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可愛いものは褒めて伸ばす主義です



「あなたはだぁれ?」


「なぜお前に名乗らねばならぬ」



 質問に質問で返すのはどうかと思いながらも、年相応の笑顔で返すと上から目線で返された。


 この子、身長は私より少し低いのね。年下かしら?身なりからしてかなりの上級貴族の子なのよね?あらやだ瞳も碧眼。なんて綺麗なのかしら〜


「ここは私の家です。そこに入られていらっしゃるのですから、名前を名乗るのは当然かと思いますが?」


 不思議そうに首を傾げながら告げると、男の子は苦々しい顔をして「すまん。ロイだ」と名乗るのを見て即座に頭を撫で、

「ロイ様、ちゃんと言えて、偉いですね!すぐ直せるなんて賢い証拠です!!」そう褒めちぎる。


 いやだってね、こんな小さな子がちゃんと詫びを言った上で、ちゃんと名乗れるとか偉くない!?えらーい!褒めて伸ばそう未来の宝!!


 ちなみに首を傾げながらの質問は、私が可愛らしいから出来る技と思っている。

 アラフィフの前世の自分はきっと一度もしたことが無い。うん、思い返しても確実にないな。



 今の私は髪色こそ日本人のソレだが、目の大きさは前世の2倍はありそう、しかも睫毛は3倍はあるんじゃないかとか、少し薄い唇に天然の赤み、化粧をしてたあの頃にこれプリーズギブミー…って今更よね。


 でもこの子みたいな綺麗な金髪なら、きっと更に後ろに薔薇も咲くわ!いや、むしろ後ろで薔薇リアルに咲いてたな!ラッキー!




 まぁ自画自賛はともかくとして、この子も可愛いわぁ〜。あ……今のわたしと同い年くらいって事は、孫もこんな大きくなってるのかしら……。あのふくよかな頬も、紅葉みたいな手も、生れつき薄くてハゲてて娘が「ヤバイ……」と呟いたのに思わず「あなたもそうだったのよ」と笑った日々が懐かしい。

 あら?とはいえ、異世界と日本って時間の流れどうなのかしら?


 そんな物思いに耽りながらも引き続きニコニコと撫でていると、驚いていた顔が真っ赤に染まり、手を払われてしまった。


「ぶっ、無礼者っ!賢いのなんて当たり前だろう!!」


「そうですか。それは失礼いたしました。ロイさまがとにかく賢くて可愛らしくて、ちゃんとお詫びまで言える素晴らしい子とわかって思わず……。大変失礼致しました。わたくしはユリエルと申します。」



 孫の成長を見守るがごとく、ナデナデを堪能させて頂きました。というのは心の中にしまっておく。は〜幸せ。


「お前、変なやつだな?」


 顔を顰めてそう問うロイ様だけど、耳まで赤い。激カワ!



「うふふっ確かによく言われるかもしれません。私には弟も妹もまだ居ないので、自分より小さな子が近くにいる事に憧れているのです。ロイ様はご兄弟はいらっしゃるのですか?」


「小さ…っ!?まぁいい、僕には双子の弟と妹が居るが…」


「まぁぁぁぁぁぁっ!!お母様双子を授かるなんて大変でしたでしょう!!?あぁっ!でも男女の双子なんて幸せの絶頂ですか?そうですか?ロイ様みたいに美しい髪色?そんな素敵な瞳をしてらっしゃいますの!?あぁいつかお会いしたい!!可愛いでしょう可愛いでしょう!?いいなぁロイ様!!そんな天使が近くにいたら撫で放題でハグし放題っ!しかも弟妹なら可愛いとこどりじゃないですかぁぁぁっ!!?」



 思わず手を取りグイグイ行くわたしを「近いっ」と、手を払われおでこをペチンとされた。ごめんなさい双子の天使の妄想に取り憑かれてしまいました。


 ロイ様はコホンと咳をすると、


「そんないいもんじゃないぞ?2人だから乳母も2人、僕のメイドもバタバタ忙しく、それに…お母様も産んでから暫く体調も悪いし…」


 そこまで言うと俯き辛そうな顔をしたのを見て、しまったと気が付く。

この世界はどうやら魔法は発展してるが、医療は現代日本みたいにはいかない。



 お産は元々命をかけるほど辛いものなのに、この世界で双子を産むなんて、きっと思っている以上のものなのだ。


 そして兄としては、弟妹が産まれ、母が弱れば思わず産んだせいだと責めてしまう心理は仕方ないのかもしれない。

それなのに私はなんて考えなしで……。



「ロイ様!遊びましょう!!」


「は?え?」



 こういう時は遊んで忘れるのが一番!と、キョトンとするロイ様の手を取り、自慢の我が家の庭園を案内し、時にはお気に入りのボールを投げ合ったり、追いかけっこをしたり、最初は振り回される感が否めないロイ様にも笑顔が溢れるようになった。


「ロイ様、お帰りのお時間で御座います」


 従者と思える方が迎えに来られた時、ロイ様は思わず私の手を握ってくれた。ナニコレカワイイッ!


「ロイ様?お時間だそうです。でもきっとまた遊びましょうね。その時、弟さんと妹さんのお話聞かせて下さいませ。今は大変でしょうけど、こんな素敵なお兄様ですもの。きっと懐いてロイ様も忙しくなりますわ。そしてロイ様が遊んであげてると知れば、お母様もきっと御喜びになられます!えぇなられますとも!」


 兄弟が仲良く遊んでるって親からしたらもうマジ天使!ってなるからね。うんうん。喧嘩してると頭痛の種だけど、でもロイ様のとこは少し歳も離れてるし、きっといい関係が築けるはず!!



 両手で握った手をブンブン上下に揺らす満面の笑みの私を見て、ロイ様は少し目をパチパチさせると、その後また少し目線を逸らし、

「…そうしたらまた話に来ていいか?」


「えぇもちろんです! お土産話……、なんなら御兄弟も連れてきて愛でさせて下さいませっ!」


 思わず本音が出てしまったが、わたしとしても貴族の家の関係なのか、あまり小さな子と会えない実状があるのでなりふり構って居られない。ベビーギブミー!愛でるだけ愛でさせて〜でも私も子供だから、可愛いとこどりだけさせておくれ〜!!


 そんな内心を知らないロイ様は「…弟達は…考えておく」と、少しつまらなそうに踵を返す。



「ありがとうございました。今日はとても楽しかったです。勿論ロイ様だけで構いませんので、またお会い出来るのを楽しみにしております。」



 ロイ様の背に向けて、スカートを摘み頭を下げて御礼を言うと、その視界に爪先が入る。

 何事かと少し顔を上げるとスカートにあった手を、自然とした流れでロイ様は自分の口元にもっていくと、柔らかい感触が触れた。



「え?」


「ユリエル。僕はまだ子供だけど、いつか子供扱い出来なくするよ」



 そう妖艶に微笑まれて、今度こそ背を向けてお帰りになられた。



「え?」


 握られた手も、スカートを握った手も固まったままその場に居ると


「あら?王子様お帰りになられたの?」


 そう言ってのほほんと現れたエンジェル…いや母にギギギっと音がしそうな硬さで首を向ける。


「お…おうじさま?」


「そうよ〜王子様。もうすぐ6歳になられるらしいけど、しっかりしてるわよねぇ〜!あっ!でもお母様にとったら、もちろんユーリちゃんが一番だし、ユーリちゃんの方がしっかりしてると思うのよ〜?あ、お名前聞いた?ロイ・ファルコ・ガルディウス様よ〜」


「ロイ……え??お母様?なんて?」


「え?ユーリちゃん聞いてなかったの〜?ロイ・ファルコ・ガルディウス様よ〜ぉ」


 王子を紹介もせず、娘と遊ばせる呑気な母が間延びした喋りで聞いた名前は……、



なんか……、



娘の本で読んだメインヒーロー?の名前でした。



え?黒髪、黒目、ユリエル……ユーリ………




『ロイ様!わたくしのことはユーリとお呼び下さいませ!ロイ様とわたくしはもう家族同然ですもの!!』




 待て待て待て待て待て待て待て待て待て!!!

 めっさザックリ読んだ娘の蔵書にそんなキャラ居たぞ!?




『わたくしとロイ様は、国の決めた婚約者ですの!! 貴女方如きが何を言っても切れない運命なのですわ!!』




 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

 記憶が噴出してくることより、そんな若さ溢れまくる発言が痛過ぎるっ!!


 相手の心も掴めてないのに、身分だか親だかの関係性にあぐら掻いて生きるとか、それじゃなくともバツイチ、子持ち、しかもガッツリ思春期に反抗期迎えて、その上我が子にも反抗期迎えられて、若さって怖いなーっ!!ってなった過去とか山程出て来て痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!






 つまり……記憶が出て来た結果論。


 わたくし、あくやくれいじょうらしいです。








 ………マジかよ。


 マジか〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!





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