第18話 新たな仲間
オルバ達にペンダントをかけた後、皆でオルバのアジトへ入ることにした。寝ている最中にペンダントをかけたベラとクラヤも目を覚ましたときには正気を取り戻していた。一旦落ち着いた後、オルバ達に今までの経緯を話した。
「まさか魔力が暴走していたなんてな……。なりふり構わず俺達が暴れていなかったのが唯一の救いだったな」
「あたしらも同じ気持ちだよ。まだ暴走し始めたばかりだったから、正気を失っていても町を守るって事を忘れずにいられたんだろうけど、ラルフ達が来ないでもっと時間が経ってしまっていたら、きっと取り返しのつかないことになっていただろう」
「コウイチ達にボスを殺された時に、俺は人間たちへの怒りでおかしくなっていたが、冷静に考えると人間全体に怒りを向けるのは間違いだったな。心配かけてすまなかった。それにしてもアーカス王子が魔王様を倒した理由が本当にわからなくて不気味だな……」
「そこが俺達にもまだわからないんだよね。アーカス王子がやってきたことに一貫性がないというか、何が目的なのか理解できないというか。別世界からコウイチ達を召喚して、チート能力と装備をあげて魔王討伐さえしてくれれば良いって送り出して、自身は俺達を襲って、討伐を頼んだはずの魔王様を殺して魔族達を暴走させる……」
考えれば考えるほどアーカス王子の考えがわからなかった。
「一番直近でアーカス王子に会って話をしたのはラルフなんだよな? やつは何か気になること言ってなかったか?」
「そう言えば『この世界を正常な世界にするという大事な使命がある』って言ってたけど、アーカスの言う正常ってどういう状況のことなんだろう、平和な世界をめちゃくちゃにすることが正常なのか……」
「何か他の目的がありそうだが、今はそれよりもまずこの町を立て直していかないとな! 俺達豪腕三人衆が加わればこの町の魔族を正気に戻していくのなんて朝飯前さ!」
と言ったところでオルバの大きなお腹の音が聞こえたので、とりあえず皆で食事を取ることにした。オルバ達はアジトの中にたくさんの食料を備蓄していたので、大人数でも問題はなかった。サマイ以外の食べ物を口にしたのは久々だったので、どれもとても美味しく感じた。
「それにしてもオルバ、熱くなりやすくて頑固なあんたがよくラルフ達に話を素直に聞いたね」
「俺も本当ならこんな突拍子のない話を信じないし、人間の言うことなんて聞く気もなかったんだが、目を覚ます前、いきなり夢にボスが出てきてな。『オルバ! てめえ何やってんだ! 今こそ皆で協力するべきだぜ馬鹿野郎!』ってな感じですごい剣幕でよぉ。なんかそれを聞いたら急に頭の中が冷静になってな。やっぱりボスには敵わないな」
「そうかい、死んじまってもボスはあたしらを見守ってくれているのかも知れないね」
「そうだ思い出した! ゴブリンの娘、リンって言ったっけか?」
「うん、あたいはリンだよ」
「食事の後でリンに見せたいものがあってな、後で俺に着いてきてくれるか? 他の皆にも来てほしいんだが、くれぐれもリンを先頭にして来てくれ」
食事が終わった後、俺達はオルバとリンを先頭にしてアジトの外にある小さな小屋へ向かった。扉を開けるとそこには鎖につながれた見たこともない魔族がいた。それは植物の球根のような胴体に二本の足と尻尾がついており、牙の生えた狂暴そうな顔をしていて、凄い勢いで暴れていた。
「オルバ! もしかしてこの子スクイッグ!?」
「そうだ、さすがにゴブリン族のお前なら知ってると思ったぜ!」
「リン、スクイッグって何なの?」
「スクイッグはね。見ての通り植物の球根に顔と足が生えた魔族で狂暴な性格なんだけど、昔からゴブリン族にとってのよきパートナーだって伝えられているんだ。そしてゴブリン族にしか心を開いてくれないって言われているんだ。あたいの村近くには一匹もいなくて見たことなかったんだけど、昔から話だけはよく聞いていたんだ!」
「俺たちが正気を失う前、町の外に出かけたとき弱ってるこいつをたまたま見つけてな。このアジトに連れてきたのは良いんだが、暴れまわって困ってたんだ。こいつは魔王様が殺される前から暴れていたから、ペンダントだけじゃどうにもならないと思うんだ。リン、こいつを大人しくしてやることはできるか?」
「やったことはないけど、ゴブリン族のあたいなら大丈夫だと思う。ブン村長から聞いた通りにやってみるね」
リンがスクイッグに手を伸ばし優しくペンダントをかけ、頭の部分を優しく撫でた。すると先ほどまで暴れていたスクイッグが落ち着き始め、しばらくするとリンとじゃれつく様になった。
「俺たちが散々手を焼いたこいつをこんな簡単に手なずけるなんてな……。やはり噂は本当だったんだな! よかったらコイツを連れて行ってやってくれないか?」
「ありがとう! これからよろしくね! スイ!」
「ガウ!」
「そのスイっていうのは名前?」
「うん、それがこの子の名前なんだって」
俺達には何を話しているのかわからなかったけど、早くもリンとスクイッグのスイは心を通わせたらしい。二人のじゃれつく姿に皆が自然と笑顔になった。新たに仲間に加わった後、俺たちはエルフ族の女性の様子を確認するべく食料と傷薬を持ってコトのアジトへ戻った。アジトに入るとエルフ族の女性はもう起きていて、ベッドの上でぼーっと前を見つめていた。
「もう起きて大丈夫なんだね、ほらあんたのために傷薬を持ってきたよ」
「あなたがここまで運んでくれたのね、ありがと。このペンダントのおかげで気持ちも少し楽になったわ。でも傷はもう大丈夫だから薬は要らないわ」
「さすがエルフだね。もう傷が治っちまったのかい」
「私はエルフじゃないわ! 中途半端なハーフエルフよ!」
彼女の急な大声に俺達は皆驚いてしまった。フードを外した彼女の顔には傷口が塞がっているものの、傷跡がくっきりと残っていた。
「急に大声出してごめんなさい。私を見て気づいたでしょ? エルフにしては傷の治りが遅いって。私が普通のエルフだったらこんな傷完全に治っていたはずなのよ。でも人間の血が混ざっているからこの傷跡は消えないのよ。そもそももし普通の人間なら、年相応におばさんの見た目だからあんな男に言い寄られることもなかったのに、ハーフエルフで良かったことなんて何もないわ」
悲しい表情で話す彼女に俺達はそれ以上声をかけることが出来ず、彼女もそれ以上口を開いてはくれなかった。
「おい、ハーフエルフの姉ちゃんよぉ! コト達に助けてもらっておいてそういう態度は良くないんじゃねぇか!?」
「ありがとうねオルバ。でもいいんだよ、誰だって辛くなるときはあるさ。それにあんな傷を付けられた後なんだから落ち込むのも仕方ないさ。さぁそれよりもあたしらが正気に戻ったってこと町の連中に知らせてやらないとね。皆と協力してこの町を元に戻すよ!」
俺達は彼女をアジトに残し、町へ出ることにした。




