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第16話 疾風の猟犬

 魔使いのペンダントにより正気に戻ったコボルト達が目を覚ました時、その臭いにとても驚いていたので、まずは顔についたファイスさんの血を拭ってあげた。


「どうやらあたし達は正気を失っちまってたみたいだね。助けてくれてありがとうな。あんたら名前は?」


 コボルトの少女の問いかけに、俺達は順番に自己紹介をした。そしてここに来るまでの出来事を簡単に説明し、彼女たちがなぜ正気を失っていたのかを説明した。魔王様がアーカスに殺されたこと、枯れ果てた森の奥の王国から来たこと、全てが彼女たちにとっては驚く情報ばかりだったせいか、終始目を丸くしながら話を聞いていた。


「まさか人間の国王が魔王様を……。目的がよくわからないのは不気味だが、とても許せることじゃないね。おっと! ラルフ達の話しばかり聞いていて、あたしらの自己紹介をしてなかったね。あたしの名前は『コト』そしてこっちの細いのが『ルード』で大きいのが『ボーグ』って言うんだ。あたしら三人『疾風の猟犬』はこのハーニルの町で自警団をしていたんだ」


「疾風の猟犬?」


「カッコイイだろ? あたしらのパーティ名みたいなもんさ。この町の町長、あたしらはボスって呼んでるんだけど、ボスの元で働く自警団の1つがあたしら疾風の猟犬さ……。でもボスを失った今、あたしらは飼い主のいない猟犬なんだ」


「そのボスはどうして?」


「突然この町へ入ってきた怪しい三人組に殺されちまったのさ。奴らが町の食堂で料理人を脅してタダ飯食ってた時、ボスはそれを止めようとして詰め寄ったんだ。そしたら逆上した奴らに散々傷つけられて、それが致命傷になって……。あの時はたまたまボスが一人だけで昼食を楽しみたいって言ったから、あたしらは皆ボスの側を離れていたんだ。ボスの近くにいたらこんなことには……!」


 傍若無人な行動をする三人組と聞いて、俺の脳裏にはあの三人組しか浮かばなかった。


「そいつらが男2人の女1人の三人組で『自分たちは勇者だ!』とか言ってたら間違いなくコウイチ達だよ」


「やっぱりそうなのかい。罪も無いゴブリン達を皆殺しにして火を放つような連中なら、あれだけ酷いことでも平気でやってのけるだろうね。本当に恐ろしいよ。奴らにボスを殺されてから、あたしらは『オーク』の連中、魔族、人間の皆んなと一緒に手を取り合って町を守っていこうとしたのに。その矢先に魔王様までもが殺されちまって、あたしら皆正気を失っちまうなんて……!」


 コト達は目に悔し涙を浮かべていた。


「状況も違うからあまり知ったような事を言える立場じゃないけど、俺達もアーカスやコウイチ達のせいでひどい目にあったから、悔しい気持ちはわかるよ」


「慰めようとしてくれてるのかい? その気持ちだけ受け取っておくよ」


「そういえばさっきオークの連中って言ってたけど、もしかしてコト達の仲間?」


「ああ、あいつらはあたしらと同じくボスの元にいたオークの三人組で『豪腕三人衆』って名前の連中さ。ボスを殺されたことで我を忘れていたんだけど、正気を失ってからはより手が付けられなくなってね……。もしよかったらあたしらのアジトに来てくれないかい? まだまだ話したいことがあるしあんたらも聞きたいこととかあるだろ? だからもう少し落ち着けるところで話したくてね」


 元々情報収集は大きな目的の1つだったので、この町に詳しいコトのお誘いはとてもありがたかった。アジトに向かう道中で辺りはすっかり暗くなってしまっていた。普通の町であれば民家の明かりが一斉に灯り始めて道を明るく照らすはずが、この町の明かりはまばらだった。


「夜なのにこんなに町が暗いなんてね……。恐らくあたしら魔族が暴れたから、人間の中には襲われるのを恐れて明かりもつけず家に篭ってるのもいるんだろうね。あの賑やかな町が恋しいよ」


 まばらな明かりの道をしばらく歩くと、古びた一軒家に着いた。コトに促され中へ入ると、中は乱雑としているものの広々としていた。広間のような場所に行き皆が床に座ったところで、コトが話しはじめた。


「じゃあ早速だけどさっきの話の続きをするとしよう。さっき話したオークの豪腕三人衆なんだが、今もまだ我を忘れて暴れてるはずだ」


「早く何とかしてあげないとね」


「ああ、そしてあいつらは勇者を名乗っていた三人組、コウイチってやつらだっけ? あいつらのせいで人間を酷く憎むようになっちまっていると思う。あたしらは町の入り口にいて、正気を失ってはいたものの町を守るということを忘れずにいたみたいだから良かったけど、豪腕三人衆はこのまままだと本当に正気を失っちまって人間を襲うようになるかもしれないし、もしそうなったら取り返しのつかないことになっちまう。なぁ、あいつらの目を覚まさせるためあたしらに手を貸してくれないか?」


「もちろんだよ! でも俺たちそんなに強くないから力になれるかはわからないけど……。皆も良いよね?」


 全員が力強く頷いてくれた。


「強いかどうかなんてそんなの関係ないさ! 今からあいつらのアジトに行って一刻も早く連中の目を覚まさせてやりたいけど、まずは作戦会議を……」


 コトが言いかけたところで急に入り口の方からドンッという何かが落ちる大きな音が聞こえてきた。俺達は慌てて入り口へ向かい恐る恐るドアを開けると、そこにはフードを被った人が倒れ込んでいた。


「あんたどうしたんだい!? さぁ早くあたしらのアジトに入りな!」


 コトが腕を引っ張るとフードが取れ、いつの間にか出ていた月明かりがその人の顔を照らした。思わず息を飲むほど綺麗な顔立ちの女性の顔には、大きな切り傷が刻み込まれていた。


「その顔どうしたんだい!?」


「あいつに……。見ない……で」


 か細い声で小さくつぶやくと、その女性は気を失ってしまった。俺達は女性をアジトの中に運びベッドの上に寝かせた。顔をよく見てみると耳がちょっと尖っていたので、女性はエルフ族のようだった。


「多分あの姉ちゃんはコウイチの被害者だよ。あいつが町でエルフ族の女の人を襲おうとして、抵抗された腹いせに顔を斬りつけたって噂を聞いたんだ。ただあのくらいの傷なら完治とまではいかなくても、もう少し治りが早いはずなんだが」


「コウイチはそんな酷いことも……。回復魔法が使えればもしかすると傷を直してあげれるかもしれないけど、俺達は誰も魔法が使えないし……」


「回復魔法はないけど、傷によく効く薬ならあるはず……。だけどそれは豪腕三人衆のアジトにあるはずなんだ。正気を失う前にあいつらが道具屋の薬を全部持って行っちまったからね、薬のためにもなんとかしないとね。さぁ気を取り直して作戦会議だ! アジトに乗り込んであいつらを正気に戻してやろうじゃなか!」

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