!」
ケンジはそう言うと、僕の妹のアンナと一番仲が良くて、とても心優しいセイラを指さした。
「えっ!? どういうことなの!?」
急に指を指され、驚いた様子のセイラのことを特に気に留める様子もなく、
ケンジは無理やり彼女を連れて行こうとした。
「セイラをどうする気なの!? その手を離しなさい!」
「へぇセイラちゃんって言うんだね! 可愛い名前! それにしてもおばさん、何僕に口答えしてるの? モブは黙っててくれない? セイラちゃんはこれから僕と一緒に暮らすんだよ!」
連れて行かれるセイラを止めようとしたセイラのお母さんの手を、ケンジは強く振り払いコウイチ達の元へ戻って行った。
「ケンジばっかりずるい! 私も異世界人の奴隷欲しい!」
今度はマヤがそう言いながら品定めを始め、今度は僕やリンといつも一緒に遊んでいた、元気で明るいエリックを連れて行ってしまった。
友達が攫われていくのを黙ってみていることしか出来ない自分自信の無力さが腹立たしく悲しかった。
村の大人たちの中にももう抵抗できる力が残っている人は誰もいなかった。
「こんなド田舎の始まりの村的なところなのに、なかなか良い美少年がいるなんて! ラッキーだわ! やっぱり異世界といえば奴隷は定番よね。今までたくさん異世界系の話を見てきたけど、なんで皆奴隷を買わないのか疑問だったのよね」
「そうそう! それにチート能力があれば簡単にお金だって稼げるんだし、なんでやらないのか不思議だよね。まぁ僕たちは無料で奴隷を手に入れちゃったんだけどね。こんな自由度が高いんだからやれること全部やって楽しまないともったいないでしょ!」
「お前らガキの世話は大変なんだからちゃんと自分たちでしろよな? 俺は手伝わないぞ?」
「大丈夫だよ! ちゃんとご飯もあげるし、ちゃんと可愛がるよ」
「なら良いけどよぉ、変なことしないようにちゃんと鎖かなんかで繋いでおけよー。あーなんか俺も一匹奴隷飼いたくなってきたな」
彼らはセイラやエリックをまるで道具のように扱う気でいるようだった。
奴隷というのはさっき聞いた昔話で初めて聞いた言葉で、とっくの昔に無くなった制度なのに、なぜそれがまだあるかのように話しているんだろう。それに異世界異世界と言っているけど、彼らはここではない別の世界から来たのだろうか。
昔話に出てきた恐ろしい怪物達というのはこういう奴らだったのかもしれない、きっととても恐ろしい世界なんだろう。
「後は民家の中全部を探索して次の場所に向けて出発するか!」
彼らは村中の家を物色した後、セイラとエリックを連れて、まるで何事もなかったかのようにあっさりと村を出て行ってしまった。
僕らは彼らの圧倒的な力の前にどうすることも出来ず、鳥の鳴き声と木々のざわめきだけが、辺りを支配していた。
そんな中皆の前に歩み出た村長が、コホンと咳払いをすると口を開いた。
「こんなことになってしまうなんて今朝は想像も出来なかった。
まさかブンちゃんやブコの皆が無残に殺され集会場とともに焼かれ、更にセイラとエリックが連れ去られてしまうとは…… これを悪夢と言わずして何というのか……。
この世界全体に、何か恐ろしい事が起きようとしているかもしれん」
「村長! あいつら一体何者なんだ!?」
「こんな酷いことが起こるなんて……! ブコの村の皆を殺して集会場ごと燃やすなんて……!」
「また奴らが来るかと思うと、もう安心して眠ることなんて出来ない……」
村長の言葉を皮切りに皆が口を開き始めた。
「わしにも奴らが何者なのか皆目見当がつかない。勇者と名乗っておったが、あのような下賤なやからが勇者であるはずがない! まずは今日起きたことを国王様に報告し、これ以上被害が出ないうちに動いてもらうことが大事じゃ。魔法を扱う者もおったし、わしらのような村人には難しいかもしれないが、国王様ならなんとかしてくれるかもしれないからのぉ。それと王都に行く中にはブコの村があるから、そこで今日起きたことを村の皆にも話す必要があるのぉ」
村長は気丈に振る舞っていたけど、目の前で親友を殺されたショックを隠しきれない様子だった。
村の皆も今までにない恐ろしい経験をした後で、すっかり気落ちしていた。
「村長! その役目、俺に任せてくれないか? あんな奴らを野放しにしていたくなくていても立ってもいられないんだ!」
「私も一緒に行くよ! 王都までの道は普段はなんてことない道のりだけど、あんな連中が出てきた以上、これから何が起こるかわからないからね、薬屋は必要でしょ?」
皆が意気消沈している中、いつも僕たちと遊んでくれる、村一番の力自慢で武器屋の息子のアレン兄さんと、おばさんって呼ぶと怒るけど、普段は優しい薬屋のロザリーさんが声を上げた。
「二人ともありがとう。じゃが怪我をしている者もいて治療が必要じゃから……」
「それは私の娘がいるから大丈夫だよ! 薬に関することは一通り教えてあるからね」
「うむ、わかった。他に誰かいるかのぉ?」
「……僕も一緒に行きたいです!」
さっきまで僕を支配していた恐怖心が、二人の勇気ある発言によって和らぎ、気づくと今の気持ちを言葉に出していた。
「!? ラルフ、お主が声をあげるとは……。これは決して遊びではないんじゃぞ? それでも良いのか?」
「……うん、僕もじっとしていられないし、ブコの村にいるリンのこともとても心配なんだ。
二人や他の人に任せることも出来るけど、あの時集会場にいた中でもほとんど怪我していなくて、最後までブンさんとゴンさんの近くにいた僕からブコの村の皆に伝えたいんだ。……母さんもいいよね?」
「本音を言うとあんなことがあった後だからとても心配だけど……。無理しているわけじゃなくて、あなた自身が決めたことなら私はこれ以上何も言わないわ。アレン君、ロザリーさんこの子の事お願いできるかしら?」
母さんの問いかけに二人は静かに頷いてくれた。
「ラルフとその気持ちごと俺が守って送り届けるから、一緒に行こう!」
「あんたいつの間に大人になったんだね……。」
「ではアレン、ロザリー、ラルフの三人にブコ村と王都への報告を任せるとしよう。
明日までにわしの方で今回の一連の出来事を紙にまとめておくから、それを持っていきなさい。
わしのサインがあるから検問所や王都でもそれを見せれば良いはずじゃ。
気が休まらんかもしれんが、明日に備え今日はゆっくり休みんじゃぞ」
僕たちは家に帰り明日に向けて休むことにした。