新役員
あれから改めて翌日に新生徒会役員が決まり、更に翌週には講堂で承認式が行われた。
現生徒会からの正式な引き継ぎは1ヶ月後。それまでに仕事の引き継ぎがされるとの説明と、次期生徒会にも掃除の会が引き継がれて、そのまま『学生掃除の会』も続けることと、本年度もわたしが引き続き牽引するとの案内もされ…つまり、また堂々と生徒会に居られる名目を作ってもらえた。
そしてここは生徒会室。
現、新役員が集まっている。
「……」
「……あの……」
声を上げるが、返事がないし、上手く告げられない。
外は春が終わり、夏の日差しすら感じるのに、部屋の中はどんよりとしてる。まるで梅雨…!!
「姉さん?どうし…」
「シルっくん、他のみんなもこれは姫さんが乗り越えなあかんことや。口を出さず見守り」
就任後の明るい時間なはずなのに、わたしのせいでこの空気にしてる自覚があるので、勇気を出してグッと顔を上げる。
「ミラさん!!!この間はごめんなさい!!!」
「別に気にしてないわ」
しれっと言われるけど、こちらを見なかった姿に嘘だとわかる。
「嘘だわ!!絶対気にしてたもの!!わたくしがこの前、嫌な言い方をしたからだわ!!」
「別にユリエル様に何言われても気に致しませんわ」
「様!!!呼び方に距離を感じるわ!!!」
なんかロイさんが頷いてるけど気にしない。
「わたくしミラさんが大好きですの!!ですからヤキモチ妬きましたわ!!!」
「はっ!!?」
「だってミラさん、ヒナタさんのこと呼び捨てにして親しげだし、わたくしと名前で呼び合うまで時間かかったのに!!」
「ちょ…、あんた何言ってるのよ!?」
「好きだと言ってますわ!!」
真っ赤になってるミラさんに、周りでうひゃひゃひゃと爆笑してるロットさん。
そして「俺は何を見せられてるんだ?」と遠い目をするロイさんに、頷くシルクはこの際放っておく。
「ここで黙ってたら上手くいかないことをわたくし身を持って知ってますもの!!」
「どの身よ!!?ユリエルがそんな黙ってた事無いでしょう!!?」
シルクが更に頷いてるけど気にしない!
「この身よ!!| わたくしがユリエル・セルリアである限り、きちんと好きな人には人一倍伝えていこうと思ってますわ!」
「それアタシに!?他に居るわよね!!?」
「ミラさんに好きだと言いたいのですわ!」
「ヒィィィ!色んな意味でやめて頂戴!!わかった!!わかったわ!!!」
ミラさんに腕を持って前後にグラグラと揺すられ止められる。
「では、仲直りして下さる?」
「えぇ…宜しくお願いしますわ」
「これからもわたくしと末長く健やかなる時も病める時も仲良くしてくださいます?」
「その言い方…幸先と現状に不安しかないのだけれど…もういいわ。これからも宜しくね」
出した手を握り返されて、ホッとして微笑みを向ける。
「いや、その顔アタシにじゃなくて……あぁもう、次よ。次にいきましょう。レイ生徒会長。改めて引き継ぎの案内お願いしますわ」
何故だかグッタリとした顔で告げれば、レイさんが一つ頷いて、説明を始める。
「まずはロイくん、シルクくん、アベイルくん、ミラくん。改めて言わせてもらうけど、当選おめでとう。多分選挙をする予定だった3人にとって肩透かしを食らったような結果になったとしても、それは君達の普段の努力や誠実さの上に成り立っている事だから、誇って受けて欲しい。 そしてユリエルくん。学生掃除の会も一年経って、ベースはある程度出来たが、君が卒業した後も視野に入れるならば、これからの一年でマニュアルを作り上げて後輩に残せるよう、この素晴らしい行いを続けて欲しい…って言うのは、私個人の願いでもあるけどね。」
レイさんはクスッと笑ってくれたので微笑み返せば頷き手元のプリントを改めて見て話し出す。
「私達三年が正式な生徒会として続けるのは後ひと月と少し。至らぬところも多かったと思うが、それでも一年半とやってきたので、わからない事や何かあれば、遠慮なくその都度聞いて欲しい。秋の魔法祭に向けて忙しくなる時期なので、君達が望むなら、私達もできる範囲で手伝っていきたいとは思う。しかし生徒会はもうすぐロイ生徒会長の元で動き出す事になるからね。 大変だとは思うが、どうかみんなで乗り越えて、そして楽しんで欲しい」
そこまで言うとわたし達みんなを見渡して、レイさんは少しだけ眉を下げて続ける。
「…今、まだ引退しない身で言うのもあれだけど…私達は君達と出会えて楽しかったし、生徒会をやって良かったと思えた。ありがとう…なんて、ふふっ気が早かったね。 では私達から盗めるところは盗んで、どうか良い学園、そして君達がやって良かったと思える時を作って下さい。 …なんてちょっとカッコつけすぎかな?」
パチパチと拍手を出せば、みんなも続いて拍手を送る。
「では、次はロットさんどうぞ」
ニコリとわたしが告げれば、
「いや、オレはええよ」と苦笑いを浮かべられた。
「では、次はロットさんどうぞ」
「いやオレは……姫さん、なんやいつかの仕返しやな?」
じとりと目を向けられるが、笑顔で
「では、次はロットさん」なんてもう一度いえば、仕方ないと笑ってレイさんの隣に並ぶ。
「いや〜なんも言うことあらへんのやけど…楽しかったわ!生徒会ではあとちょっと宜しくな!!以上!! ホイ リランはん!」
拍手の中、振られたリランさんが「困ったわね」なんて言いながら出てくる。
「ウチ大して仕事してないのだけどね〜…それでも…そうね。この半年、みんなと一緒に出来て楽しかったわ。ホント、迷惑かけてごめんね。レイ、ロット。それに手伝ってくれたみんなも。 抜けたことに後悔はないのだけど、もしその間もここに居たならもっと楽しかったのかもしれないなんて思えちゃうくらい楽しかったわ。あと少し宜しくね」
なんて嬉しそうに笑った。
「なんや…姫さん、また泣きそうな顔して」
「いや、もうこれぞ青春だなぁって…!!」
「なんやそれ」
苦笑いを浮かべるロットさん、そしてレイさんとリランさんが微笑んでる。
「いや、ちょっといいか?」
「なんやロイはん」
「また泣きそうな…の、またってなんだ?」
微笑み聞くロイさんに対し、ロットさんの顔色は悪くなり、
「さぁなぁ。レイ、なんのことや?」
「さぁねぇ。私が着く以前の事だったから。リランくん」
「いやいや、ウチこそラストよ?ねぇ一番初めから居たロットぉ」
「怖ぁっっ!!お前らはそうやってオレの事売ればいいと思っとるわ!!」
涙目のロットさんに、知らんぷりをする二人。
「もう、引き継ぎしましょう?この歳になると涙腺が弱まっちゃって」
「この歳って…ユリエルいくつなのよ」
「………よし!!それこそ次の話題よ!!掃除の会も無事皆様が受かってくれたお陰で続けられますわ!!ありがとうございます。今年度もわたくし頑張って掃除の素晴らしさを伝える伝道師になりますので、どうか宜しくお願いいたしますわ」
胸に手を当て堂々と告げれば、シルクが「押し切ってなんか誤魔化そうとしてるね…」とか呟くけど聞こえない。
「ともあれ、ロイくん、シルクくん、ミラくん、それに引き続きアベイルくん。どうか体調に気をつけて頑張ってね。今日はこの辺で解散としようか。そうそう、まだ噂程度なんだけど、今年は魔法祭の優勝者にはなんだか凄い景品が出るとかなんとか…なんて、なんにしたって君達には大した事ないのかもしれないね。とりあえず例年以上に盛り上がるかもだから、頑張ってね。はい、お疲れ様でした」
そう爽やかに微笑んで、生徒会引き継ぎ式を閉めて終わりました。