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第10話 王国の外へ

 俺達はゴードンさんに連れられて王国内を案内してもらいつつ、サマイを探しに森に行くため王国の入口行くことにした。今まで落ち着いて見る時間がなかったので、とても新鮮だった。まず国のちょうど真ん中に位置しているのが俺が最初に目覚めた部屋や地下にガラトスがいる『ラクスベルク城』で、昔はとても立派な城だったようだけど、今は見る影もなくほとんど崩れ去り辛うじて城の形を残している状態だった。俺達が集まっていた広場はかつて手入れの行き届いた綺麗な庭園だったようだ。


「かつてここには王家の方々の『ウツシカガミの木』が植えられていた場所……。今は枯れ果ててもう見る影もないが」


「『ウツシカガミの木』って何なんですか?」


「……そうか、ラルフ達が知らないのも無理はないかも知れないな。この国はかつて数多くの冒険者が集う場所でもあったのだ。この世界は広く未だに我々が知らないような場所もたくさんある。その様な未開の地に挑む者たちが必ず一人一本は持っていた木のことだ。この辺りの詳しい話は食料を確保してきてから話すとしよう」


 次に向かったのは。城の中にある宝物庫だった。


「この中に魔使いのペンダントがある。ゴーストである私はこの扉をすり抜け中に入ることが出来るのだが、持ち出すことが出来ない。かなり古くなっているはずだからちょっと衝撃を与えれば壊れるはずなのだが、誰か扉を壊してくれないか?」


「じゃああたいがやってみるよ!」


 リンが勢い良く扉を殴りつけるとその衝撃で扉が倒れた。


「ありがとう。やはりゴブリン族の力の強さは頼りになるな」


 宝物庫に入ると中には空っぽになった宝箱が散乱していて、奥の机の上に埃を被っているペンダントがたくさん置かれていた。


「これが魔使いのペンダントだ。宝物庫に置いてあったものの、他のものと違って特別価値があるものではなかったから誰も盗んでいかなかったのだろう。全員分あるから皆首にかけてみてくれないか? アレンとロザリーにはラルフが代わりにかけてやってくれ」


 二人にペンダントをかけている時、ふと服の内側に入れていた村長から貰ったペンダントを見てみると魔使いのペンダントと同じものであることに気づいた。


「ゴードンさん、このペンダントも魔使いのペンダントですか?」


「ああ、これは間違いなく同じものだな。これをどこで?」


「村を出る時村長から貰ったんです。ブンさんと一緒に冒険した時に見つけた思い出の品だって」


「なるほど。恐らく誰かが落としたものを拾ったんだろうな。……? このペンダントには何かの念が込められているな? ちょっと見せてくれないか?」


 ゴードンさんがペンダントに手をかざすと、先端の赤い宝石が輝き始めた。


「ふむ、魔力が残っていたようだな。これは……。ラルフから話を聞いていたブコの村長の魔力だな。それにラントリールの村長の気配も感じられる。もしかするとこの二人の思いがラルフ達をここに導いてくれたのかも知れないな。このペンダントは本来人間が身に着けていても意味のないものなのだが、これはラルフが身につけておくと良い」


 二人の思いが近くにあることを改めて感じることができ、より一層頑張る気力が生まれた。

その後は瓦礫の山となった元城下町を抜け、王国の入口付近にやってきた。そこには見上げても一番上が見えないほどの高い城壁があり、大きな城門あった。


「これが王国と外をつなぐ唯一の扉だ。真ん中にある宝石のところに、魔使いのペンダントをかざし念じれば扉は開かれる。ただしこの扉は魔力を有する心優しき者でなくては開けることが出来ない。一種の検問所のような役割を担っている扉なのだ。だからもし万が一アーカス達がここに入ろうとしても、決して入ることは出来ないから安心してほしい。ではリンよ、先程渡した魔使いのペンダントをかざして念じるのだ」


 リンが魔使いのペンダントをかざすと、先端の宝石と扉の宝石が光だしてゆっくりと扉が開き始めた。


「外からはこの城門も王国自体も見えないようになっているが、その代わり同じ場所には大きな木があるはずだ。その木にさっきと同じように魔使いのペンダントをかざし念じれば扉は開くはずだ。サマイという植物は地面から大きな葉を出していて、他の植物には無い独特の臭いがあるからすぐにわかるはずだ。地面を掘ると大きな根っこが出てくるからそれを集めてくるんだ」


 俺達は外に出れないゴードンさんとサクリさん、まだ上手く身体を動かすことが出来ないファイスさんに見送られ、扉の先にある光に向けて歩き始めた。光の中に足を踏み入れた瞬間辺りの景色が薄暗い森の中へと変化し、後ろを振り向くともう扉は無く、枯れた大樹があるだけだった。辺りの森の木は殆どが枯れているものの、地面からはところどころ緑の植物が生えていて枯れ果てた大地とはいえ、まだ多少の自然は残っているようだった。


「じゃあさっそく手分けしてサマイを探そう」


 手分けして探し始めてすぐロザリーさんのキシャアアという鳴き声が聞こえた。何かあったのかと近くまで行くとそこにはたくさんの葉っぱが地面から出ていた。試しにその一つを手で触り臭いをかいでみると、青臭いような薬のような独特の臭いがした。


「凄いよロザリーさん! もう見つけたんだね! じゃあさっそく皆で掘り進めて……」


 地面を堀進めようとすると思っていた以上に地面が固く、道具が何もない状態だととても一苦労だった。アオイも同じく苦戦しているようで一向に掘り進めることが出来なかった。顔を上げ周りの様子を見るとリンとアレン兄さんがものすごい勢いで地面を掘り進め、またたく間にサマイを掘り出しているのが見えた。


「二人とも流石だね」


「ええ、私達人間にはなかなか真似できないわ」


 魔族の皆の活躍によりサマイを大量に手に入れることが出来た。一通り集め終えたところで枯れた大樹から王国名へと戻った。


「予想以上に早かったじゃないか! それにかなり大量に集めることが出来たんだな」


「はい、ロザリーさんがすぐにたくさんある場所を見つけてくれて、その後アレン兄さんとリンが一気に掘り進めてくれたんだ! リンは元々力持ちだけど、ロザリーさんやアレン兄さんは魔族になったから新しい能力に目覚めたんだね」


「それもあるかもしれないが、ロザリーは元々薬屋で植物のことに詳しく、アレンは村で一番の力持ちだったのだろう? 人間だった時の思考能力や知能はほとんど失われているものの、培った経験がもしかしたら生かされているのかも知れないな。とは言っても今まで人間から魔族になったという者には会ったことがないから確証は持てないが……。それよりもだ、皆疲れているようだし、とりあえず食事にしたほうが良さそうだな」


 俺達は収穫してきたサマイを皆で分け合った。味はお世辞にも美味しいとは言えなかったけど、久々に栄養のあるものを食べることが出来たのでお腹も気持ちも落ち着いた。ロザリーさんは根っこよりも葉っぱのほうが好みだったらしく、一人で全部食べてしまった。これからどうなっていくのか不安だらけではあるけど、皆がいれば乗り越えて行ける気がした。

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