* 僕の感情は全て貴女に作られてる気がする
シルク目線の話です。
「てゆーかシルク?もうアレから3日よ?そろそろ機嫌直して頂戴?」
最近僕が言った様なセリフを今度は姉が言っている。
「ちょっとほっといてくれるかな?僕は今姉さんと遊ぶつもりは無いから」
「わたしを置いて何処に行くつもりなのよ〜」
「…姉さんは今日家庭教師の来る日だろう?支度しなくていいの?」
「それはそうなのだけれどね?食堂でのことまだ怒ってる?それでどこいくの?最近出かける事多くない?」
「姉さんには教えない」
闇のお休みの日、ぷうっと頬を膨らませた姉をアナが引きずっていった。支度するには時間がギリギリなのだろう。
「まぁそれがわかってこの時間にしたんだけどね」
呟いて馬車に乗り込み目的地に向かうことにする。
*****
「やぁシルクくん。時間通りだね」
町の外れに立つ立派な屋敷の庭に、レイさんが待っているのが見えて、「お待たせしてしまいましたか?」と小走りで向かえば、首を振って微笑まれる。
「今日も宜しくお願いします」
少し堅苦しいようなお辞儀からいつも始める。
「礼に始まり礼に終わる、シルクくんはいつも素晴らしいね。では始めようか?」
レイさんはスラリと長い剣を此方に向け美しく構え、それに対して僕も腰の剣を抜く。
「それでは…いくよ!」
キンッッ
剣が当たる高い音が白を基調とした屋敷に響き渡った……ーーーー
******
幼い頃より戦う事の基礎は習って来ていた。
素質も褒められ、有難い事に魔力も人より多いらしく、飛び抜けた自信ではないけれど、それなりの腕はあると正直思っていた。
それでも姉さんが拐われた時、
ただただ自分の弱さを痛感した。
泣きながら姉が拐われた事を伝えるミラさんを責めながら、何故自分がそばに居なかったのかの後悔と、犯人が数人居たと聞いて果たして自分一人がそばに居たとて守れていたのだろうかと。
その時頭の中で声がした。
『側に居たのがロイなら守れたんじゃないか』
それを聞こえない振りをして、プライドもかなぐり捨ててロイ様へ連絡を取り、頭を働かせようとするが、頭の中でグルグルと自分を責める言葉ばかりで一杯になる。
暫くして騎士団を連れてやってきたロイ様に、アベイルさんが何やら伝えると驚いた顔をして、躊躇わず周りに指示を出しているのを、僕は何も言えず見つめていた。
騎士団へとレイさんが近づき、更に情報を伝えているのをただ見ていた。
気がつけばロイ様とアベイルさんを先頭に動き出す彼らを見送ることしか出来なくて。
「姫さんは大丈夫や」
ポンと背を叩き、ロットさんとレイさんは門から出て周囲を調べ始めた。
僕は何をやっているのだろう。
握った手を見れば、血が滲んでいるのを見て、そうだ父にも連絡を取らねばと動き出すのが精一杯で。
それから暫く待てば、姉は無事保護され治療院に向かうと連絡が来て、学園に来ていた父と一緒に向かった。
眠る姉は頬が少し赤く腫れているのと、手首と足首に縄で擦れたのだと思われる跡、あとは服が薄汚れている程度で他に大きな怪我もなく、治療してくれた先生によると、魔力切れで眠っているだけなので、そのうち回復すると。頬や手首などの赤みもその場で治療されたのを見れば、全身の力が抜けてその場で座り込みそうになる。
父と、そして暫くすると丁度叔母の家から帰路に着いていた母がそのまま治療院へ来たので、2人へ頭を下げてお詫びを言おうとするが、母は僕を抱きしめて「シルク、貴方も少し眠りなさい」と温かな魔力を流し込まれた。
僕は大丈夫だと、僕なんかより姉にと、そう伝えたいのに、その魔力は張り詰めた糸を緩めて解す様に、温かく温かく僕を眠りに落としていった。
「姉さんは!?」
気がつけば翌朝で、起きると同時に側に居た母に聞けば、まだ隣の部屋で寝ていると微笑まれた。
父は一度王城へ御礼と無事を伝えに行ったらしくここには居ないと伝えられ、そういった事へも頭の回らない自分の不甲斐なさに打ちひしがれる。
「お母さまね、ユーリに魔力を上げたいのだけど、ここではこっそりしかあげられないから、少しだけ回復に時間がかかってるのよ?でもね、ちゃ〜んと回復してるから、シルクも安心してね」
僕の頭を撫でそう優しく微笑む母に頷き、今か今かと願っても、その日姉は目覚めなかった。
翌日の昼過ぎ、父が改めて来た頃に姉の居る隣の部屋で壁越しに声が聞こえた。
飛び出したい気持ちはあったが侍女もいるし、落ち着くまで少し待とうと、両親に習って動かず待てば、直ぐに「お嬢様がお目覚めになられました」と赤い目をしてアナがやってきた。
部屋に入ればいつもの様に笑う姉が迎えてくれるのを見たら、ボロボロと自分でも信じられないくらい、カッコ悪いほど涙が溢れた。
両親に背中を撫でられ、姉が抱きしめようと手を広げてくれるのを子供の様に素直に飛びつき、回復途中の姉に負担を掛けたくなくて、姉を抱きしめたいのに力を入れることも出来ない。
会話も出来ない僕の背を撫でながら、いつもの様に両親と会話する姉に、本当に無事だったのだと安堵が胸に広がる。
両親が帰ると少しずつ冷静になってきて、ハンカチを顔に当てて、深呼吸で息を整えていれば、思い出したかの様に姉が「髪留めを知らないか」と詰め寄ってくる。
そのいつも通り過ぎる様子に驚けば、僕が子供の頃にあげた髪留めなのにと怒り出したので「カフスボタンの御礼にまた買いに行こう」と伝えれば不満げに頬を膨らましながらも妥協してくれたようだ。
そして冷静になって謝る彼女に思わず「姉さんも気をつけて」なんて言えば、侍女に窘められてしまった。
馬鹿みたいだ。
自分の弱さを棚にあげて。
このカフスボタンを貰った時に、姉さんのフォローは僕がするなんて言いながら、本心では貴女は僕が守るつもりだったのに。
…強くなりたい。
貴女を守れるだけの強さを。
貴女がいつでも笑っていられる為に。
決意を新たにして居れば、わかっているのかいないのか、彼女に頭を撫でられて、
「お姉ちゃんは大丈夫だからね?気にしないでね?だから明日の魔法祭行ってもいいかな?」
そう告げられ……この人ホント何も懲りてない!!!
僕も悪いし、犯人が悪いのはわかるけど、この人の思い付きと、なんだか楽しそうな所にフラフラ寄ってく癖は、ちょっと直して欲しい!!!!
そう思ったのは僕だけではない様で、ベッドの上で正座する姉に、侍女と僕でお説教したのは必要な事だったと思う。
そして僕は翌朝は誰よりも早く学校へ行き、魔法祭の準備で早く来たレイさんに頭を下げて指導をして欲しいと願い出た。
*****
「ありがとうございました」
頭を下げてから汗を拭う。
「いや、やはり筋がいいね。私では教えられる期間は然程ないかもしれない。私を越えたなら父上に頼んでおくから騎士団での練習も視野に入れるといい」
まだ汗ひとつ流していないその顔で褒められても、苦笑するしかない。
「ご存知でしょうがまだまだです。お忙しい中申し訳ありませんが、また来週も宜しくお願いします」
「ところで聞きたかったのだが、何故私に?公爵家の繋がりなら、他に指導者は沢山居るだろう?」
「ご迷惑とは思いましたが、昨年魔法祭で見たレイさんの太刀筋が、僕の目指すものに一番近く感じたので」
レイさんは少し驚いた後に目を細めると「光栄だね」と微笑んだ。
用意された飲み物を互いに飲みながら、軽く談笑を交わす。
あとこれは言わないが、僕だけでなく姉もレイさんに憧れてる節がある気がする。この整った顔なのか、美しい所作なのか、生徒会長として感じた指導力なのか…その辺はわからないけど。
それに気が付いて、自分の憧れもあったし少しでも近づこうかと髪を伸ばしてみたけれど、お構いなしに切られた。
……まぁ、いいけど。
頭の中に髪を切る時に至近距離で真剣な顔をしている彼女を、顔や首の後ろの髪を飛ばす為にフッと息を掛ける彼女を思い出し…
飲み物をガンっと机に置き
「もう一度御指導お願いします!!!」
そうかぶりを振ればクスクスと笑われて、それがなんだか心の内まで見られた様で恥ずかしくなるが、深呼吸を繰り返すと、優雅に剣を構えるレイさんに「行きます」と飛び出せば、この美しい腕の何処にそんな力があるのか、軽々と受け止められる。
まずはこの人を越えなければ、僕の目標に辿り着くわけもない。
借りられる胸に感謝をしながら、剣を振り下ろし強く守れる力を手に入れることを目指す。
*****
「ねぇねぇ!!シルク?何処行ってたの?楽しかった?」
帰るなりニコニコと笑う彼女に「楽しかったよ」と伝えれば、ニマニマと「そっか、今度紹介して頂戴ね」と、スキップでもしそうな勢いで去っていく。
その後ろ姿を見て姉が何を考えたのかわかって、「姉さんそれ誤解!!」と叫ぶが「まぁまぁ、黙っておくから」と、楽しそうに入口の扉を開けて出て行くのを、ギシギシと痛む身体で訂正する為追いかければ、その姉はクロモリに乗ってスターンスターンと我が家の広い園庭を飛んでいった。
…ロイ様より、レイさんより、そしてクロモリより強くなろう。
そして自分の中で声が聞こえる
『一番の敵は誰より、
もしかしてこの姉なんじゃないか』
と。
不憫可愛いの名前を頂いたシルク目線の話でした。
ユリエルは食堂でやらかした自覚はあるのでちょっと必死w
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誠にありがとうございます!!嬉しいです!!!





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