願いを護る子
「えっと姉さんは今日は学校お休みするんだね?」
「ええ、一日だけ休ませて貰うわ」
「うん…わかった。本当にごめんね?姉さん大人しくしていてね?いってきます」
「わたしはもう大丈夫よ!いってらっしゃい。気をつけてね」
朝から自室にきて挨拶…主にお詫びをしてくれたシルクをベッドの上から笑って手を振り送り出し、また布団に潜り直す。
シルクのせいではなく、生まれて初めて大泣きしたせいで、朝起きたら頭は痛いし、クロモリを生み出したせいなのか、魔力もかなり使ったらしく、フラフラする。
ちなみに我が家の癒やし手であるお母様は、今週の初めから一山超えた町へと叔母様に会いに行っていて留守なので、この騒動を知らないが、我が家一番柔軟性を持ち合わせた人なので、帰って来たところで『ユーリちゃんの猫ちゃん、大きくて可愛い猫ちゃんねぇ〜』くらいなものだろう。
あんな広い心をわたしも持ちたい。
うつらうつらの眠気が来るが、一度ズレた頭の回路がまだ整っておらず、なんだかこのまま暗い底へと落ちる様な気持ちになった。
「クロモリ…」
眠気の中名前を呼べば、ベットの横に黒豹のクロモリが現れる。
思わずホッとするが、
「貴方のサイズでは一緒に寝れないわね…」
クスクスと笑いが漏れれば、ポスリと頭をベットに乗せて撫でさせてくれた。
魔力から生まれたはずなのにその身体は暖かくて、そのまま安心して眠りに落ちた。
どのくらい寝たのか…ぼんやりと目覚めると「起こしてしまったかい?」とお父様がおでこに手を当て微笑んでいた。
「いいえ…なんだか…夢を見てた気がする…」
「そうかい?それはいい夢?それとも嫌な夢だったかい?」
「わかりませんわ…いい夢だったような、悪い夢だったような…」
おでこの掌は優しく動いて頭を撫でてくれる。
「そうか…でもどちらでも気にしなくていいよ。夢は夢で、君はここで生きているのだからね。現実もいい事も悪い事もあるけど、君はただ幸せになる為にここにいるんだよ」
そう微笑んで、おでこにキスを落として立ち上がる。
「まだ仕事があるから僕は行くよ。クロモリくん。ユーリを頼んだよ?」
クロモリを撫でると、扉を開けて出て行った。
…うおぉ!お父様が甘い!!!日本人の記憶が特に混在してる今は、枕に顔を埋めて『惚れてまうやろ〜〜!!』と叫びそうになるが、惚れはしない。
だってお父様だし。わたし相手以上にお母様にメロメロの、それこそ『あまぁぁぁぁ〜〜い!!』って叫びたくなる言葉を落としてるの、赤子の頃から知ってるからね!
お母様があのお母様であり続けられるのは、お父様の愛に他ならない。
お母様の一目惚れって聞いてるけど、見る目ありすぎるわお母様。更に尊敬。
そして朝と違って頭痛は引いていて、魔力不足のダルさは仕方ないと諦め、アナを呼んで軽食を運んでもらう事にする。
外を見ればお昼もとっくに過ぎてることに気が付き、アナがまずは先立ってお茶を準備してくれたので、まだ少しぼんやりとする頭でベットから降りると、足に力が入らずフラリとしたが、クロモリが優しく身体で支えてくれた。
「ありがとね?」そう言って撫でれば、気持ち良さそうに目を細める。
「お嬢様の召喚獣…聞いてはおりましたが、先程部屋に入った時は愕きましたが、本当に賢い子なのですね」
「そうなの?わたしはこの子しか知らないから」
椅子に座っても隣に並んでくれたので、そのまままた頭を撫でる。
「ここに仕える人達には、お嬢様が黒い召喚獣を呼び出した事と、家の中に現れることもある事は執事長よりお聞きし、屋敷の外ではその話をしない様とも伝えられておりましたが…お部屋に入って見た時は、思った以上に大きくて驚きました。しかし私が驚いた様子を見ても、ちょっとこちらを見て、そのまま動じる事なくお嬢様の横に伏せて沿われていらっしゃいました」
「他の子は違うの?」
「私の知っている召喚士には、主人が寝ている時は基本消えていると聞きました。存在させるには少ないとはいえ魔力も使うそうなので。なので寝ている時に指示も出来ない状態で横に居るなら、常に臨戦体制で部屋に入る事も出来ないと」
「そう…ならこの子はわたしの願いを聞いてくれているのだわ」
アナは綺麗な琥珀色のお茶をわたしの前に運びながら「願い?」と不思議そうに聞く。
「ええ…、この子を召喚する時にね、『わたくしの願いを護り、生きてくれる子』って召喚したの。だからわたしの願い、この家の人たちは傷つけない、そんな願いも聞いてくれてるのだと思うわ」
「凄い子ですね…。撫でても?」
頷けば、少し緊張した面持ちでクロモリを撫でててくれる。なんだか微笑ましくて、お茶を飲みながら幸せな気分になる。
「ありがとうございました。ではそろそろ軽食も出来た頃合いでしょうし、受け取ってまいります」
そう言って頭を下げて出て行った。





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