幸せは日常にあるのを知っている
あれから5年。
言語ってのは不思議なものね。
英語が全く喋れない人に英語を覚えさせるなら、その国に住ませるのが一番早いとか言うけど、まさにソレ。
まったくわからなかった両親やメイドさんの声も、毎日聞いてると理解出来るようになってくるもので。
産まれてからまずは言語を理解し、発音してみたくて、1歳の誕生日に今考えれば拙い言葉で「パパママありがとう」とか言って天才扱いされてみたけど、親バカ万歳と周りには伝わらず、わたしも孫を思い出し、その後暫くはあぶあぶだーだーと喃語で過ごす日々を過ごし、親もあの時は聞き間違いだと思い込み、そりゃぁもう平凡な日々を送って参りましたとも。
平和、大事。
親なんて過度の期待と過剰愛情で育てながら、どっかで「まてまて、あれ?うちの子普通だぞ?あー…まっ、いっか!!可愛いは正義!!結局普通が1番!!」ってなることをわたしは身に染みて知っている。
わたしも息子を産んだ時は、野球選手とかになったらどうしよう、才能あれば仕方ない!お母さんも応援するよ!!とか妄想したけど、特に野球に興味も示さず、スポーツも中の下か良くて中の中。
勉強もそんな感じだったなぁ〜…でもキャリアウーマンなお嫁さん貰って、尻に敷かれてる感じだったけど、あの子の笑顔は幸せそうだったし、良い妻貰うのも才能よね!うんうん。
「ユーリ?またなんか考え事してるのかしらぁ?」
「おかあさまっ」
庭でボールを持ったまま空を見上げて笑っていたらしい、わたしユーリこと「ユリエル・セルリア」に目線を合わせて微笑んでいた母に驚き「今日は何を考えていたの?」と、ティーセットが準備された庭園のテーブルに手を引き連れて行かれた。
母はメイドさんに椅子を引かれ優雅に座ると、わたしも台を使い椅子へ登る。
「考え事じゃなくて、ぼーっとしてただけですわ」
てへへと笑うわたしをエンジェルスマイルで見つめる母。なんなの天使なの?ふわふわ金髪で美人で優雅とか、聖母なの?あっ、私のガチ母か。
「はぁ…わたしもおかあさまみたいな綺麗な髪なら良かったのに…」
「まぁ〜!ユーリの真っ直ぐな黒髪も、その黒い瞳も夜空の様だし、創造主アマテル様とご一緒で、みんなの憧れなのよ〜?自分の素敵なところは笑顔で受け入れてあげてねぇ〜」
コップで口元が隠れて聞こえないと思った呟きを拾われ、こちらが照れる程褒めちぎる母に、ぎこちない笑みで返す。
母の言ってることはわかる。この世界の創造主の絵を見ると黒目黒髪。
この色彩豊かな世界ではレアらしい。
でも!とはいえさ!元日本人だもの!!
国民的に周りはほぼほぼ黒色に育ち、なんなら生まれつき少し茶色ってだけで、学校に校則違反だとかで無理矢理黒に染められた友人もいる、ガッツリブラック校則な時代を生きてたのだもの!
そりゃ憧れるでしょ!金や緑、赤やら紫、あと青とかさ!!
しかもそれが違和感ないこの世界。
ヘイ神様!なんなら生まれつき七色とかにしてくれて良かったのよ!? ってのは流石に嘘だけども!
でもあのカラフルな色。憧れるじゃないですか。
てかこの紅茶美味しい!!!
考えても仕方ない事を放置して、クッキーを手に取りパクリと頬張る。
そういや我が家はどうもそれなりに上流階級の貴族らしい。
父は国の仕事をしていて、母は少し身体が弱いらしく、貴族社会の夜会とかにはあまり出ず、家で子育てに勤しみながら優雅に過ごしている。
お金に困らないと言うのはホント助かる。
家系と言うのもあるけれど、どうも客人らの話を聞いていたところ、父はかなり優秀らしい。
元々は中流階級だったらしいが、仕事ぶりが王様の目に留まり、その仕事で訪れた家で貴族の中でも力のある家の娘だった母が一目惚れ。そして父も恋に落ち、あれよあれよと言う間にセルリア家は大きくなり、わたしが生まれました。チャンチャン。
「ところで今日はユーリと同じ年の友達が来るのよ〜。仲良くしてね?」
珍しく少し困った様に微笑む母に違和感を覚えながらも、笑顔で「楽しみですけど、今は花を見てきたい」そう言って、またボールを持ち席を立つと、母はいってらっしゃいと小さく手を振り了承をしてくれた。
庭園と言うより、薔薇園とも言えそうな一角で、甘い薔薇の香りを吸い込み
「今年も薔薇が凄く綺麗に咲いてる……けど、紫蘇無いかな……恋しい……」
「シソとはなんだ?」
後ろから突然聞き覚えのない声に驚いて振り向くと、母に似た金髪の少年が立っていた。